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夕学レポート

2007年06月12日

淡輪 敬三 「多様性を活かす経営」

淡輪 敬三 ワトソンワイアット株式会社 代表取締役社長 >>講師紹介
講演日時:2007年4月26日(木) PM6:30-PM8:30

淡輪氏の今回のお話は2部構成で進行しました。はじめに日本企業の人材マネジメントの現状を紹介され、それを踏まえた上でメインテーマである「多様性のマネジメント」についての議論を展開されました。
第1部、第2部ともに、豊富なデータや具体例を盛り込んだ、他ではなかなか聴くことができないだろうと思わせる内容で、講演に参加された皆さんは、「大きな収穫があった」とお感じになったのではないかと思います。


まず、第1部では、日本企業の人材マネジメントの現状について、「人材マネジメント調査」結果により解説されました。この調査は、ワトソンワイアット、リクルートワークス、野村総研の3社が共同で行ったものです。回答企業228社の人材マネジメントに対する考え方、取り組みについての回答から、企業のポジショニングマップを作成しました。結果として、企業のポジショニングはマップ上に全体に散らばり、次の5つのグループに分けることができたそうです。
組織のミッション重視+分散型デザイン → 体育会型
組織のミッション重視+集権型デザイン → 伝統日本型
個人の自律性重視+分散型デザイン → プロフェッショナル型
個人の自律性重視+集積型デザイン → コミュニティ型
どちらか一方に偏らない中庸型 → 新日本型
淡輪氏の解説では、たとえば「楽天」は体育会型です。組織のミッションの重視度が高い一方、さまざまな事業を展開しているためか、個々の事業に応じた分散的な業務設計・運営が行われています。
また、伝統日本型には大手都銀や居酒屋チェーン大手の「ワタミ」など、組織ミッションを重視し、かつ集権型の業務設計・運営を行っている企業が入っています。
リクルートやユニクロは、コミュニティ型。集権型の業務設計・運営ですが、個人の自律性が重視される経営が行われているということになります。
プロフェッショナル型の典型は、ソニーやソフトバンク。多様な事業を手がけていることが影響しているようですが、業務設計・運営は分散型デザイン。しかし、体育型と異なり個人の自律性が重視される企業です。
最後の新日本型は、バランス型、あるいは中庸型とも言える経営を行っていると考えられる企業。ベネッセ、花王、日立などが該当します。
以上のように、かつては組織のミッション重視+集権型モデルの「伝統日本型」が大半であった日本企業も、現在はさまざまな人材マネジメントモデルが存在し、それも将来はさらに「日本的人事」から離れていく可能性が高いと見通すことができるようです。
このように広がりを見せてきた日本企業の人材マネジメントスタイルですが、これらが「多様性」を活かす経営に対応できるのか、という点について淡縄氏は疑問を感じています。
一見すると新しいマネジメントモデルであっても、まだまだ昔ながらの「日本型」を引きずっている企業が多いのが現状で、会社は素直な社員を求め、社員も会社依存の体質を捨て切れていません。
さらに、終身雇用が根強い日本企業は欧米に比べて人材の流動性が低く、企業を横断する原理原則が生まれにくい環境です。いわば、会社ごとの血が濃くなり、「多様性」を許容しにくい閉鎖性を生み出す一因となっており、実際、日本企業では、相変わらず男性優先の人材マネジメントが基本にあり、女性や高齢者、外国人の活用は遅れています。
しかし、多様性を受け入れ活用することは、もはや避けて通れないようです。
そこで、第2部として、多様性を活かす経営に論点を移しました。
その背景として、まずは日本人口が減少傾向にあること、そして高齢化が進展するというマクロなトレンドを示しながら、今後、日本の国内市場の多くは横ばいか縮小することが基本傾向だと指摘します。そして、国内の若い働き手が減る一方、中国やインド、またアジアは若い人材があふれ、アジアの市場の大きな成長が見込まれているなかで、日本企業としては、海外市場への展開が必須となります。日本人男性の正社員だけでなく、女性や高齢者、外国人の登用といった多様性を進めなければジリ貧になることは避けられません。淡輪氏は、企業は「2050年ビジョン」をどのような姿に描いているのか、と自らの危機感を投げかけます。
