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夕学レポート

2010年02月09日

大西 啓介「ナビタイムの世界戦略とビジネスモデル」

大西 啓介 株式会社ナビタイムジャパン 代表取締役社長 >>講師紹介
講演日時:2009年12月10日(木) PM6:30-PM8:30

NAVITIME」は、現在地から目的地まで、車、鉄道、バス、タクシー、徒歩などさまざまな移動手段を組み合わせて、最適な移動経路を探し出してくれる「経路検索」のサービスです。主に携帯電話で利用されており、大西氏によれば、有料課金サービス(月額210円または315円)を利用しているユーザーは、現在400万人に達しています。
このサービスを運営する『ナビタイムジャパン』は、大西氏が、大学院の研究室の後輩、菊池新氏と共に2000年に設立しました。多様な移動手段を組み合わせできる経路検索のサービスは、他に類を見ないこともあり、わずか10年たらずで急成長しています。大西氏は、この成長の背景には、高速パケット通信と、パケット定額制の普及によって、携帯電話を通じた各種サービスが気軽に利用できるようになったこと、さらにGPSの性能が高まり、すばやく現在地を特定して経路案内ができるようになった、といった携帯電話の技術革新や新サービスの後押しがあったとのことです。


大西氏は、上智大学理工学部を卒業後、大学院の情報処理研究室に進学し、「経路検索」の研究に取り組みました。今となっては、「経路検索」をなぜ研究テーマに選んだのか、ご本人も覚えていないそうですが、ともあれ、博士号を取得した大西氏は、祖父の経営していた大西熱学に入社し、その後も経路探索の研究を続けます。そして、96年には社内ベンチャーを立ち上げ、「経路検索エンジン」のライセンスビジネスを開始しました。(前述の通り、2000年に『ナビタイムジャパン』として分離独立)
折りしも、96年はインターネットの商用化が始まった年でした。一般向けにも安価なネット接続サービスが続々と登場、インターネットが社会に急速に浸透していきました。また98年には「PDA(Personal Digital Assistance:携帯情報端末)」のカシオペアが発売され、モバイル時代が幕を開けます。そんな時期に、大西氏と菊池氏は経路探索エンジンの実用化研究に取り組んだのです。
今、ふりかえってみると、最高のタイミングで事業化を行うことができ、5年早くても、また5年遅くてもうまくいかなかっただろうと大西氏は考えているそうです。
ナビタイムジャパンの事業内容は、現在第6世代まで進化し、さらに世界に展開しつつあります。しかし、同社が一貫してこだわっている基本コンセプトは、「トータルナビゲーション」です。これは、“さまざまな移動手段に対し、リアルタイム情報を考慮してその日、その時刻、その場所でその人にとって最適なルートを提供する”というもの。
「NAVITIME」は、この基本コンセプトに沿ってサービスを逐次高度化させてきています。例えば、単に、電車やバス、タクシー等を組み合わせるだけでなく、「雨に濡れたくない」「階段を避けたい」といった、個人の意向や状況に応じた最適経路も提案できます。雨に濡れないように歩きたい人には、アーケード街や地下街を優先したルートを案内してくれるのです。また、CO2排出量が最も少ない「エコルート」を提案することもできます。さらに、利用者個々の徒歩速度も逐次記録して、次回の検索で考慮してくれるので、「NAVITIME」を使えば使うほど、1人ひとりにとって最適な経路探索が提案されるようになるのだそうです。
また、ナビタイムでは、経路(行き方)だけでなく、レストランなど、行きたい場所(目的地)も探すことができます。これは、ぐるなび、食べログ、ホットペッパーなど、グルメ情報を提供しているサービスとの提携によって実現しています。病院も、診療科目、診療時間、緊急指定など詳細な条件で探せますし、映画館は、見たい映画から、映画館の場所と上映開始時間を考慮した経路検索ができるそうです。宿やホテル検索も、JTBるるぶ、じゃらん、楽天トラベルなど競合大手が情報を提供しており、利用者は、競合他社の情報を横断的に比較検討することが可能になっています。
大西氏によれば、ナビタイムに、こうして競合他社が呉越同舟的に情報を提供するのは、やはり400万人の利用者を擁しているからこそ。つまり、大きな集客力を持っていることが、「メディア」としての価値を高めているのです。しかも、従来のマスメディア、またパソコンでのインターネットと異なり、常時身につけている携帯電話のサービスであるため、単に情報を検索するだけでなく、特定の場所まで誘導し、購買につなぐこともできるという特徴があります。そこで、居酒屋など利用者が行きたい場所を検索した場合に、その検索キーワードに関連する詳細情報を提示する広告ビジネスの展開を行っています。利用者が、単に特定の場所にいるからといって、利用者の関心の有無を無視して近隣の店舗の広告を表示するようなプッシュ型ではなく、利用者の関心に応じて適切な情報を提示するプル型の広告を基本方針としているそうです。
ナビタイムジャパンの経営方針は、「ナビゲーションエンジンで世界のデファクトスタンダード(実質的な標準)を目指す」というものです。この根底には、「世界中の人々が安心して移動できるために」という願いがあります。そこで、同社では着々と世界展開を進めています。現時点で世界33カ国の国・地域の情報を保有。そして、「Global NAVITIME」では、例えばフランス・パリ市内のあるホテルから、エッフェル塔までの最適ルートを日本語で案内してくれるといったサービスを実用化しています。また、来年(2010年)中にサービス開始予定の「国際間トータルナビ」では、東京の自宅から、ニューヨークのメトロポリタン美術館に行くまでの全ての交通機関、つまり航空機も含めたトータルな経路探索が可能になるそうです。
大西氏によれば、『ナビタイムジャパン』と、あえて ‘ジャパン’を社名に入れたのは、欧米発のIT技術が世界を席巻する中、世界のデファクトスタンダードを目指す「経路検索エンジン」が、日本発のIT技術であることを示すためなのだそうです。現在、文字通り世界のデファクトスタンダードへのルートを着々と進んでいる同社の今後の展開が楽しみです。

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