ピックアップレポート
2018年12月11日
丹羽 真理『パーパス・マネジメント――社員の幸せを大切にする経営』
Purposeを共有し、幸せに働く――その取り組みを主導するCHO
働き方改革が叫ばれています。
「残業時間をなくそう」
「労働時間をできる限り圧縮しよう」
と、皆一生懸命取り組んでいます。たしかに長時間労働は過労死にもつながりかねませんから、一見もっともらしくも思えます。でも何かヘンだな、と思う人も多いのではないでしょうか?
働く時間を短くする、残業代を減らすことが目的化してしまい、「時短ハラスメント」といった言葉まで生まれてしまいました。でも働き方改革の本来の目的は、多様な働き方を可能とすることで、誰もが幸せに働ける社会を実現することだったはずです。
わたしたちの働き方が問われる時代となったいま、このような「何のためにそれを行うのか?」という目的を、会社組織とそこで働く個人との間で絶えず確認することがとても重要となってきています。
2018年に話題となっている『ティール組織』(フレデリック・ラルー著 英治出版)という本があります。そこでは「組織は、この世界で何を実現したいのか」という組織の存在意義(=Purpose)を問いかけることが、新しい組織のあり方を探る出発点となることが強調されています。
なぜいまこれほどまでに「存在意義」の大切さが叫ばれているのでしょうか?
米ギャラップ社が2017年に行った世界の働く人たちへの調査で「熱意を持って仕事をしている」と答えた人が日本人ではわずか6%だったというデータもあります。諸外国に比べるとこれはとても低い数字です。
企業活動を発展させたいというときに、一番大事なのは、社員が仕事にやりがいを見いだしたり、楽しいと思えたり、会社が好きと思えるような熱意を持って仕事をしているかが問われます。つまりそこに「幸せ」を感じられるかどうかです。幸せを感じられることで社員の皆さんのパフォーマンスが飛躍的に向上することを自著(『パーパスマネジメント』クロスメディア・パブリッシング(インプレス))では、事例やデータでもご紹介しています。
会社組織のPurposeとそこで働く個人のPurposeが一致していると、社員はいきいきと幸せに働くことができます。社員が幸せだと、会社の業績は間違いなく上がるのです。
ですから、わたしは会社を発展させていく上では社員の幸せが、最も重要ではないかと考えています。「働き方改革」の本質は、誰もが活躍するというよりも、誰もが幸せに働くこと=「幸せ改革」にあるのではないでしょうか?
働く時間を短くする、労働時間をギュッと圧縮すれば生産性が上がる、というのは必ずしも正しいとは思いません。でもどんな働き方であれ、会社と社員のPurposeが一致していて、そこで働く人々が幸福なら、企業の業績は上がるはずなのです。
このことはわたし自身の経験にもあてはまります。
わたしは社会人になって最初の3年間はコンサルタントのアシスタントとして、文字通り寝食を忘れて仕事に没頭していました。しかし突然、スタッフ部門への異動の内示がありました。大きな会社でしたし、自分が希望したわけではないものの、断ることもできません。そして、そこでの仕事は自分にとってはあまり幸せではない体験になってしまったのです。
スタッフ部門の労働環境はとてもよく、お給料は変わらず残業もほとんどなく帰れました。それに仕事に対するプレッシャーもコンサル部門ほど高くはありませんでした。いままでのキャリアの中でもっとも時給換算で高給取りだった時代かもしれません。
でも「なんだか自分らしくない……」という気持ちが日に日に募っていきました。
働く時間が短く、内容もキツくなく、お給料も悪くなかったのに、なぜわたしにとってはあまり幸せではなかったのでしょうか?
