学びの体験記
2005年08月09日
「私のキャリア・ストレッチング」
松尾康男
株式会社日本商工経済研究所 常務取締役
年令は満53歳。政府系金融機関の職員として今年で仕事生活31年になります。そんな私自身の「キャリア」を振り返り、これからの「キャリア・ストレッチング」のありかたについて、あらためて考えてみました。
銀行のなかでいろいろな業務を経験しましたが、8年ほど前に研修部門にて職員の人材育成を担当した時期がありました。当時、自分としては全力を尽くして指導したはずの新入職員が、その後数年もたたぬうちにひとり、そしてまたひとりと、退職していく現実に少なからずショックをうけたものでした。この若手職員の「早期退職」は、なにもわが社だけの問題ではなく当時も一般的に見られた現象でしたが、私が「キャリア」という問題を意識した最初の契機は、この辺にあったような気がします。
私がつぎに自分の「キャリア」という課題に直面したのは、昨年4月人事異動でグループ関係会社へ出向を命ぜられたときでした。いままでの30年の銀行業務からの転出により、仕事の環境がおおきく変化し、なんとなく自分の「居場所」をさがしていた、そんなタイミングでした。以前『マーケティング情報から顧客を「読み・解く」講座』を受講した慶應MCCから、「たまたま」一通のDMが届きました。そのDMは、慶應湘南藤沢キャンパス(SFC)のキャリア・リソース・ラボラトリー代表の花田光世教授が講師を務める「キャリアアドバイザー養成講座」の案内でした。
これって、なんとなくおもしろそうと、知り合いの慶應MCCのファシリテーターのかたに、この講座の担当のかたを紹介され、親切に説明していただきました。当時自分ではまったく意識になかったのですが、この講座との出会いがまさにクランボルツ教授のいう「ハップンスタンス」happenstanceでした。
「この『キャリア』って、具体的にどういうことですか?キャリアのアドバイザーって・・・?」
キャリアってなんとなくぼんやりとしていて、いったい何を勉強するの・・・? 自問が続きました。
「・・・こんなものを読んでみたらどうですか。それで興味があったらぜひ参加してください。」
と、いくつかの参考文献を紹介されました。そのなかに、花田先生のコアな論文は当然ですが、6月号のこの「交歓広場」でも紹介されていた『働くひとのためのキャリア・デザイン』という新書本がありました。そのなかで、とくに「わかもの」のキャリアを取り巻く問題で、企業が社会に入る前の学生に、社会での仕事の内容、実態をできるだけ現実的に教えることが必要という意味の、“Realistic Job Preview”という言葉に共感しました。また、成熟世代に必要な「キャリア」の課題として、“Generativity”ということばが印象的でした。若い世代に意味あるものを生み出し続け、深いレベルの「世話」、「面倒見」をおこなう、いいかえれば後輩たちへ自分の経験等を継承するという、訳せば「世代継承性」という意味のことばです。
「世代継承性・・・」これかな、これからの自分のめざす『キャリア』の方向は…。よし!この講座をとろうと決め、ほぼ毎週1回、午後3時間の講義でしたが、会社の上司の理解もいただき、自費申込をしました。今後の「キャリア」に自信をもって確固たる方向性をえることが、この講座の受講目的でした。
15 回の講義と6回の演習を、30代40代の働き盛りのバリバリの同僚参加者のPassion(この辺りが刺激的で、こういう社会人講座のいいところ)に支えられ、ほぼ修了しつつあった今年の2月に、丸ビルで開催された慶應MCCの定例講演会「夕学五十講」に出席しました。その日は、佐山展生氏の講演でした。同氏は、先般のライブドアのニッポン放送買収の件以降、テレビ朝日の「報道ステーション」などにも登場されているM&Aの専門財務アドバイザーです。その講演でのお話のなかで、いままで「キャリアアドバイザー養成講座」を通じてずっと考えてきた、自分の今後の「キャリア」の方向性が、唐突でしたが明確に浮かんできたのです。
佐山氏いわく(このあたりは、M&Aとは直接関係のないご自身の理念のお話でしたが)
「(ものごとの基本)
ものごとは、本来どうあるべきかを考えることが、大切
(人生の選択)
10年後に自分を置いて、10年後の自分が現在の自分の最善の選択肢を考えることが必要
(その対処の仕方)
闘志が、他人に向いてしまうひとは、それで止まり。自分の中に意識を集中させることが不可欠」
聴いた瞬間、「これだ!」と、急いで自分の手帳に以上の「ことば」を書き込みました。(余談ですが、この数カ月後、これも「たまたま」ですが、佐山氏に当社主催セミナーの講師依頼のため、ごく短い時間でしたがオフィスを訪問、面談した際に、この手帳の書き込みをご本人にお見せしました。)そして、自然とこみ上げてくる涙をこらえながら、その不意の涙に、「やっと見つけた」との達成感を感じたのです。「自分なりの答えを自分で見つけること」、これが「学ぶ」ってことかなと、いまでも思います。
のべ5カ月にわたる同講座のなかで、花田先生が、大切なこととして、つぎのことを語っておられます。正確な表現ではないかもしれませんが、そのときのメモによると、
- ひとが成長しているか否かは、評価の仕方によって見方が変わる
- 『組織』の視点から見た評価をすると成長は『相対化のものさし』でしかはかることができないが、『人』の視点から見た評価をすると成長を『絶対化のものさし』で考えることができる
- 他と比べるのではなく、個々のなかで1年前より、昨日よりも、自分自身がどのくらい成長できたを実感し、評価をすることが大切
- 各自が自分の成長をきちんと実感することにより『その人らしさ』、『自分らしさ』が生まれる」
これが花田先生のいう「キャリア・ストレッチング」なのだと、半年もかかってやっとのことで理解できました。 最後に、これからの私の個人的な「キャリア・ストレッチング」の目標についてです。それは、これから就職を前にした学生のみなさんに、自分の仕事生活30年の経験を中心に、「ライフ・キャリアデザインの話」をすることです。もちろん機会がないとできない相談ですが、機会があったとして、なにを学生に話すのか?それは、以下のとおりです。
- 私の「偶然」の職業選択(30年前の記憶)
- はたらくひとのための「ライフ・キャリアデザイン」と「キャリア」を考える際の「3つの問い」
- 自己の価値観(Value)にマッチしたキャリア選択、職業選択が必要
- 就職活動の節目で考えてほしいことは、現実的な仕事の情報を把握すること
- 就職の選択は、間違っても大学と企業の偏差値の交換なんかじゃない!
- 「本当の自分探し」から始めると、身動きが取れなくなるので注意
- 職業選択の「意思決定」は、ゴールではなくスタートにすぎない、大切なのはむしろ「具体的な行動」
- 企業の本音は、学生の皆さんになにも「即戦力」なんか求めてはいない
- 大学では資格取得の勉強もいいが、自分の好きな勉強やゼミ、スポーツ等思う存分に楽しむべし
幸い、私の「メンター」でもある東京外大の金丸健二先生の中国語専攻の3、4年の合同クラスで、小人数ですがすでに2回学生の皆さんに、(もちろん日本語で)このテーマで90分間お話をしました。これが意外に好評で、学生の皆さんからは多くの「受講感想メール」をいただいています。そんなメールが語る学生の「生の声」は、大変勉強になるし、なによりも若い学生の皆さん、実にしっかりしているなあ、というのが実感であり、この「実感」こそ、私にとって貴重な「いただきもの」Serendipityです。
これからも、そんな私なりのできる範囲での「キャリア・ストレッチング」を継続していこうと、思います。
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