ピックアップレポート
2006年06月13日
健康の新たなキャリアを創造する―大学院「健康マネジメント研究科」
慶應義塾は、新しい医療や福祉の在り方を模索できる先導者の育成を目指して歩んで来ました。
2005年4月、今日の複雑かつ多様化する社会の要請に応じるため、理系・文系の大学卒業生がともに「健康」という大きなテーマに挑戦しうる大学院「健康マネジメント研究科(修士課程)」を開設しました。
健康マネジメント研究科のコンセプト
我が国の保健・医療・福祉をめぐっては、人口構造の急激な少子高齢化、疾病像の変化、医療技術の高度化、国民の要求の多様化など様々な環境の変化があります。
また、国民の生活と健康に関わる価値観も多様化し、特に、余暇の重視と健康志向の増大等が見られるようになっています。
さらに、長寿化による老後の余暇時間の増加は、健康増進に寄与するスポーツ等の余暇活動への国民の関心を高める一方で、健康・スポーツビジネスの新たなマーケットとしても注目されています。
このような社会的ニーズに対応するためには、「健康」と「マネジメント」を再定義し、新たな「健康マネジメント」の概念を提唱する必要があります。
まず、「健康」は、高齢化や医療技術の高度化に伴い、長期に慢性疾患や障害を抱えながら日常の生活を送ることが多くなっている状況を考えて、健康な状態とそうでない状態を対立概念として捉えるのは適当でなく、「健康」を連続的な概念として捉え直す必要があります。
また、「マネジメント」には、システムや組織のマネジメントと、個人のマネジメントの両方の意味があり、しかも両者は一方のみでは成立しない性質のものです。
個人のマネジメントについては、保健、医療と福祉、施設と住宅、疾病・障害に対する取り組みと健康増進活動、余暇と仕事、余暇・スポーツ活動と疾病予防などの境界をなくし、分断されているサービスをその人にとって最適な組み合わせで統合し、提供するいわば境界なきマネジメントが求められています。
そして組織のマネジメントと個人のマネジメントの二つの視点を持ち合わせることによって、システムや組織のより適切な運営・改良と、各個人にとってのより適切なケアをそれぞれ実現することが可能になります。
よって、「健康マネジメント」は、疾病あるいは加齢等で日常の生活に支障を来している人々の可能なかぎりのQOL(Quality of Life=生活の質)向上を図り、日常生活に支障はないが疾病を有する人々へはより健全な生活を目指す環境作りを行い、さらには疾病予備軍や今現在健康な人々には健康の維持・増進を促し、しかも楽しく意味ある余暇時間が過ごせるよう、個人や組織のマネジメントを実現する、広域な意義を有する概念です。
これらの再定義による新しい「健康マネジメント」の概念の下に、本研究科では、保健・医療・福祉サービスの在り方を構想し、事業の開拓と合理的な運営を目指す研究者と実務家の育成を図ります。また個人に焦点を当てた臨床実践においては、取り巻く環境の変化も踏まえて周辺諸領域と連携できる広い視野を持った人材の育成を目指します。
1専攻・3専修による教育・研究
本研究科では、「健康」を軸として、保健・医療・福祉の広い領域を見渡した学際的・先進的学問分野・領域の開拓を目指しています。そのため、看護学、医学、薬学などの医療系学部と、社会科学、人文科学、理工学などの非医療系学部出身者の両者を学生として想定し、それを前提とした教育を行います。
具体的には、「看護・医療・スポーツマネジメント専攻」の中に次の3つの専修を設置し、医療系学部出身者には社会科学に関して、非医療系学部出身者には医療に関して基礎的な考え方を学ぶ機会を用意します。その上で、健康マネジメントに不可欠な共通の分析手法を習得し、各専修の専門科目を学びながら、各自の研究を進めます。
看護学専修 「看護ケアの実践、開発、構築の場」
医療マネジメント専修 「ヘルスケア事業の運営・創造並びに保健・医療・福祉のシステム設計の場」
スポーツマネジメント専修 「従来の医療サービスの枠組みを超えたスポーツビジネス・健康増進の活動の場」
