夕学レポート
2005年11月17日
人間としての使命感 田坂広志さん 「なぜ、我々は“志”を抱いて生きるのか
きょうの講演にあたって、事前に田坂さんから二つの要望をいただいていました。ひとつは、8時半までの2時間を自由に使わせて欲しいということ。もうひとつは質疑応答をしないで終わりたいということです。前者については「きょうのお話は重い話なので、聴衆によっては集中力が持続出来ない場合がある。会場の状況を確かめながら終了する時間を自分で決めたい」という理由からです。後者については「講演後には、その余韻の中で静かに皆さんに内省をして欲しいから」という説明をなされました。田坂さんにとって、きょうの夕学は、言葉によって何かを伝達するものではなく、同じ時間と雰囲気を共有することを通じて“場の持つ力”を感覚的につかんでいただく、まさに一期一会の出会いだったのかもしれません。進め方に対する注文は、演出やテクニックといった次元のHow-toではなく、真剣勝負の2時間に全責任を持ちたいというプロフェッショナルの矜持だったように感じています。
田坂さんに前回お越しいただいた際には、知的プロフェッショナルの思考力をテーマにしたお話でした。3年後の今回のテーマは「生きるうえでの志」です。テーマは抽象的になりましたが、その分田坂さんの思いはより鮮明・先鋭に研ぎ澄まされてきたような気がします。紹介の際にもお話しましたが、私は田坂さんのメッセージメール「風の便り」を3年近く欠かさずに読んでいます。このメールから、田坂さんの関心領域と活動が経営やマネジメントから発展して人生観や仕事観といった深淵な世界に少しずつ移っているという印象を持っていました。きょうの講演を聴きながら、なぜそうなっていったのか、少しだけわかったような気がします。
皆さんもお感じになったように、田坂さんは自らに問いを立て、自ら答えを紡ぎだし、その答えから新たな問いを立てるという思考のサイクルを回しているようです。それはソクラテスの問答法やヘーゲルの弁証法あるいは、「そもさん」「せっぱ」の禅問答のような崇高な真理に向かう終わりのない旅路なのでしょう。いかに産業を起こすか、いかに組織を運営するか、いかに部下をマネジメントするかという問題を突き詰めて考えれば考えるほど、「いかに生きるべきか」「何のために生きるのか」という根元的な問いにつながるのかもしれません、それを「哲学的」「宗教っぽい」という薄っぺらなレッテルを貼って理解してしまうのではなく、137億年の旅路の先端を歩く存在として、世代を越えて継承しようという「人間としての使命感」をしっかり受け止めなければいけないと強く思いました。
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