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今月の1冊

2010年04月13日

『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう ―あなたの5つの強みを見出し、活かす』

著者:マーカス・バッキンガム、ドナルド・O.クリフトン ; 訳:田口 俊樹 ; 出版社:日本経済新聞出版社 ; 発行年月:2001年12月 ; ISBN:9784532149475 ; 本体価格:1,300円(税込 1,365 円)
書籍詳細

「強みを5つあげてみてください」と言われて即答できるだろうか?
就職活動中の学生さんなら5つくらいは淀みなく出てくるかもしれない。
では「あなたの才能を5つあげてみてください」と言われたらどうだろう。
ちょっと躊躇するのではないだろうか?
もしかしたらイチロー選手だって5つあげるのは難しいかもしれない。
「才能」という言葉を聞くと、人より秀でた何か特殊な能力で、普通の人には備わっていない特別な力、とイメージだけで捉えてしまいがちだ。
少なくとも自分は本書に出会うまで、そんな風にこの言葉の意味をとらえていた。
自分とはほとんど縁のないもので、ある特別な人にだけ授けられた類稀なもの。
それが、この本の中では全く逆のことを言っている。


「才能」とはその人にとって当たり前すぎて、見過ごされてしまうようなもの。
他の人とは明らかに違う優れた資質なのに、自分では親しみ過ぎていてそれを才能だとは認められないような、そんなものだと言う。
イチロー選手やビル・ゲイツ氏だけではない。
医者でも、教師でも、ウェイトレスでも技術者でも。
営業課長も、開発部長も、編集者も、あらゆる分野で優れた才能をもつ人たちに共通していたこと。それは、皆、この自分の強みとなりうる資質を磨いて、それを仕事に活かしていることだと筆者は言う。
本書では、この「才能」という言葉を「無意識に繰り返し現れる思考、感情および行動パターンであり、何かを生み出す力を持つ資質」と定義している。
以前、私がキャリアカウンセリングの仕事をしていた時のこと。
キャリアチェンジに成功する人としない人の違いはなんだろう?と日々考える機会があった。
成功する人は、違う業界や職種に就いて、傍目には全く違う仕事をしているかのようにみえるのに、よくよく話を聴くと、どこに行っても応用できる「その人らしさ」のようなものを、ちゃんとそこで発揮して活躍していることがわかる。Transformable skillという専門用語もあるが、(日本語に訳すと『変換可能なスキル』というような意味だろうか)表層的なスキル、知識とは違う、その人が本来持っている根っこのパワーのようなものと、本書で言う「才能」とは近いような気がする。
そんな経験もあってか、数年前に出逢ってから、ふと思い出して読み返したり、友人に薦めたりと、自分にとってお気に入りの一冊となった。
考えてみると本書を好きな理由は大きく3つあるように思う。
1つは、膨大な調査データを基に人の資質について数理的に立証している点。
本書は大統領選の世論調査等で有名なアメリカの調査会社ギャラップ社が過去30年間、約200万人にインタビューをして得た調査結果がまとめられている。
そしてポジティブサイコロジーの一般モデルに基づいて作成された「ストレングス・ファインダー」というツールがベースになっている。
自己啓発本やタイプ別性格診断のようなものとはまた違う独特のアプローチが特徴的だ。
2つめは、人の独自性、ユニークさに着目し、その違いを活かすことが強い組織を創ると説いている点。
単に、個人が強みを活かすことだけでなく、企業にとって、従業員の独自性や一人一人がもつユニークな強みを最大限に活かす方法についても具体的な方法が述べられている点が実用的だ。
違うからといって排除せず、その違いを認め合うだけでなく、強みとして積極的に活かして強固な組織を創っていく。世界の中にはそんな国や社会があること、そんなグローバル企業が数多あることを、私自身も20代を過ごしたシンガポールやアメリカで知り、感銘を受けた。多種多様な人種が集まり、そもそも違うことが活力の源となっているかのような国や社会の生み出すパワーというのはとてもダイナミックなものだ。
そして3つめは、自分の強みとなりうる5つの資質を実際に診断できる、という点だ。
この本を購入する多くの人の最大の目的でもある。本書は、ストレングス・ファインダーというウェブを使って診断できる強み発見ツールの解説書のように使える。本を購入すると一冊ずつIDがついていて、指定されたURLからログインし180問の項目に20秒以内で答えていく。結果はその場ですぐにわかる。
人間の才能には34のパターンがあり、1人の人間の中にはその中から5つ、特に顕著に現れる資質があるという。
私の診断結果は、「回復思考」「収集」「共感性」「ポジティブ」「適応性」「社交性」。 最初は意外なものがあっても、その後、解説を読んで、なるほど思い当たる節があり、日頃、意識することで深い納得感へと変わっていった。
この34の資質の組み合わせは、3300万通りにもなるという。つまり、自分と全く同じ5つの資質をもつ人と出逢う確率は3300万分の一ということだ。生まれた国や育った環境、後天的なものが異なるのだから人は誰1人として同じ人はない、ということを、当たり前のようだが改めて実感する。
私自身は、自分にとって強みとなりうる5つの資質がわかってから、小さなことから、大きなことまで、日々の思考や行動、意思決定の仕方が少しずつだが変わってきたような気がする。これまで、当たり前に考え、行動し、決めてきたことを自分の独自性として意識してみる。「当然、みんな自分と同じように考えているのではないか?」そう思って、気にした事さえなかったことを、自分のオリジナリティとして感じてみる。
日々、小さな選択を繰り返していく中で、どちらを選んだらいいのか、迷うことがある。
どちらかから選ばなければいけないと思っていたことも、例えば「ポジティブ」という自分の独自性を思い出し、自分らしい選択をするなら?と考えてみる。すると、必ずしも二者択一ではなく、新しい別の解決方法を生み出す力が生まれてくるかもしれない。些細な事のようだが、そうした小さな積み重ねの繰り返しの中で、自分の資質がだんだん磨かれ、強固になっていき、行動が変わり、結果が変わる。そんな時が「才能が花開く」時かもしれない。
4月になり、木々や草花が土の中から、少しずつ顔を出すこの季節。
ご自身の中に眠っていてまだ自分でも気付いていない才能があるかもしれない。 それを、呼び覚まし、新しい年度、新しい自分自身と向き合ってみるのはどうだろう? ぜひ、この季節にお薦めしたい一冊だ。
(寺尾美香)

さあ、才能(じぶん)に目覚めよう ―あなたの5つの強みを見出し、活かす』(日本経済新聞出版社)

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