私をつくった一冊
2023年09月12日
平藤 喜久子(國學院大學神道文化学部 教授)
慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。
- 平藤 喜久子(ひらふじ・きくこ)
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- 國學院大學神道文化学部 教授
- 慶應MCC担当プログラム
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- 平藤喜久子さんと【見て、立って、感じる日本の神話と神々】(2023年10月)
1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください
2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?
高校三年生の頃、受験勉強から逃れるようにしてさまざまな小説を貪るように読んでいました。町の小さな本屋さんの文庫本コーナーがお気に入りの場所です。そこで文庫になったばかりのこの本に出会いました。1990年のことです。
3.どのような内容ですか?
16世紀末から17世紀、京で嵯峨本という書物が出版されました。企画は角倉素庵、書は本阿弥光悦、そして料紙には俵屋宗達の絵を用いるという豪華なもので、日本の出版史上でも屈指の「芸術的な」書物です。この本は、嵯峨本制作に関わった「一の声」(本阿弥光悦)、「二の声」(俵屋宗達)、「三の声」(角倉素庵)の独白で構成されます。乱世のなか、境遇もまったく違う三人が、それぞれに真摯に美と向き合い、格闘し、傑作が生まれていく。光悦と宗達がこの本の中で共作していくのは嵯峨本だけではありません。それらを小説の描写から想像し、調べ、実際に見に行く楽しみもあります。
4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?
歴史小説、歴史エッセイが好きな高校生にとっても、この本はちょっと難しいものでした。本阿弥光悦や俵屋宗達は、日本史の教科書に名前や作品は出てくるけれども、時代劇にもほとんど登場しません。あまりイメージの湧かないキャラクターです。とっつきにくいかなぁと思いましたが、読み始めたら三人の言葉遣いから浮かび上がる姿が魅力的で、どんどん引き込まれていきました。嵯峨本のこと、本阿弥光悦の書のこと、俵屋宗達の絵のこと。ますます知りたくなり、大学生になってからもこの本を手に調べ、一人で京都の鷹峯に光悦の芸術村(光悦村)の痕跡を訪ねました。今でいう「聖地巡礼」ですね。小説から歴史に興味を持つということはよくありますが、それだけではなく美術、書、活字印刷の歴史等々、いくつもの世界への扉を開いてくれました。
5.この作品をおすすめするとしたら?
出版不況、本が売れないといいます。とくに紙の本は苦戦していると聞きます。たしかに電子書籍は場所も取らず、字も大きくでき(最近深刻です)、とても便利で、わたしも愛用しています。でも、やはり紙の本を手に取ったとき、いいなぁと思います。本を企画する人、文章を書く人、挿絵を描く人がいます。紙を選び、装丁を考え、宣伝文句を考え、値段をつけます。本を出させていただく側になり、そうした本に関わる人たちのこだわりを感じるからでしょう。最近この本を読み直し、本作りの物語だったのだとあらためて感じました。日本でもっとも美しい本が生み出されていくさまを、紙の本を愛する人たちに見て欲しいです。
- 平藤 喜久子(ひらふじ・きくこ)
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- 平藤喜久子さんと【見て、立って、感じる日本の神話と神々】(2023年10月)
- 学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程日本語日本文学専攻修了。博士(日本語日本文学)。専門宗教文化士。専門は神話学、宗教学。
日本神話を中心に他地域の神話との比較研究を行う。また、日本の神話、神々が研究やアートの分野でどのように取り扱われてきたのか、というテーマに取り組んでいる。日本や海外の学生のために、日本の宗教文化を学ぶための教材を作るプロジェクトにも携わっている。
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