2015年10月13日
マンハッタンで出産する(1)
予定日が近づいてきました。
ところが、こない・・・
破水が、陣痛が、全くこないのです。
「2人目は2週間も早く産まれた」
「いや、私は1ヶ月近く早かった」
と話す友人たちの話をいろいろと聞いていたので、日本にいる両親にも早めに来てもらって準備は万端。
観光もひとしきり終わり、さあ、あとはもう産まれるのを待つばかり、となりましたが肝心の赤ちゃんが出てくる気配が全くありません。
予定日間近の検診日、先生から
「あなた何歳だった?36歳ね。それじゃ待っても10日ね。もし予定日過ぎて10日経っても産まれなかったらX日に誘発剤で産みましょう」
と話がありました。
自宅に戻るとすぐに病院の受付スタッフから電話があり
「X月X日、予約が確定しましたので午前6時に病院に来てください」
とのこと。
朝6時ってずいぶん早いな・・・
いつも診察してもらう先生のオフィスと、当日出産する病院は数ブロック離れているので先生はオフィスと病院を行き来しているのです。
先生もそんな早朝からご苦労さまです。
24時間態勢の産科医というのは本当に大変なお仕事です。
そして、、、、特に何が起こるわけでもなく静かに予定日は過ぎ、また検診に行きましたが、兆しは見えません。
帰り際先生に、
「あ、X日は朝6時に病院に行けばいいんですよね。」
と何気なく聞くと、
「私はここ(オフィス)での診察が終わって、そうねぇ、夕方5時くらいに病院に行くから、あなたはまぁお昼くらいに行ってれば大丈夫よ。」
「え?でも、病院側からは朝6時に来てって言われましたけど・・・」
「あはは、気にしなくていいわ。これからもし病院の誰かから連絡あっても聞かなくていいから。絶対に!」
と語尾を特に強調して「私のいう事だけ信じてればいいから」といったニュアンスを含む力強い返答が。。
はい、出ましたー。
オフィスと病院の連携、全然とれてなーい
あの人と、この人で言ってること、全然ちがうよ、ってこと、よくあります、はい。
単に英語が聞き取れず自分が勘違いしていることもあるけれど、多くは両者が言ってることが本当に違うのです(泣)
あぶない、あぶない、、、
聞いといてよかったーー
そしてついにXデーの前夜となりましたが、とうとう赤ちゃんは出てきませんでした。
当日はダンナに会社を休んでもらって、近所のカフェで黙々とサンドウィッチを食べ、いつものバスで一緒に病院に向かいます。
なんとも日常の延長的な、淡々とした出産前です。
でも、病院が近づくに連れ、ダンナは少しずつ盛り上がってきたようで、信号待ちや瀟洒なエントランスで、「はい、ちょっとこっち向いて~!!」とお気に入りの一眼レフを首から下げてバシャバシャ、シャッターをきりまくっています。
すっかりイベント気分。
こっちはこれから一世一代の大仕事だというのに・・
でもおかげで少し気分が和らぎました。
受付を済ませると、
「Hi, 私は看護婦のXXXよ。」
「同じく看護婦のXXXです。どうぞこちらへ」
と、若い看護婦さんが2人近づいてきて、部屋に案内してくれると言います。
廊下を歩きながら、東京で長女を出産した時の記憶が蘇ってきました。
分娩台に移される直前まで3畳程の窓のない小さな薄暗い陣痛室のベッドの上で悶絶していた4年前・・・・
アメリカは無痛分娩だから悶絶時間も短いはず、、と自分に言い聞かせながらも、これから未知の体験が始まるかと思うと自ずと緊張も高まります。
「どうぞ」
と通されたのは、、、
ここに来て以来、期待を裏切られることはあっても、期待以上ということはほぼ皆無でしたが、これはいったいどういうことでしょう・・・
木目調のウォールナットブラウンの壁に、オレンジの暖かい照明。
3畳どころか1LDKくらいの広々とした明るい室内。
ソファーがあって、テレビもクローゼットもチェストもあって、部屋の中央には真っ白なシーツが敷かれた大きなベッドがゆったりと横たわっています。
大きな窓からはアッパーイーストの高層マンション群と緑の木々が広がり、やわらかな陽の光が差し込んでいるではありませんか。
どこに来ちゃった?
ここホテル・・・?
「陣痛の間はここで待つんですか?」
と、可愛い看護婦さんに聞いてみると、
「ここで産むのよ」
との答えが・・・
こ、ここ分娩室なのー?!
「ちょっ、特別プランとかにしたの?」
とあきらかに心配顔のダンナ。
「いやいや、してないよ。」
「ここは普通の分娩室なんですか?」
と看護婦さんに聞くと「Yes」と一言。
驚きを隠せないまま、目をまん丸くしてよくよく部屋の中を見渡すとベッドの右隣にはたくさんのケーブルに繋がれたコンピューター機器やモニターが4-5台陳列しています。
そして隣には新生児が移動する小部屋も付いていて、そこにもたくさんの医療機器が備わっています。
へぇ~、すごいなぁ。
いい意味で思ってたのとだいぶ違うわ。
もっとこう手術室っぽいところを想像していたというか・・・
ピカーっとギラギラ眩しい白っぽい照明の下で、足台の付いた固い無機質なベッドの上で、踏ん張るのだとばかり思っていました。
「ガウンに着替えてて下さいね」
と言われ、看護婦さんたちが部屋を出るやいなや嬉々として撮影を開始するダンナ。
旅行でホテルに到着した時と全く同じテンションです。
それにしてもこの空間、妊婦も、同伴の家族もリラックスできるようにとてもよく考えられています。
ほどよく柔らかいベッドに横たわるとなんだか眠くなってきました。
「自宅分娩する人ってこんな感じなのかなぁ」
ウトウトしながら未体験ゾーンへの旅はスタートしたのでした。
※最近は日本にもこのような設備を備えた病院があるようです。LDRと呼ばれ、陣痛(Labor)、出産(Delivery)、回復(Recover)までを同じ部屋で過ごすという歴としたひとつのお産の方法だそうです。
- 寺尾 美香(てらお・みか)
- 慶應丸の内シティキャンパスで4年9カ月間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。2014年4月よりNY在住。
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