2016年08月09日
『イノベーション思考』Session3-4
白澤 健志
Session3:イマジネーションを膨らませる
前回のレポートにも記した通り、セッション2の終了時に桑畑講師から「事後課題」が言い渡された。内容は「シナリオプランニングを用いた『実現・解決したいテーマ案の検討』」。セッションで学んだ手法を各自のリアルな課題に応用してみよう、というものだ。
早速、自宅でやってみる。「立場と目的の設定」をしたあと、「外部環境の分析」→「ドライビング・フォースの選択」→「シナリオの構築」→「実現すべきテーマの発見」、とセッションの時と同じ手順で考えていく。…のだが、どうもセッションの時とは勝手が違う。
アイデアが出ない、というのではない。勝手知ったる自分の業界・会社のことを考えるから、シナリオプランニングの力を得て、むしろアイデアはどんどん出てくる。だが、出てきたアイデアが、どうもセッションの時ほどには自由にLeap出来ていないような気がするのだ。
なぜか。いろいろ理由を考えたが、結局のところ、セッションにおける他の参加者との相互作用が思いがけないLeapをもたらす隠し味になっていたのかもしれない。そのことに思い至ったのは、実は、セッション3に臨んだ他の参加者からも同様の声が聞かれたからだ。
その中で「職場の後輩数名に声を掛けて一緒にやってみた」という方がいた。一人でやるよりもみんなでやったほうが楽しそうだったから、だそうだが、実際に「かなり盛り上がって、いいアイデアが出ました」とのこと。なるほど、これこそが理想の取り組み方なのかも知れない。
さて、セッション3の主題は「イマジネーションを膨らませる」ための新たな技法だ。
常識や経験に縛られず自由に考えたいと思っても、斬新で独創的なアイデアはなかなか浮かばない。人は無意識のうちに、直面するイシューに関係する業界や自社の常識、さらには自身の価値観や経験則を通した枠組みに縛られてしまう。その打開策のひとつが非日常に自分を置くことだが、ここではなんと、対象物になりきってしまおうというのだ。その名も「擬物化法」。
例えば新しいロボット掃除機の開発ならば、既存品のユーザーにインタビューする代わりに、ロボット掃除機そのもの(になりきったプレイヤー)にインタビューするのである。ロボット掃除機のプレイヤーは相当な時間をかけてロボット掃除機のことを考え、その「気持ち」を想像し、自分の中に落とし込んでからインタビューに臨む。すると、例えばこんなやり取りが生まれる。
Q.「実働はどれくらいですか?」
A.「1日2時間くらいかな。時間的には意外とゆるいです」
Q.「日頃、一番つらいことは?」
A.「子どもに踏まれること…」
想像していただきたいのだが、このやり取りの最中、プレイヤーとインタビューアは真剣そのものである。だが、二人が真剣であればあるほど、それを周りで見ている他の参加者は思わず笑ってしまう。しかしその笑いの中に、ユーザー目線では気づかなかった意外な事実、つまり新たな商品の種が隠れている。参加者は大笑いしながら、その種を零れ落ちないようにノートに書きとめる。
インタビューを終えた各チームは、そこから具体的なアイデアを出す。桑畑講師はそれを「ブレインライティング」という手法でやるように指示した。これは、他者のアイデアを発展させて新しいアイデアを生み出すというブレインストーミングの手法を、ホワイトボードではなく、人数分のシートを参加者同士で回覧しながら実践するものである。
論より実践、ということでともかく最初のアイデアを3つずつ記したシートを回し始める。みな無言でアイデアの展開方法を考え、書き込む。擬物化法とは逆に教室はシーンとしているが、参加者の脳内は先ほど以上に忙しい。終わってみると、私のグループはメンバー4人で10分弱の間に計12個のアイデアを4段階に展開していた。もちろんすべてのアイデアが素晴らしいわけではなく、平凡だったり似通ったものも多いが、ハッとするような新しい発想もあった。それを共有したところでセッション3は終わった。
本日は、よく笑い、よく考えた。まとめの時、参加者の一人がこう述べていた。
「お客様の目線で考えろ、と言われるが、それは意外と難しい。それが、モノそのものになることで、新しい発想が出てきた。そして『ブレライ』でどんどん発展していった」
