ピックアップレポート
2022年11月08日
オペラの演出という挑戦:演出家・上田久美子さん
上田久美子さんは、宝塚歌劇団で2006年から演出家としてのキャリアをスタートし、今年2022年3月の退団まで数多くの作品の演出を手掛けた人気の演出家です。そして現在、上田さんが演出を手がけているのはイタリアオペラの『道化師』と『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』の2作品。2022年度全国共同制作オペラの発表時には、“上田久美子 演出”をもって注目を集めました。
この2作品は「ヴェリズモ・オペラ」の代表作です。
ヴェリズモ(伊, verisomo)とは、現実主義のこと。
ダーヴィンの進化論の発表などを機に、フランス文学界で起こった自然主義の影響を受け、イタリアで「ヴェリズモ文学」が誕生します。市井の人々の生活を描き、残酷な暴力を多用し、直接的な感情表現をするなどが特徴で、1875年『カルメン』を皮切りとする、この「ヴェリズモ文学」を題材にとったオペラ作品は人々に衝撃を与え、人々を熱狂させました。
『道化師』は、旅芸人一座の殺人事件を題材にした作品で、『カヴァレリア・ルスティカーナ』はシチリア島の小村ヴィッツィーニで実際に起こったといわれる事件を題材とした、同名の短編小説をオペラ化しています。
両作品とも、音楽的に濃密で素晴らしい作品として非常に高く評価されてきました。しかし一方で、
- 題材が100年前のイタリアで起きた事件である
- 初演された19世紀末と現代では時間感覚が異なる
という点で、現代の日本の観客に受け入れてもらうにはハードルが高い作品でもあります。
実際、上田さん自身、初めて両作品の映像を観終えたとき、ツボを押さえられず、悶々とした感覚を抱いたそうです。繰り返し観ることで、オペラは音楽だけで楽しめる舞台芸術であるという気づきを得ます。しかし、上田さんはインタビューでも語られているように、宝塚時代からのポリシーは「初めて観る人が楽しめること」。オペラを聴き込んだ人だけでなく、初めて聴く・観る人も楽しめるものになってほしい、との願いとともに上田さんの挑戦が始まります。
一昔前のヨーロッパと現代の日本という、時代も場所も違う二つの世界をどうしたらよいか。上田さんは日本人に伝わりやすいように置き換えます。
『道化師』の旅回りのピエロの一座は、大阪にやってきた大衆演劇に、『カヴァレリア・ルスティカーナ』の復活祭は、だんじりのお祭りの準備という場面に。また、『道化師』では、文楽から着想を得て、オペラ歌手が人形使いのようにダンサーを動かして2名で一人の役を演じるという試みを取り入れます。
さらに、上田さんは現代人の時間感覚にも着目します。
現代では100年前とは情報の量ももちろんですが、速度も大きく異なります。情報の速度が速いことに慣れていると、展開が遅いことに退屈さを感じてしまいます。そこで、『道化師』は写実的でエンターテインメント性を強める一方で、『カヴァレリア・ルスティカーナ』は心情を表現する抽象性なダンスを取り入れ、視覚情報の多い演出を施します。
自分の生きる世界とは異なる世界が存在する場としての劇場は心の拠り所となった、と上田さんはご自身の体験を振り返られます。「観客それぞれの面白いポイントが見つかるものになってほしい。」願いとともに上田さんが挑んできた、上田オペラを是非、劇場でご体感ください。
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https://www.keiomcc.com/terakoya20221108.pdf
▼演出家 上田久美子さんが作品にかける思い:インタビュー下記URLへ
https://spice.eplus.jp/articles/309484(外部リンク:SPICE)
※本文中の「」の言葉は「SPICE」取材時での上田久美子さんの言葉の引用となります。
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