今月の1冊
2020年04月14日
本田 直之・松尾 大『人生を変えるサウナ術-なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?』
2020年、夏まではオリンピック一色になるかと思われたこの年は、新たな疫病との戦いによって困難な立ち上がりを迎えています。
こんな時はどうしても神経が張り詰め、気持ちが沈みがちです。せめて、何か前向きな気分になれる本を読みたいと探していた時に出会ったのが、この『人生を変えるサウナ術』でした。
「今、日本はサウナブームに沸いている」
本著はそんな書き出しで始まりますが、確かに最近メディアでサウナを目にする機会が増えてきました。昨年テレビ東京系で放送されたドラマ『サ道』は孤独のグルメ的人気を博しましたし、比較的若い世代がサウナを楽しみはじめており“サウナはおじさんのもの”という概念が崩されてきている様に感じます。
著者はその要因を「今の時代が求めているものと、サウナがもたらしてくれる効用がピッタリとマッチしているからだ」と語ります。
本著では、サウナの効用をフィジカル・メンタル・ソーシャルの3つに分けて解説し、サウナの歴史や日常的にサウナを活用している経営者達のサウナ哲学が紹介されています。
この本の素晴らしいと思える点は、サウナ愛が伝わってくるような想いのある文章でありながら、その効用や注意点に対してきちんとした研究結果などのエビデンスが示されていることです。私のように感覚に重きを置いて行動するタイプから、きちんと頭で理屈を理解してから行動したいタイプの方まで、この本を読んだサウナ未経験者の多くが”私もサウナに行ってみたい”と思うことでしょう。それを見越してか、巻末には50を超える数の「日本・世界の名サウナ」が紹介されています。
と、いうわけでこの本に書かれている効用がどの程度実感出来るものなのかを確かめたく、早速サウナに行ってみました。
サウナデビューで最も衝撃だったことは、『ととのう』とされる状態を実感出来たことです。字面だけでは理解不能なこの状態、まさしく百聞は一見に如かずの心地よさでした。
サウナ室に入っている時は単純に汗を流す気持ちよさこそありますが、体温も上昇し脈拍も早くなり、10分間サウナ室に入っている為には、私の場合それなりの我慢が必要でした。
その後は水風呂に入り上がった体温を急激に冷やすわけですが、これもやはり最初は大きな抵抗がありました。個人的には初心者がサウナを楽しむ上で最もハードルが高いのが、この水風呂なのではないかと思います。
それでも、意を決して掛け水をし浴槽に飛び込むと、最初の数秒こそ身の縮む様な冷たさを感じますが、やがて身体が慣れてくると冷たい水を心地よく感じるようになります。
ただし、本著によればあまり長く水風呂に入りすぎても良くないということで、初心者の私は1分ほどで水風呂を切り上げて、よく身体を拭き休憩用のベンチに腰掛けました。
ベンチに腰掛けてしばらくすると、身体はリラックスしているのに普段よりも脳の血行が良くなっているような不思議な感覚に陥りました。その感覚に任せて目を瞑ると、なんとも言えない爽快感が沸き上がってくるのを感じ、これが「ととのう」という感覚なのかと感動しました。
本著では、昨今のサウナブームの大きな要因として、この「サウナ→水風呂→外気浴(休憩)」というサウナをより楽しむための一連の流れが明確になったことを挙げています。
サウナと水風呂で交感神経優位になっていたところから、休憩を通じて急速にリラックスをもたらす副交感神優位の状況を作り、身体全体を一気にリラックスモードに切り替える。この「ととのう」状態を作る方法論が広く認知されてきた事で、「サウナ=我慢・辛い・熱い」というイメージが払拭され、「心地よい」「リフレッシュ」といった概念に置き換えられつつあります。
私自身、サウナのことをただひたすらに暑さに耐え、減量目的や代謝が下がってきた中高年が汗を掻くために入る場所だと思っていただけに、この「ととのう」という感覚を得たことは衝撃的でした。
このサウナデビュー以後、私は隙を見つけてはあちこちのサウナに通っています。そうした中で、気持ちがリフレッシュすることや、睡眠が深くなること等、この本に書かれている様々な効用を実感してきました。ウィーン大学の研究チームの発表によると、週に2回以上サウナに入るグループはそうでないグループに比べ風邪にかかる率が50%も低いとされていることもあり、このご時世そうした免疫力UPにも期待を持っています。
このように数多あるサウナ効用のうち、私が一番実感したのは「デジタルデトックス」と「内省」についてでした。
サウナ室には当然ながら電子機器は持ち込めません。普段の生活においては通勤電車から就寝前のベッドの中、果てはトイレに到るまで、一人の時間についつい開いてしまうスマホ等のデバイスから一定時間物理的に解放されることが出来ます。
そこで気づくのは、最近「内省」の時間が取れていなかったということです。私の場合は少し長い距離をランニングしている時がこの時間に充てられていましたが、とある事情で走らなくなってからはこの「内省」の時間がすっかり日常から欠落していました。サウナでは、この「内省」時間がたっぷりと取れるのです。
サウナ室でじっと蒸されている間、はたまた外気浴中に整った感覚をひとしきり満喫した直後、自分自身の体調や抱えている課題等とじっくり、それもスッキリした頭で向き合うことが出来ます。これは私にとって大きな効果でした。この「デジタルデトックス」と「内省」のお陰で、以前よりも頭の中に未消化な事柄が少なくなり、前向きにゆとりを持った心持ちで過ごせているように感じています。
最近では企業毎に「サウナ部」なる集まりも組織されておるようで、今後のビジネスパーソンにとってサウナはより身近で重要なものとなって行くのではないでしょうか。飲み会の代わりに、サウナで懇親を深めることが一般的になる日もそう遠くない。そんな妄想を膨らませながら、これからも隙を見計らってサウナに通いたいと思います。
(石井雄輝)
『人生を変えるサウナ術-なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?』KADOKAWA
登録
オススメ! 秋のagora講座
2024年12月7日(土)開講・全6回
小堀宗実家元に学ぶ
【綺麗さび、茶の湯と日本のこころ】
遠州流茶道13代家元とともに、総合芸術としての茶の湯、日本文化の美の魅力を心と身体で味わいます。
オススメ! 秋のagora講座
2024年11月18日(月)開講・全6回
古賀史健さんと考える【自分の海に潜る日記ワークショップ】
日記という自己理解ツールを入口に、日常を切り取る観察力、自分らしい文章表現力と継続力を鍛えます。
いつでも
どこでも
何度でも
お申し込みから7日間無料
夕学講演会のアーカイブ映像を中心としたウェブ学習サービスです。全コンテンツがオンデマンドで視聴可能です。
登録