KEIO MCC

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今月の1冊

2011年04月12日

『その幸運は偶然ではないんです!』

著者:J.D.クランボルツ,A.S.ラーヴィン; 訳:花田光世,大木紀子,宮地夕紀子; 出版社:ダイヤモンド社 ; 発行年月:2005年11月 ; ISBN:9784478733244 ; 本体価格:1575円
書籍詳細

東北関東大震災から1ヶ月。連日報道されるニュースの中で、
「早く仕事に復帰して、街を再建したい」
と力強く答える被災者の方のインタビューを目にしました。
被災地以外の場所でも、つい弱気になったり、不安な状況を嘆いたりしてしまう人が多い中、凜とした表情でインタビューに答えるそのお父さんの表情は潔く、強い意志を感じさせるものでした。
日々刻一刻と変化する原発の状況や農作物や水への影響、今後の日本の経済動向の見通しについて、被災者の方々に限らず、人々の反応、ものの見方は本当に様々です。


実際に被害に遭われた方、都市部に暮らす私たち住人、支援する側もされる側も、インタビューから聞こえてくる声には、その人のこれまでの生き方や価値観のようなものが鮮明に反映され、テレビの画面を通してその、人となりが伝わってくるかのようです。
そんな映像を目にしながら、これからのこの日本に生きていく中で、人が「強く生きていくこと」「逞しく生きていくこと」について、一冊の本の存在を思い出し本棚から取り出しました。
『その幸運は偶然ではないんです!』
何か事が上手くいった人が、「偶然だよ。たまたま運が良かっただけ。」と謙遜して言ったりもしますが、本書ではそれを、”想定外の出来事が本物のチャンスに変わる時、全くの偶然など存在しません。そこには、必ずその人自身が果たした『いくつかの行動』があり、そこから新しいチャンスを創り出せた人が人生を変えられるのです”と、説明します。
この考えは、著者であるスタンフォード大学のクランボルツ博士が提唱するキャリア理論「プランドハプンスタンス論:偶然を活用してチャンスをつかむ」がベースとなっています。
“キャリアは、偶然の出来事、予期せぬ出来事に対し、最善を尽くし対応することを積み重ねることで形成される”という、この理論に基づき、ごく普通の人たちの転機における行動を分析、研究し、どのように人生に変化をもたらしたか、数々のエピソードと共に記しています。
筆者は冒頭から
“自分自身も環境も常に変化しているときに、ただ一つの道に人生を捧げようとするのはばかげている”と、言い切ってしまいます。
私たち日本人にとって「専念する」ということは美徳の一つでもありますが、この理論に立って考えると、それは全く違うようです。
スポーツや芸術、職人の世界では「プロフェッショナル」とか「匠」という人たちの生き方がかっこよく見えても、本当に私たちのような「普通に働く人たち」の世界においても、何かひとつのことに”人生を捧げる”ことは美しいことなのでしょうか?私は、初めて疑問を持ちました。
確かに、自分を取り巻く社会やビジネスの環境が変化するだけでなく、どんな人に出会い、どんな経験をするか、或いは年齢を重ね、ライフステージの変化によっても、”自分が何に満足するか。それ自体も変化し続ける”、と考える方がずっと自然で現実的です。
日本では(少なくとも私が受けてきた家庭や学校での教育、育ってきた社会の中では)こんな価値観が違和感なく良しとされています。
・将来は予測ができた方が良い
・安定こそが良いこと。変化は恐るべきもの
・失敗はしてはいけないもの。(特にビジネスにおいては)
・一度、決めた計画を変えるのはよくないことetc・・・・・・・・・
それが本書では、真っ向から反対するかのような前提ありきで解説が進みます。
・将来は先行き不透明なもの。予測などできない
・環境も自分自身も変化し続けるもの
・失敗から積極的に学ぼう。そうすれば次はもっと上手くやれる
・状況が変われば計画は変わって当然。それは悪いことではないetc・・・・
これらの、私たちの価値観とは真反対の前提を支えるのが「プランドハプンスタンス理論」です。
直訳すると「計画された偶発性」となりますが、想定外の出来事をキャリアチャンスに変えるために、大きく5つのキーファクターを磨くことが大事だと言われています。

  1. 好奇心: 好奇心を持ち、広げる。
  2. 持続性: すぐには諦めない。粘り強く続ける。やり尽くす。
  3. 楽観性: 大半の悲観的なコメントよりも、たった一人の前向きなコメントを心に置いてみる。
  4. リスクテイキング:失敗はするもの。今ある何かを失う可能性より、新しく得られる何かにかけてみる。
  5. 柔軟性:状況の変化に伴い、一度決めたことでもそれに応じて変化させればよいと考えてみる。

この5つの要素を自分なりの言葉で解釈してみると、こんな表現になるかもしれません。

  • 失敗から積極的に学び、いくつになってもいろんな事に興味を持ち続けよう。
  • 決めたことはしつこくやり続け、すぐにはあきらめない。
  • くじけそうになったら、自分を応援してくれる前向きなコメントを思いだそう。
  • (ただし、状況が変われば計画は変更し上手くいっていないことに固執しないこと)
  • オープンマインドで、明るく笑顔でいること。未知のことにチャレンジし続けよう!

こういうことを心に置きながら、日々の行動を積み重ねていくと、「失敗しても大丈夫、なんとかなるさ」という失敗に対する免疫力と、楽観性、そして困難に立ち向かう時に必要なパワーが育まれていくのだと思います。
最終的には、それは、自分への信頼感や自己肯定感、前向きに生きる力の源となり、それこそが、「逞しく生きていく強さ」へとつながっていくのだと思います。
インタビューに答えた、あのお父さんのように、不安を抱え、困難な状況の中でも、一歩踏み出す力がある人、行動を起こして新しいチャンスを切り拓く力を備えている人は、これまでの人生の中でも、「あなたは運がいい」と言われたことがあるかもしれません。
そして、これからの復興への道のりの中でも、「人生に幸運をつくりだす」ことが出来る、強く、逞しい人なのだと思います。
大きな災害に遭遇しなくとも、私たちは将来への不安を抱えながらも、毎日を一生懸命生きています。
自分自身含め、「普通の人」たちの多くはきっと多かれ少なかれ不安を抱えながら生きています。
ある意味、どんな状況でも「不安がなくなることはない」と割り切って、「これから先どうしたら満足のいく人生を築くことができるか」と考え続け、行動し続けた人が、結果として、人生に幸運をつくり出し、豊かな人生を送ることができるのでしょう。
言うまでもなく、人それぞれの幸せのかたち、満足のいく人生の在り方というものは違います。
自分にとってのそれはなんなのか。
世の中や社会から期待されるモノサシではなく、自分自身の内面と対話し、自分だけのモノサシに照らし合わせて、それを真剣に考える時が来ているように感じます。
最後に、筆者がおわりに記している、あたたかく、パワフルなメッセージを心にとめておきたいと思います。
“あなたがどこにいても、どんな仕事をしていても、だれと出会っても、
あなたには自分がどんな人間かを世の中に表現するチャンスはあります。
あなたの優しさと励ましで、人の役に立ち、意義ある仕事をすることができます。
いつも学び、いつも挑戦し、いつも好奇心をもち続けよう!”

(寺尾 美香)

その幸運は偶然ではないんです!』 J.D.クランボルツ,A.S.ラーヴィン(ダイヤモンド社)

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