この3つの専修は、お互いの近接領域を共有しながら、看護・医療・スポーツマネジメント専攻を形作ることで、自らの領域をより広げ、そして全体的なものとして発展していくこととなります。そして、カリキュラム上でも研究領域上でも相互に有機的に影響しあい、柔軟に連携して常にあたらしい学問領域を切り開く明示的システムを構築します。
カリキュラムについて
1.基本的枠組
研究科・専攻での共通基盤たる科目群
- 導入科目
- 分析手法科目
各専修での教育・研究の中核となる科目群
- 専門科目
インターンシップに関連する科目群
- インターンシップ関連科目
研究指導のための科目
- 特別研究
2.カリキュラムの内容について
(1)導入科目
本研究科は学際的領域であり、様々な背景・専門の学生が入学します。そこで、不足する領域についての最低限の知識と基礎的能力を修得し、その後の履修をより効果的にするための準備として、1年春学期に「導入科目」を設置します。
(2)分析手法科目
合理的な意思決定のためには、従来のように単に経験則に頼るのではなく、実証的な姿勢が求められるようになっています。
また、経営的な合理性と臨床的な合理性の両立が必要であり、臨床現場との連携によって集積された臨床データの分析に基づいた組織運営、制度設計が求められています。そこで、その基本的な手法と理論的基礎を養うために、3専修すべてにおいて「分析手法科目」の履修を重視します。なお、学習成果をその後の専門分野における研究にも活用できるよう、1年秋学期を中心に開講します。
この導入科目及び分析手法科目は、単に本研究科の基盤となる科目領域というだけでなく、各専修における教育・研究を有機的に結びつけ、専攻としての特徴を明確にするために必要なシステムであると共に、将来構想たる博士課程につながるものとしても位置付けられます。
(3)専門科目
A)看護学専修
看護学専修には看護学の専門性に対応した看護学各分野における実践家、研究者、教育者の育成を目指すための複数分野がおかれ、それらはまた新しい視点から以下のような3つの大きな領域にまとめられます。
「ライフステージケア」領域
- 母子看護分野、老年看護分野
「クリニカルケア」領域
- 基礎看護分野、高度医療臨床看護分野、慢性臨床看護分野、精神看護分野
「コミュニティケア」領域
- 地域看護分野、在宅・家族看護分野
そして、各分野の専門科目については、看護学各分野の特性により、各分野を体系立てる「対象論・方法論・演習」からなります。また、それらの共通の基盤としての科目群も用意されます。
さらに、看護学の分野におけるより高度な実践力を持つ専門看護師(CNS)の育成を目指した専門看護師プログラムが、精神看護分野、老年看護分野の2分野に併設されています。
B)医療マネジメント専修
学際的領域である本専修のカリキュラムは、医療経営、医療サービス研究に関わる科目群を中心としながらも、他2専修との近接領域に関わる科目も配置し、その教育課程を構成します。
本専修の修了者には、医療の基本構造を理解するとともに普遍的なマネジメント技法を習得した上で、それらを統合して医療マネジメントに適切に活用できることが求められます。
また医療系学部出身者には、臨床現場での断片的な経験と知識を演繹的に理論化、体系化するための枠組みと考え方を修得することが重要であり、非医療系学部出身者には、現場の専門性、複雑性、多様性を理解できるようになることが大切です。
そこで、各科目では、保健・医療・福祉施設の経営に即した事例を取り上げながら、マネジメントの一般的理論と、保健・医療・福祉の領域の独自の課題や特性を適宜対応させながら講義します。
主な科目として、保健・医療・福祉等におけるヘルスサービスの健全かつ安定したマネジメントに必要な、制度、財務管理、人的資源管理、マーケティング、経営戦略等に関する諸科目、サービスの質の向上に不可欠なリスクマネジメント、保健・医療・福祉の制度の在り方・改革の方向についての検討や新たな制度設計に不可欠な医療経済学、医療政策学をはじめとする科目から構成されます。
C)スポーツマネジメント専修
新しい学問領域であるこの専修のカリキュラムは、10年程前から急速に発展しているアメリカ合衆国における同様な分野の教育・研究内容も一部参考とした上で、「健康」を軸とした新しいコンセプトにより構成されます。
