今月の1冊
2011年05月10日
『コンドルズ血風録! タイム イズ オン マイ サイド』
著者:勝山 康晴; 出版社:ポプラ社(ポプラ文庫) ; 発行年月:2008年8月 ; ISBN:9784591104361; 本体価格:609円
書籍詳細
いっそ清々しい
ダンスカンパニー・コンドルズの近藤良平さんに慶應MCCで講座をやってもらっているから、そこに自分が参加したから、と言いつつ、最終的には古本屋で目が合ったからという理由で手にしたこの本は、抜群にテンポの良い文章が次々と繰り出され、くすっ、とか、ぷぷっ、といった可愛らしい笑いではなく、わはは、とか、ぶぶっ、と笑いながら一気に読んでしまいました。
現在、コンドルズのプロデューサー兼ダンサーである著者が、早稲田大学3年生の時にメンバーと出会い、コンドルズを結成し、大きなダンスフェスティバルに出場するまでを書きつづっています。
コンドルズの活動やダンスと直接には関係のない、著者の失恋話なども織り交ぜられていて、その熱は「あつい」を越えて「あつくるしい」を通り越し、サウナの後のような清々しささえ感じるような気がしないことも。
小論文の採点講師の仕事をしていたというのだから、出題の意図や、点の取れる回答、論理の組み立てを意識した文章は、難なく書けるはず。それなのにこの本は、見栄も、恥も、戸惑いも、熱気も、全部あけっぴろげすぎて、魅せ方とか加減とか、そもそもこの人大丈夫かしら?と思うくらいの勢い。もちろん、この開放っぷりがこの本の魅力であり、コンドルズの一面を表していると思いますが。
男子自由形
登場するコンドルズのメンバー全員がこれでもかというくらい無秩序で、エネルギーは有り余っていて、その姿は「漢(おとこ)」というより「男子(だんし)」。
大学のモダンダンス部で出会う、近藤さんのアパートの自室は常に鍵がかかっておらず、誰でも出入り自由。一度見たら忘れられない風貌で、深夜に民族楽器チャランゴをかき鳴らしてポルトガル語の歌を歌う、「恋愛のチベット僧」。
そんな近藤さんが、あの人はすごいと評する石渕さんは、金色のレオタードから胸毛とすね毛をはみ出させ、「下劣を極めている」と褒められて嬉しそうに照れ、来年の目標は盛りのついたオランウータンになる!と豪語。(この人は特にエピソード満載で一番笑った)
土木作業道具の詰まったズダ袋から、シールがいっぱい貼られたファンシーなノートと24色のカラーペンを取り出し、「お料理も得意なんだあぁ」と語尾を伸ばす中国武術の使い手・鎌倉さん。
当時タダで住んでいた群馬の一軒家で、ヒョウ柄水着のマネキン20体、ペコちゃん人形、サトちゃん人形が各3体、初代ゴジラの超レアポスター、高級スニーカー、ドラムセット、ミラーボールなどありとあらゆるものを博物館並みに整理整頓する藤田さん。
そんな初期メンバーを「この人たち変」という目線で描く著者の勝山さんはというと、2年間で同じ女の子に12回告白して実らず、翌年単身、エルサレムへ初詣に行き、マッキー極太ペンで「闘う男」「愛、直撃」と手書きしたTシャツで南青山に繰り出し撃沈。
読み手の私から見れば全員、「エネルギーをもてあまし、あらぬ方向へ突進したり、同じ事を延々繰り返したり、妄想ワールドに浸かる男子」にしか見えません。
何をとって、何を捨てるか
その後も登場するメンバーも加わって繰り広げられるドタバタとともに、本筋のダンスの方もサクサクと売れっ子に・・・とまではうまく運びません。
コンドルズには、「呼んでくれた劇場でしか公演しない(自主公演しない)」というルールがあり、そのおかげで劇場や設備、チケットなどの金銭面のリスクを回避しています。しかし同時に、このルールは「呼んでもらえないと公演できない」ので、長期的な計画が立たず「貧乏」のリスクが発生します。
バイトして貯金して自腹を切って自主公演する、という、この業界ではめずらしくないスタイルを、なぜ取らなかったのでしょうか。そこには「貧しさ」がある、と近藤さんが嫌ったというのです。貧乏と貧しさは違う。「貧しさ」はいずれ作品にも反映され、活動の継続を危うくする。だから、自主公演はやらないと。
ひとつの目的のために、何をとって、何を捨てるか。
あらゆるものを手放すまいとすると、本筋が貧しくなってしまう危険が生まれます。
古い世代の言葉では表現できないものこそが挑戦に値する
小劇場からスタートしたコンドルズが、さらに多くの劇場から声をかけてもらうには、ダンスコンテストやフェスティバルで優勝して、名を挙げなければなりません。にもかかわらず、あるフェスのプロデューサーから、「コンドルズは何がやりたいのかよくわからない」と出場を断られます。しかし、コンドルズのやりたいことというのは、まさに「何がやりたいのかわからない」と言われることなのです。
「古い世代が言葉で説明できるモノなど、新しい世代が挑戦するに値しないモノだ」
著者は、コンドルズのめざすところを、言葉ではない方法で相手に伝え、わかってもらうためには、事実を積み重ねなくてはならない、という思いを強くします。そして、同じ年の夏に、前回断られたフェスよりもさらに大きなフェスティバルの出場権をオーディションで勝ち取ります。
その後、出場の順番決めをきっかけに、主宰者と小学生のようなケンカ(これが本当にくだらなくて爆笑)をくり広げ、公演日までの数ヶ月間は、雑誌の取材や、宣伝活動、チケット販売、そしてダンスのレッスンと、不眠不休で一気に駆け抜け、公演日に、この本のクライマックスを迎えます。
公演の結果とその後は、ぜひ本でお楽しみください。
コンドルズのホームページによると、現在、メンバーは12人。
本の中にも他の何人かが登場していて、一人残らず濃いキャラクターがにじみ出ています。( http://www.condors.jp/04.html )
今年の1月に、講座参加者のみんなとコンドルズの公演を見に行ったのですが、舞台そのものは大いに楽しんだものの、終了後、グッズ販売をしているメンバーのキャラクターは、ちゃんと観察していませんでした。
その後、この本を読んで、もったいなかったなと思ったので、次回8月の公演に行ったときは、公演外の時間も楽しみたいと思います。
(今井朋子)
【関連講座】
『近藤良平さんとワークショップ【表現力を磨くコンドルズ的ダンス】』(10月開講予定)
『コンドルズ血風録! タイム イズ オン マイ サイド』(ポプラ文庫)
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