ピックアップレポート
2003年09月09日
図解リテラシー体得のススメ
図解本ブームの背景
『図解でわかる○○マーケティング』『図解!△△入門』等々、数年前から書店でよくこのようなタイトルのビジネス書を見かけるようになった。そして昨年からの図解思考に関連する書籍の発刊ラッシュである。このブームとも言える状況は、『図で考える人は仕事ができる』(久恒啓一)がベストセラーとなったことが発端であろうが、その後もこの分野の書籍が次々に発刊され、書店では専用のコーナーまで設けているところもあるくらいだ。では、この状況は我々に何を示唆しているのだろうか。
当たり前のことだが、我々は図解に対してそれを「読む」「描く」という2通りの関わり方をしている。図解を多用したビジネス書は、「この本は短時間で役に立つ知識を得ることができますよ」という図解を「読む」効果を売りにしている。文章だけだと、ざっと読んだだけでは論理構造が把握しにくい。その点こうした実用書において、ぱっと見ただけでおおよその論理構造が把握しやすい図解を多用することは、多忙なビジネスパースンから歓迎されるのだ。
そして昨年来の図解ブームは、もうひとつの関わり方である図解を「描く」という行為の重要性にビジネスパースンが着目し始めたことの現れであろう。つまり「自分も図解を上手に描けるようになって実務に役立てたい」という人が増えてきたということだが、ある意味図解そのものが、新たなビジネスリテラシーとして認知されてきたということだろう。しかしなぜ図解がリテラシーとして注目されているのだろうか。私は、キーワードは図解の特性としての「可視化」であると考えている。
図解リテラシーの本質と効果
我々は物事を思考する場合、様々な要素を関連づけて考えている。たとえば「今日の夕食は何にしよう?」と考える時も、和食と洋食の比較や、食材を鍋に投入する順番など、常に複数の要素間の関係性を勘案しながら考えているものだ。そして図解を描くという行為は通常は目に見えない関係性を図で表現することであり、つまりは自分の頭の中や他人の話、議論、文章などからその中の様々な要素間の関係性を「可視化する行為」ともとらえられる。
このキーワードで様々なビジネスシーンを見てみると、「3つの可視化」が具体的効果として見えてくる。
まず「論理的整合性の可視化」である。文章を図解していると、時には著者の論理的矛盾が見えてくることがある。また、会議の質疑応答で実は全く質問に答えていないということまで図解で見えてくることもある。ある意味図解の怖い一面だが、図解は曖昧さを排除し誤魔化しを見破る道具でもあるのだ。
次に「他要素の必要性の可視化」である。思考の中の各要素が目に見えることによって、「あ、これがあるならこれも!」といったように後から別の要素が浮かんでくることも多い。また、先に述べたように論理的整合性が可視化されていると、「じゃあ次はこれだな」という思考の展開も行いやすい。つまり図解を描くことにより、「足りない要素」と「新たな要素」の両方が見えてくるのだ。
そして「本質とポイントの可視化」である。様々な要素を図の中に配置して矢印を引いたり、分類やマトリクスで整理したりしていると、自然とどの要素が重要なのか、また自分が一番伝えたいことは何なのか等が見えてくる。さらに図解を使って他人に説明する場合でも、ポイントになる部分を強調した表現が文章などとは違って可能なのは周知の通りである。
以上のことから「図解リテラシー」とは、図解を仕事の中で「整理・理解」「発見・発想」「伝達・共有」を促進させる『実務支援ツール』として活用するための、まさに今求められているビジネスリテラシーであると言っても過言ではないだろう。
図解リテラシー体得のために
リテラシーは単なる知識と異なった身体知であり、体で覚えるものだ。よって常日頃から図解を描くことを実践するのが体得の近道なのは多くの本に書かれている通りだが、私は図解を「描く」だけでなく「読む」訓練も必要だと考えている。なぜなら、図解には落とし穴があるからである。
確かに図解はぱっと見でおおよその論理構造を把握しやすい。しかしそこには「わかった気になる」危険性もはらんでいる。本来はその後じっくりその中の文字を読み、矢印の向きや分類の妥当性等を吟味して初めて内容を理解したと言えるからだ。
読む訓練としては先に述べた図解の吟味の他に、図解を文章に戻してみることもお勧めしたい。これで論理的な文章にならなければ、それはあなたの文章構成力だけの問題でなく、その図解のどこかに欠陥があると考えて良い。できれば次にその文章を自分なりに図解し、最初の図解との違いを考察してほしい。
丸の内シティキャンパスの私の講座でも図解リテラシー体得のお手伝いをしているが、多くのビジネスパースンがこのリテラシーを身に付け、そして社会の各分野で活躍してくれることを望みたい。
(『月刊丸の内』 6月号より)
- 桑畑幸博(くわはた・ゆきひろ)
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- 慶應MCC専任ファカルティ
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
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