最大の理由は「自分にとって、この仕事をしている意義や目的」がよく分からなかったから。
上司には「よい経験になるはずだから」とは励ましてもらいましたが、やはり自分が納得のいく答えを見いだせなかったのです。
わたしがそれまで行っていたコンサルタントの仕事では、政府系の仕事が多かったのですが、「日本をよりよい社会にする」といったテーマや目的があり、わたし自身もそこに貢献しているのだ、という自負がありました。だから大変な作業にも向き合えていたんだと思います。一方でスタッフ部門では、会社がスムーズに運営されることが最大の目的で、わたし個人と組織のPurposeがズレてしまっていたのです。
もともと異動は一時的なものであったこともあり、比較的短い期間でわたしはまたコンサルティングの現場に戻ることができました。その一方で、異動した先の隣の部署で、やたらと楽しそうに仕事をしている人たちがいたんです。
コンサルタントの仕事は、活気があり、皆熱意を持って仕事しています。ただ、クライアントの悩みを解決する仕事ということもあって、皆「うーん……」と眉間にしわをよせながらパソコンに向かう、というのが基本的なスタイルです。
ところが、隣の部署の人たちは皆で談笑しながら楽しそうに仕事をしている。なんだろう、あの人たちは? と気になったんです。
コンサルタントの部署の中でも、ある意味その人たちは完全に「浮いて」いました。でも、すごく利益も上げているという。いわゆるコンサルタントとはちょっと違う仕事をしていて、「クライアントである経営者に会社の存在意義や、事業の目指すところを明らかにする」ためのサポートを生業とされていたんです。
いまわたしが行っている仕事も同じなんですが、ポイントはそういったサポートを行う自分たちも「意義・目的」を確認・共有しあいながら、仕事を進めていくという文化を大切にしているということだったんです。
そこにはPurposeを共有し、メンバー一人ひとりがそれぞれの強みを活かして幸せに働けるような仕組みが存在していた、と言い換えることができるかもしれません。存在意義・やりたいことを、すごく大切に捉えていて、そういった本質を考えたり、共有する時間がしっかりと設けられていたんです。
後に機会があり、彼らのプロジェクトに加えてもらうチャンスを得ました。それが彼らとアイディール・リーダーズを創業する起点ともなりました。
わたしたちアイディール・リーダーズは、仕事を遂行するための「パーツ」としてメンバーがいる、というものでなく、一人ひとりが「際立って」いて、それが上手く組み合わさることで、仕事の規模が大きく発展したり、異なる分野へと広がっていく──そんな多様な価値観をベースにしています。
そのほうが皆の意欲が高まりますし成果も上がるのです。幸せに働くためには、自分の存在意義ややりたいことと仕事をリンクさせることが鍵を握っているんだ、ということをアイディール・リーダーズのメンバーと共に、そして様々なクライアントと向き合うことで日々確認しています。
とはいえ、個々人の工夫・努力にも限界があります。一人ひとりが幸せに働ける組織をどのようにデザインしていくか、そのデザインは誰が主導していくのか? と考えていったときに、CHO=Chief Happiness Officerという経営職あるいはその機能を持つ役職が果たす役割は非常に重要となってきます。
皆が楽しく、やりがいを持って働けることこそが幸せな状態であり、そんな環境、組織を生みだしていくことがCHOの役割です。そしてCHOは新しい経営職ではありますが、必ずしも役員でなければならない、というわけではありません。各部門のリーダー・スタッフもCHO的な役割を果たすことは可能なのです。そしてCHOの取り組みをすすめるにあたって大切なのがPurpose(存在意義)です。
わたしは日本中の職場から「眉間のしわ」をとりたいのです。
そして、そのために日本中にCHOの仲間を増やしたいと思っています。
日本では「働く=大変なこと」、苦労して何かを犠牲にしなければ高い成果は得られない、といった固定観念が定着していますが、はたして本当にそうなのでしょうか?現在の、単純な労働時間の短縮へと向かう「働き方改革」の背景にもこの価値観が色濃く影を落としているのではないでしょうか?
長い時間眉間にしわをよせながら働くことと、働く時間を短くすることに躍起になって、同じように眉間にしわをよせながら働くことに、本質的な違いはなく、本当に私たちが「幸せ」になっているのか、という点は改めて問われなくてはなりません。
どのようにすればPurposeが明確になり、組織の中で共有していくことができるか、これからも発信しまた取り組んでいきたいと思っています。
『パーパス・マネジメント――社員の幸せを大切にする経営』の「はじめに」を著者・出版社の許可を得て抜粋・編集しました。無断転載を禁じます。
- 丹羽 真理(にわ・まり)
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- Ideal Leaders 株式会社 共同創業者 / CHO (Chief Happiness Officer)
国際基督教大学卒業、University of Sussex 大学院にてMSc 取得後、2007年に株式会社野村総合研究所に入社。民間企業及び公共セクター向けのコンサルタントとして活動後、エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業IDELEA(イデリア)に参画。
2015 年4 月、Ideal Leaders 株式会社を設立し、CHO (Chief Happiness Officer) に就任。社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目指している。
経営者やビジネスリーダー向けのエグゼクティブコーチング、Purpose を再構築するプロジェクト等の実績多数。特定非営利活動法人ACE の理事も務める。
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