ピックアップレポート
2020年04月14日
高田 朝子『女性マネジャーの働き方改革2.0』
「働き方改革のため、営業時間を短縮します」という表示を街で見かけるようになりました。
多くの人が、いままで享受していた便利さは人の手によるものだということを実感するようになったのではないでしょうか。
働き方改革の後ろにある厳然たる事実は、人口減少による人手不足です。私たちの国の社会システムをつくり上げている大部分は、物理的な人の手で成り立っています。人手不足は私たちの生活に、じわじわと影響をおよぼしはじめています。
「働き方改革」と「女性活躍推進」の流れは実は根底が同じです。人口減少の傾向に気がついた政府や企業が労働人口を確保しようと、さまざまな手を打ちはじめたことによります。その中での中心的な施策が、いままで重視してこなかった女性たちに、もっと働いてもらおう(政府はすべての女性が輝くという秀麗な言葉で言い換えていますが)という「女性活躍推進」でした。
当初、政府、企業そしてマスコミはこの流れを「女性活用」という言葉で表現していました。「活用」の本来の意味は「うまく使うこと」です。有史以来、日本は女性が政治や経済の中心でマジョリティだったことはありません。「活用」は意思決定の根本的なところは男性が握り、女性をうまく使って人手不足を乗り切ろうという意図がストレートに出ている表現だったのかもしれません。
この言葉は2013年後半から「女性活躍推進」という言葉に取って代わります。2013年は一つの分岐点でした。この時期を契機に、働き方改革という言葉も新聞紙面を大きく飾るようになります。
そして、政府は「日本再興戦略」と題して女性の力を「日本最大の潜在力」と呼び、女性の力を引き出すことを政策の目玉とします。女性が戦力となって働くためには、働き方そのものを変えないといけないと、長期労働の是正に舵を切ったのです。これは、日本をこれまで支えてきた、「おじさんコミュニティ」が終焉にむかうことを意味しました。もちろん、すぐには変わりませんが。
「おじさんコミュニティ」は、日本社会の絶対的なマジョリティです。いまなお根強い力を保っています。長期雇用が前提であった日本に適応してできた集団です。その構成メンバーのほとんどは、似たようなバックグランドを持った男性たちです。長時間一緒にいることによって、組織に対する凝集性が非常に高く保たれている集団でした。会社は実の家族よりも長時間一緒にいる場所でした。
このコミュニティに女性が入るのは非常に困難で、男性と同じような働き方ができるごく少数の女性だけが、メンバーになることを許されてきました。「おじさんコミュニティ」全盛時代の女性マネージャーたちを「女性マネージャー1.0」とします。彼女たちは文字通り先駆者で男性と同様に、いやそれ以上に長時間労働をこなし、現在の女性マネージャーの礎をつくってきました。
この10年間、政府と企業は「長時間労働の是正」や「ダイバーシティの推進」など、家庭を持つ女性も社会に出て働き、昇進するという、いわば定番ルートをつくろうと奮闘してきましたが、肝心の女性たちは思ったようにこの施策に乗ってきませんでした。「女性活用」しようにも、やわらかく拒絶されることが多かったのです。
人間は多くの場合、自分にとってプラスになるものがないと態度を変化させません。この視点から考えると、いくら政府や企業に旗を振られても、彼女たちには昇進の旨味がないということになります。企業はさまざまな仕組みや制度をつくり、女性たちへのサポート体制を整えようとしています。
しかし、依然として男性と同様の昇進トラックでレースに参加しようと手をあげる女性は、そう多くはありません。2019年に「女性活躍推進法」ができ、企業には女性管理職比率などの数値目標と実績の公表が求められることになりました。実績づくりのために「エイヤー」と女性たちを昇進させたと揶揄されることも、ちらほら聞かれます。
女性マネージャーの育成は、社会にとっては急務です。そして、多くの女性たちが実力を発揮し、活躍することは人口減少の中で不可欠です。
しかし、旧来の「おじさんコミュニティ」を所与条件として、それに合わせる働き方では長続きしませんし、人々にとって旨味もありません。誰かが無理をして何かの形に合わせると、必ず歪みが生まれます。小さな歪みが積み重なると組織全体の形を歪めていきます。個人が何かのパターンや人の思惑通りの役割を演じるのではない、その人なりの自然体の働き方をすることこそが、長く続くコツです。
多くの女性マネージャー、多くのビジネスパーソンが無理のない自然体の働き方をする。私の研究や拙著を通じて、そのヒントを手に入れていただければ幸いです。
『女性マネージャーの働き方改革2.0 ―「成長」と「育成」のための処方箋―』(高田朝子著、生産性出版)を著者・出版社の許可を得て掲載しました。無断転載を禁じます。
- 高田朝子(たかだ・あさこ)
- 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
- モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。
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