畏るべし、擬物化法、そしてブレインライティング。
Session4:類似と対極から発想を跳ばす
セッションは毎回、ウォームアップ課題から始まる。単なるアイスブレイクのようで、実はその中に当日のテーマのエッセンスが盛り込まれている。
本日のウォームアップは「なぞかけ」。○○と掛けて△△と解く、そのこころは…というアレである。出されたお題(○○)は「新入社員研修」。早速、参加者みんなでホワイトボードに書き出そうとするが、思いのほか難しく、各自1つずつ出したところで時間切れ。
ここで桑畑講師が、「なぜかけ」の答え方には二種類あると言う。語呂合わせで考えるパターンと、中身を使って共通点を考えるパターン。このうち後者を体系的に用いれば、アイデアの数は飛躍的に増える。ここで登場するのが「メタファー法」である。
メタファー法とは、課題を何か似たものに置き換え、置き換えた対象(メタファー)の機能や仕組みを用いて発想をLeapさせ、最後に元の課題のヒントを得る思考法である。たとえば「トイザらス」。あの、思わず「ついで買い」をしてしまう独特の店内構成は、創業者が「食品スーパー」をメタファーとして店作りや仕組みのアイデアを出した結果だという。
与えられたお題を「新入社員研修の改善策」と読み替えて、「人材育成」→「育てる」→「農業」に置き換えてみる。あまり遠いものに置き換えると連想が効きにくく、アイデアが出にくい。ある程度近いものから多くの連想を働かせるのがメタファー法のコツである。
しばらくは「農業」に意識を集中し、その構成要素を考える。人・モノ・機能・活動・重視される点・起こりがちなこと…。中心のキーワードから全方位に連想を連ねるニューロマップや、言葉ではなく簡単な絵に表して連想を誘うグラフィック・メタファーなどのツールを駆使しながら、頭の中に浮かんだ言葉をホワイトボードに書き出していく。
出し尽くしたら、本来の課題である「人材育成」に意識を戻す。挙げられた農業のターム、例えば「草取り」から「取り除く」という概念を抽出し、「新入社員研修なら何を取り除くのか?」と自問すると、そうか、「不安」を取り除く方法を考えてみようか、というような発想につながっていく。
練習課題ではAとBのグループに分かれて「Mハンバーガーチェーン」の集客UP策を考えた。テーマは同じだが、選んだメタファーはAが「T遊園地」、Bが「夜の飲食店」と、かなり方向性の違うものに。結果、そのあとに導き出されたアイデアもそれぞれにエッジの効いたものとなった。メタファーに何を選定するかが、メタファー法の肝なのだろう。
短い休憩のあと、桑畑講師がレクチャーした本日もうひとつのテーマは、ご自身の命名によるというその名も「AP法」。APはAnti-Pole(対極)の略である。
共通点の多いメタファーを一つ選びそこから多様な連想を得るメタファー法に対し、AP法は共通点の少ない「対極の存在(AP)」を選んでそこから跳んだ発想を得ようとする。共通点が少ない分、連想は効きにくく、ひとつのAPから得られるアイデアはせいぜい1-2個。そのためAPは多数案出する必要がある。
これもセッションでは、「Sコーヒーショップチェーンの新商品・新サービスを考える」という課題として取り組んだ。ここではAPとして出てきた言葉だけを並べてみるが、「両国」「俺の…」「ゲームセンター」「焼肉」「立ち飲み」「激辛」「老人」などなど…。およそSのイメージとはかけ離れたキーワードばかりだが、だからこそ「焼肉」→「客が自分で焼く」→じゃあ「自分で豆を挽く」Sっていうのもアリかもね、というふうに対極を辿った発想が出てきたりした。
今日は、講義も含む3時間のセッションの中で、のべ10枚のホワイトボードを余白が無くなるほど埋め尽くした。これだけアイデアが出てくるということだけでも、本日学んだ技法の巧みさが窺えるというものだ。そして次回はまた異なる技法がレクチャーされるという。桑畑講師のポケットの広さは、とどまるところを知らない。
白澤 健志(しらさわ・たけし)
1969年東京都生まれ。会社員。夕学リフレクションでは、金井真介氏、甲野善紀氏、土井香苗氏、紗幸氏、武田双雲氏、西村佳哲氏、中村和彦氏、遠藤功氏、松本晃氏、川村隆氏、他多数のレビューを担当。
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