医療系学部出身者には、疾病や健康に関する知識・経験を統合し、不健康状態(ill-being)への介入から健康状態(well-being)の向上までを連続的に捉えられる考え方を修得すると共に、社会に実践・普及するために不可欠な学際的視野を身につけることが求められます。
非医療系学部出身者には、健康科学に関する基礎的知識を理解し、利用者並びに社会全体の健康水準の向上という視点からも合理性のある健康・スポーツビジネスの在り方を追求できる能力を身につけることが求められます。
そこで設置する科目は、(1)スポーツ医学、人間工学、健康行動科学などの最新の知見を基に各個人・集団の健康状態の維持・向上に関する合理的方法を考察する領域、(2)高齢社会の到来やスポーツビジネスのニーズの変化への合理的対応を医学的側面から社会的側面まで多面的に考察する領域、(3)これらを基礎的知識として、最終的には社会全体の健康水準の向上に寄与するような健康・スポーツビジネスのマネジメントを考察する領域で構成します。
(4)インターンシップ関連科目
インターンシップの主な領域に関しては、インターンシップ関連科目を用意します。ここでは、インターンシップにおける実務教育とそれに関わる体系的講義との相乗効果や、様々なインターンシップに参加する学生が本科目の中で議論することによる体験・学習内容の客観化・相対化、等が期待されています。
(5)特別研究
修士論文及びそれに相当する研究成果としての課題研究論文(インターンシップ)、課題研究論文(CNS実習)を作成するための研究指導を受ける科目とします。
修了後の進路
本研究科が提唱する領域への社会的ニーズは、きわめて高く、修了後の主な進路としては、健康・保健・医療・福祉・スポーツビジネスに関連する企業のほか、保健・医療・福祉に関わる施設や機関などへの就職と、研究者を志望しての博士課程への進学があります。
たとえば、金融機関実務経験者の医療機関への就職や、新しい領域における起業など、それまでの経験を活かしながら、本研究科での基礎的・総合的な健康マネジメントに関する知識の習得後に、出身学部や前職からは従来想定されていなかった分野に進む、新たなキャリアの創造が可能になるのも本研究科の特色です。
健康マネジメント研究科に関する説明会(2006年度-第1回~第4回)を開催します。
健康マネジメント研究科に関する説明会(2006年度-第1回~第4回)を以下のとおり開催します。塾生に限らず、他大学及び一般の方々も含め広く対象としていますので、ぜひご出席ください。なお、事前の予約・連絡等は一切不要ですので、当日会場まで直接お越しください。
第1回
日時:2006年7月14日(金)18:30~20:30
場所:湘南藤沢キャンパス・看護医療学部校舎 201・202教室
第2回
日時:2006年8月5日(土)13:00~15:00
場所:三田キャンパス・北館ホール
第3回
日時:2006年9月8日(金)18:30~20:30
場所:信濃町キャンパス・孝養舎 202教室
第4回
日時:2006年10月13日(金)18:30~20:30
場所:三田キャンパス・北館ホール
内容
・挨拶-「健康マネジメント」とは何か
・研究科の教育・研究内容
・入試について
・専修別概要説明
・質疑応答
・個別相談(教員・在学生による)
http://gshm.sfc.keio.ac.jp/news_items/setsumeikai.html
問い合わせ先
慶應義塾大学湘南藤沢事務室看護医療学部担当
〒252-8530 神奈川県藤沢市遠藤4411
tel : 0466-49-6265 / fax : 0466-47-0268
http://gshm.sfc.keio.ac.jp/
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科Webサイト http://gshm.sfc.keio.ac.jp/より転載
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