今月の1冊
2019年02月12日
『ざんねんないきもの事典』
地球に住みはじめて早云十年、少々マンネリ化した気で眺めていたこの世界が、新鮮に見える一冊に出会った。それは『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』である。
2016年の刊行、人気に火がつき、2018年には第3弾となる『続々ざんねんないきもの事典』が発売、シリーズ累計は270万部を突破したというし、皆様のなかにもすでに読まれた方が多くいらっしゃることであろう。児童書ながら、話題の本として長らく書店の目立つ位置にいるアノ本である。
本書曰く「ざんねんないきものとは一生けんめいなのに、どこかざんねんないきものたちのことである」。動物中もっとも噛む力が強いと言われているが、口を開ける力は、日本人の平均的なおじいちゃんの握力に負けるイリエワニ。24時間泳ぎ続けないと酸欠で死んでしまうマグロ。動物界きってのジャンパーながら、起立することはままならないノミ、等々。この星での生き残りをかけて進化してきた生き物たちの、どこか滑稽で、不思議な姿・事例が紹介されている。
「とつぜんですが、地球にはどれくらいの種類の生き物がいると思いますか?」
夜間、煌々と光を放つ自動販売機に蛾すら寄りつかない都会で、人間に囲まれて生活を送っていると、他の生物の存在すら遠のく。地球にはどれくらいの種類の生き物がいるのか、その答えはだれにも分からないそうだが、見つかっている種類だけでもおよそ400万。見つかっていない生物を含めると数億種になるという説もあるという。何という世界に自分は住んでいるのだろう。
加えて、この本は進化の歴史についても衝撃の事実を突きつける。まず、今まで地球に登場した生き物は99.9%滅んでしまったということ。そして、進化は一方通行であること。
「人間は、魚やは虫類の祖先から進化したため、かれらがもつ能力を、これから手に入れることはできないのです。」
何かを手に入れるためには、何かを失わなければならない、そんな取捨選択の延長線上に我々は生きている。私たちは、あくまで現時点での最終形態であって、いつかの絶滅種かもしれないのだ。
また、「進化」とは必ずしも“より良い方向へ”というものでもない。筆者は進化について次のように定義している。
「「進化」とは、体のつくりや能力が長い時間をかけて変わっていくこと。」
なるほど。
そして、こうも述べている。
「生き残れるかどうかは、もはや運しだいなのです。」
なんと!
結果が凶と出るか、吉と出るかは天のみぞ知るだとしても、この星の全生物が約40億年前に単細胞生物として出発し、さまざまに進化を遂げ、現在生きているということを考えると、最近耳にタコができるくらい各所で聞く“多様性:ダイバーシティ”というものは、何千万年・何億年というスパンで考えた際の、地球における人間の生き残り戦略であるのかもしれない。(その頃は人間という名ではなくなっているかもしれないけれども…)
小さい頃は、生き物にソコソコの興味を持っていた。ナメクジに塩ではなく砂糖をかけてみたり、絶滅危惧種が掲載されたレッドデータブックを調べてみたり。しかし、生来、特に動物好きでもない私、当初この本に触手が動かなかった。しかし、現在セカンドキャリア満喫中の人生の大先輩から“最近読んだ中でイチオシ”として薦められ、あまりの変化球ぶりに手にとってしまったのである。(普段は世界の名著100選的な本について語る方なのだ。)そして再発見。この星には人間(生物学的にはヒト)以外にも生物がいるのだ、と。そう、マンネリ化していたのはこの世界ではなく、私の見方だった。
絶食で寒さに耐えながら2か月間卵を温め続けるコウテイペンギンにしてみれば、ニンゲンは何と長いあいだ子育てに時間をとられるのだろうと笑うのかもしれないし、あるいは、モテるためには顔やおしりの赤さこそが大切であるニホンザルから見たら、整った顔を気にするニンゲンこそ可笑しな生き物として映るのではないだろうか。この本に“ざんねんないきもの”として人間は登場しないが、他の生き物たちの有りようやエピソードを読みながら、「ニンゲンもまた健気で、ざんねんで愛おしいじゃないか」と思うのは私だけではないはずだ。
(田口 舞)
『ざんねんないきもの事典』高橋書店
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