すでに海外に展開している日本企業でさえ、優秀な人材獲得に苦労しています。それは、日本企業に入ってもディレクターになれない(昇進できない)という評判が広がっているからです。そこには、「日本語」の制約も存在しています。深い議論をするためには日本語でなければという意識が本社サイドでも強く、そのために海外拠点のトップには日本人を置きたがる。日本語で作られた諸制度も、単に翻訳しただけでは通用しないということが起きているのだそうです。
さて、淡輪氏が提唱する多様性活用のあるべき姿の概念が、「ユニバーサルモデル」です。これは、「バリアフリー」、すなわち誰からもアクセス可能で、基本的にフェアな仕組みであるということ。例えば、子育てしながらの勤務は不利になるといったことがない、働く側のライフプラン、ライフスタイルに応じてそれぞれの働き方が尊重され活かされる、そんな人材マネジメントスタイルが必要なのだそうです。
そのためには、社員支配(管理)思想から、個の自律、自分の人生は自分でコントロールするという価値観へマネジメントをシフトしなければなりません。
淡輪氏は、このユニバーサルモデルを成立させる必要条件として、まず「強力な求心力」を挙げます。分散型業務+社員自律の仕組みでは、求心力としての企業のコアバリューや基本的な価値観といった”判断軸”が強調されなければなりません。実際、米国GE(General Electric)は、全世界に多様な事業を展開していますが「GE way」と呼ばれる、明快なビジョンや価値観を浸透させることに力を注いでいます。
同時に多様な考え方や働き方を受け入れるための「徹底的な対応」も必要だとしています。
それは、既成概念、「伝統的」価値観からの脱却であり、ビジョン、責任と権限、各自の業務の範囲や責任、目標、成果、評価基準などがクリアでシンプルであれば、多様な働き方を望む優秀な人材にとって不利になることが少なくなります。
これらは「透明でシンプルな経営・仕事・組織・ヒトの仕組み」を実現するということになり、「当たり前」のことを着実に進める変革でもあります。
このモデルを早く手がけた会社が将来のアドバンテージを得ると淡輪氏は考えています。
しかし現状をみると、日本の国内市場はこれから縮小傾向にあるとは言え、この先20年くらいはそこそこうまくいくことが予想され、そのため危機感を持ちにくく、結果としてユニバーサルモデルへの転換が遅れるのではないか。いつのまにか茹で上がっている「ゆでガエル」になってしまう危険性も淡輪氏は危惧しています。
海外への展開と多様性への対応は、日本企業にとって避けては通れない道です。そこで、淡輪氏は「明日から」はじめるヒントとして、最後に次の3点をあげられました。
先ず、上述した求心力のために淡輪氏が「誉(ほまれ)」と呼ぶ、夢や信念、価値観やビジョン、戦略などを言葉に表すこと。できれば英語での言語化を提唱します。「多くの人が理解できる言葉」(英語)を通じて、企業の考え方を全社員に共有を図ることです。
次に、組織や仕事、会社の仕組みが「見える」ようにデザインすること。これは上述の「透明化」の推進です。
最後に、学び続けること。
アジアの国々に抜き去られた英語力は、たかが英語とは言えない状況になっています。また、企業が多様性を活かし、成長するためには、リーダーの「人間力」を鍛えることは不可欠です。「人間力」は、修羅場の経験やグローバルな経験から鍛え、学ぶことができるということです。
多様性への対応は、いかにも難しい問題であるという印象を受けますが、今回、淡輪氏は、この問題に対して、実に明快でシンプルな解決策をご提示いただいたように思います。経営にだけでなく身近な仕事においても「多様性を活かすとは」を考える機会となり、有意義な時間を過ごせたと思います。

主要図書
ビジネスマンプロ化宣言』 かんき出版、2002年
コーポレート・ガバナンス改革』 (共著)、東洋経済新報社、2003年
「釣りバカ日誌」ハマちゃん流』 (共著)、日本経済新聞出版社、2004年

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