私をつくった一冊
2023年03月15日
豊田 裕貴(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授)
慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。
1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください
写真は当時から何度も読んできたオリジナル版(左)と、その後の新訳版(右)です。ともに(上・下刊の2部からなる書籍です)。新訳のほうが読みやすいのですが、オリジナル版に愛着があり、読み返す場合には、オリジナル版を読んでしまうので、すでにボロボロになってしまっています。
2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?
この本には、学部の2年生の冬、ゼミに入って一番初めに読む指定図書として出会いました。もう30年以上前の話です。当時、マーケティングのゼミに入ったのですが、その頃にはマーケティング≒広告というような漠然とした理解しかありませんでした。
そんな軽い気持ちでマーケティングにかかわり始めたわけですが、この本を読んでマーケティングの世界へのあこがれが一気に高まり、まさに、その後の人生の方向性に大きく影響した一冊となりました。
3.どのような内容ですか?
この本は、経営学の父ともいわれるドラッカーによって1954年に書かれた名著で、今、読み返しても古びれていない素晴らしい書籍です。
当時、その中でも5章「事業とは何か(What is a Business?)」の中の一文「事業は顧客の創造を目的とするものであるから、いかなる事業も二つの基本的機能―すなわちマーケティングと革新(イノベーション)―を持っている」に強烈なインパクトを受けました。
翻訳では上のように訳されているのですが、原文では only those two basic functions: marketing and innovationとなっており、「マーケティングとイノベーションのみが顧客創造の基本なんだ」と、“これしかない!”的にワクワクしたことを思い出しました。
4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?
その後、マーケティングの歴史や理論を学び、つづいてマーケティングサイエンス(データサイエンス)の世界に進んでいったのですが、マーケティングの根本には「顧客創造がある」という揺るがない軸となる考えを持つきっかけになりました。
このようにこの本は僕のマーケティング研究者としての方向性を決めた書籍にとなりましたが、その後、いくつかの人生の分岐点にかかわることになりました。
第一は、初めて大学の教員になった多摩大学でのかかわりでした。この本を初めて読んだ当時はドラッカーの書籍ということはわかっていましたが、訳者が誰かは意識していませんでした。しかし、教員となった後、多摩大学の初代学長・野田一夫先生がこの本の監訳者であったことを知り、人生を決めた一冊にかかわった方が作った大学に勤めるという驚きがありました。生前、この話を野田先生にお伝えした際、とても喜んでいただいたことが思い出されます。
二つ目は、今の職場(法政大学経営大学院)の所属がイノベーションマネジメント研究科であるということ。まさに、マーケティングとイノベーションにあこがれて飛び込んだ研究者の道の両方にかかわる場を得ることになったわけです。
そういった意味でも「現代の経営」が私をつくった一冊と言えそうです。
5.この本をおすすめするとしたら?
この現代の経営に書かれている経営のエッセンス(経営の本質)は、経営にかかわるすべての人が、どんなタイミングに読んだとしても得るものがあると思っています。ぜひ目次だけでもみてみてください。「これは読まねば!」と感じる方も多いかと思います。そのあとに、ドラッカーの他の書籍を読んでもいいですし、ドラッカーが影響を受けたといわれているシュンペーター(創造的破壊で有名)の書籍や、イノベーション分野でのクリステンセンの書籍などに進んでも新たな気づきがあると思います。まずは、その軸として、この「現代の経営」を読まれることをお勧めします。
登録
オススメ! 秋のagora講座
2024年12月7日(土)開講・全6回
小堀宗実家元に学ぶ
【綺麗さび、茶の湯と日本のこころ】
遠州流茶道13代家元とともに、総合芸術としての茶の湯、日本文化の美の魅力を心と身体で味わいます。
オススメ! 秋のagora講座
2024年11月18日(月)開講・全6回
古賀史健さんと考える【自分の海に潜る日記ワークショップ】
日記という自己理解ツールを入口に、日常を切り取る観察力、自分らしい文章表現力と継続力を鍛えます。
いつでも
どこでも
何度でも
お申し込みから7日間無料
夕学講演会のアーカイブ映像を中心としたウェブ学習サービスです。全コンテンツがオンデマンドで視聴可能です。
登録