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夕学レポート

2011年07月12日

栗谷 仁「利益創出のためのコストマネジメント思考法~調達コストのマネジメントを中心として~」

栗谷 仁 A.T. カーニー株式会社 パートナー  >>講師紹介
講演日時:2011年4月28(木) PM6:30-PM8:30

栗谷氏は、まず、現在は「コストマネジメント」が非常に重要になってきていると指摘します。なぜなら、「利益」は、以下の簡単な方程式でもわかるように〔売上-コスト〕ですが、企業が「売上」を伸ばすのは近年ますます困難になっているため、一方の「コスト」を低減、削減することが、利益を創出する有効な方法となっているからです。
利益 = 売上 - コスト
企業が売上を伸ばすのが困難なひとつの理由として、栗谷氏は、少子化を始めとする社会的変化の影響による、国内市場の縮小・低成長を挙げます。日本の人口が減少していく中で、以前ほどモノが売れなくなっています。また、デフレ・低価格化傾向によって販売単価も低い水準のまま。つまり、販売数も、販売単価も低下していますから、売上増を狙うのは非常に難しいということなのです。


一方、中国や東南アジアなどの新興国に成長領域が移る中で、こうした新興国市場でのグローバルな競争に打ち勝つためには、低価格でも利益の出る仕組みを実現しなければなりません。例えば、競争力のある価格で販売できるよう、機能を絞り込むといったことも求められます。したがって、新興国市場への展開においても、コストを適切に管理できることが重要な成功要因となっているそうです。
栗谷氏によれば、「コストマネジメントは、売上の大幅増加に匹敵する利益クリエーター」です。例えば、10億円のコスト削減を実現すれば、その10億円が丸々利益になります。しかし、同じ10億円の利益を売上によって生み出すには、利益率10%なら売上100億円が必要になります。つまり、10億円のコスト削減は、100億円という大幅売上増加に匹敵するのですから、栗谷氏は、売上重視からコスト重視へという「発想の転換」が必要だと強調するのです。
栗谷氏は、コストマネジメントにおいては、原価、販売管理費といった会計上の切り口から離れ、「直接コスト」と「間接コスト」という2つの視点で考えることを提唱します。「直接コスト」は、売上の増減に応じて変動的に変わるコストです。営業人員人件費や、製造原材料(原価)などが相当します。一方、「間接コスト」は、売上の増減とはあまり相関(関連)しない、固定的なコストです。バックオフィスの間接人件費や、それ以外の定常的な経費のことです。コストを考える時の問題は、企業によっては、ある費用が、直接コストなのか間接コストなのか明確に切り分けられていないことです。この2つをきちんと切り分けておかないと、売上の増減に対応して、トータルコスト(直接コスト+間接コスト)がどのように変動するかを管理することができず、妥当な売上・利益予測・計画が立てられません。
栗谷氏によれば、直接コストについては比較的管理されている場合が多いとのこと。それは、調達部門が原材料の仕入れ原価を厳しく見ていますし、生産管理部門も、生産原価を抑える努力を続けているからです。また、営業部門では、1人あたりの売上と、対応する営業コストを常に監視しているからです。しかし、間接コストは管理不十分になりがちなのだそうです。いわゆる「経費」は、これを社内として監視するコスト管理部門が実質的に存在していません。しかも、妥当な購入価格はいくらかという「市場価格」が明確ではないことが多いのです。また、「バックオフィス」と呼ばれる間接部門の費用は、売上と紐付けて管理することが難しく、何が無駄なのかが明確ではないので非効率になりやすいのです。したがって、間接コストの適切な管理は、コストマネジメント上の大きな課題のひとつとなっています。
栗谷氏は、間接コスト以外にも、適切なコスト管理が難しい様々なタイプのコストを説明してくれました。例えば、どの企業でも共通して利用する汎用的なものは、市場価格が比較的明確です。しかし、特定の企業でのみ利用する特殊機械や、個別の業務委託費といったものは、適正な価格水準がはっきりしません。また、サービスも個別性が高く、コストの内訳が明確でないため、適正なコストマネジメントが難しくなります。
さて、実際にコストをマネジメントするにあたっては、そもそも「コスト」には2つの捉え方があるそうです。
ひとつは、なんらかの効果を得るための「経営資源」と考えるものです。この視点は、戦略的なものであり、費用対効果が見合わなければコスト投入を止め、他にシフトさせますが、効果が高まるのであれば、あえてコストを増加させるという選択もあります。
もうひとつは、純粋に「支出」としてコストを捉えるものです。これは基本的に抑えるべきものと考え、市場価格水準まで適正化し、無駄をなくす努力を行ないます。
また、構成要素からコストを捉えて管理するという視点もあります。下記の方程式のようにコストを構成要素(単価×数量×質)に分解して、それぞれの要素をマネジメントするという方法です。
コスト = 単価 × 数量 × 質
(例)
*調達費 = 調達単価 × 購入数量 × 品質水準
*人件費 = 人件費単価 × 人数(工数×生産性) × 業務品質
栗谷氏が提唱する「コストマネジメント思考法」ですが、大きくは2つの場面があります。最初は「必要性の判断」、次に「コストの適正化」です。
まず、「必要性の判断」は、基本的に、コストを前述した「経営資源」として捉え、そもそもの必要性を検討し、そして、コストの最適化・変動化を目指します。最適化には、「そもそもやるか?」(投資判断)、「どれからやるか」(優先順位付け)、「自分でやるか?」(内外製判断)、「どれだけやるか?」(仕様きめ)といったものがあります。変動化とは、端的には、売上と連動してコストも増減する変動コスト化を図ることで、売上が悪化した際に、固定費の影響で赤字に陥ることをできるだけ避けることです。
次の「コストの適正化」ですが、これには「集約」「分解」「統合」の3つの切り口があります。集約とは、例えば、サプライヤーの数を絞ることです。少数のサプライヤーに集中して発注することで、サプライヤー側は、設備稼働率や作業員の習熟向上、物流効率化などが図れるため、納入価格引き下げの余地が生まれます。「分解」とは、コストを構成する要素を分解して細かくチェックすることで、コスト削減余地を明確化することです。また、「統合」とは、サプライヤー ⇒自社⇒顧客という全体の流れを統合的に捉えることです。例えば、この流れに関わっている各関係企業が十分な付加価値を生み出しているかを検討し、場合によっては「中抜き」を行なうこともありえます。
これまで、売上と比較して、あまり注目されてこなかった「コスト」のマネジメントは、栗谷氏が強調するように実現した場合の効果が大きく、また時代が必要としているものであり、今後ますます関心が高まりそうです。

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