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今月の1冊

2005年04月12日

ネイホウ! 香 港 的 魅 力

成田を発ち、軽くビールを飲んで映画を見終わる頃に飛行機は空港に着陸する。イミグレーションをぬけて、エアポートエクスプレスに飛び乗り、30分後くらいには、私は香港中心部の雑踏の中にいる。賑やかで、そしてかしましくひびく広東語は、日本で言うなら、さしずめ関西弁。書き言葉としては通用しないが(関西弁で書かれた国語教科書というのは見ませんね)、話し言葉としては広東エリアのみならず、世界の華僑たちにも広く使われる。OLが飲茶やブランド・ショッピングを楽しみに行くところ・・・初めての訪問は、あまり気が乗らない出張だったが、それは私の香港に対するイメージを根底から覆した。亜熱帯の、湿気を含んだ熱気とともに町中にみなぎる活気とパワーに圧倒され、それから10年が経つ今も、私の香港通いは続く。


天然の良港であった小さな漁村は、香木を多く扱ったことから、香港と呼ばれるようになり、アヘン戦争を経て、イギリスの植民地として発展した。香港を中心に地図を見るとよく分かるが、アジアの主要都市へのアクセスが良く、飛行機がヒトの移動の主な手段となった今、チェプラコック空港は、世界でも有数の大空港となっている。自由貿易港で、世界の金融・ビジネスの拠点のひとつでもあり、香港ドリームを夢見て、中国本土から、東南アジア各地から、そして欧米から・・・洋の東西を問わず、いろいろな人々が集まってくる。植民地だった影響もあるのか、広東語の世界で圧倒的に中国系住民が多いのに、アジアでない、そんな雰囲気を醸している。香港という土地をざっくり紹介するとこんな感じになるのだが、香港に住む人はもっと複雑である。
よく中国4千年といわれるが、その歴史は平坦なものではない。古代から国家の興亡を繰り返し、次々に新しい国が生まれ、古い国は滅び去り・・・元、清のような漢民族以外の支配も受け、王朝が変わるたびに、制度や通貨が変わる。まさに「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」を体現してきた。近代となり、中国本土で共産党が政権を樹立したとき、上海の富豪をはじめ多くの人が香港に逃れてきた。広東人だけではなく、そういう人たちすべてが現在の「香港人」を形成する。変遷の歴史を負った彼等が信ずるものは、逃げ出したら役に立たない不動産や、いつ価値がなくなるとも知れない貨幣ではなく、金(きん)。一般に、中国人はお金が何よりも大事、とする傾向があるが、特に香港人は、そのような歴史的背景をもつ上に、資本主義社会の街として発展してきたからだろうか、拝金教と揶揄されることもあるようだ。
日本人はお金に執着することを嫌う傾向があるけれど、このような背景を知ると歴史の悲哀さえ感じられるような気がするから不思議だ。香港の街には千足金(純度99.99%)の装飾品や置物を扱う店があちこちに見られる。値段が手ごろなこと、いざというときに持ち運びが便利ということもあるだろう、身につけられるアクセサリーが人気のようだ。千足金は時価で売買できるので、価格が安いとき、高いときの店頭は人と熱気であふれている。
不動産や預金を持つリスクが近代に比べ格段に低減した今、投資も人気がある。株式の売買は主婦も含めて一般的で、相場に一喜一憂し、株価が大きく上がった日には、繁華街やレストランが人であふれる光景を目にする。時間やチャンスを無駄にせず、儲けられるときには儲けよう、という意識がDNAに刻み込まれているかのように感じられる。少しでも儲けが出るのなら、真摯に取り組む香港人。それを支えるのは彼らのフレキシビリティ(変わり身の早さ)、フットワーク、そして人的ネットワーク。何かが流行りだすと、街中に同業他社が、ものすごいスピードで雨後の筍のように現れ、そして下火になるとサーッと消えてゆく。知的財産権の認識がまだまだ薄いこともあり、街には観光客目当ての、コピー商品を並べた大八車があちこちに現れる。時折、警察の摘発があるのだが、それを察知すると、ものすごい速さで店をたたみ、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。警察がいなくなって10分もするとまたやってきて、商売を始めるのだ。そして少しでもビジネスに結びつく可能性があるのなら、一族郎党の、あらゆるコネを駆使して見つけてくる。何かを頼むとき、その人がどういう関係で見つけたのかを聞くと、「弟の、友人の勤務先の同僚で・・・」「イトコのダンナの友人の・・・」そんな、電話をかけまくって探してきたであろうコネクションから何かが始まる。
その人なりの香港ドリームを実現するために、ビジネスチャンスを探し、携帯電話をガンガン鳴らし、ネットワークをつなぎ・・・よく食べ、よく働き、香港人の日常は過ぎていく。そんな香港に、元気をもらい私は毎回帰国の途に着くのだ。
(菅原淑恵)

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