夕学レポート
2005年11月29日
賢明さと健全さ 黒田由貴子さん 「ファシリテーションの時代」
事前に黒田さんのプロフィールを拝見して「いったい、どんな方なのか」と正直身構えておりました。慶應卒。ソニーで海外マーケティングに従事し、フルブライト奨学生としてハーバードでMBAを取得。外資系コンサルティングフォームで活躍した後に、自ら会社を立ち上げて、いまやファシリテーションの第一人者。これ以上は望めないという圧倒的なキャリアです。ところが控え室でお会いしてみると、意外や意外、気さくで包容力があり、エリート臭を一切感じさせない暖かい雰囲気を持っています。よい意味で肩すかしを食った思いがしましたが、講演後には「これが、ファシリテーションなんだ」と納得しました。
黒田さんによれば、ファシリテーションとは「中立的な立場で、チームのプロセスを管理し、チームワークを醸成しながら、チームの成果を最大化するように支援すること」と定義できるそうです。他者の可能性を引き出し、育成する支援型のリーダー、多様な個のシナジーを産み出す触媒型のリーダーとも紹介されました。華麗なキャリアを権威や威圧と感じさせないフランクな雰囲気づくりは、ファシリテーションの基本資質なのでしょう。多くのリーダシップやビジネススキルが「それができれば苦労しないよ」と言いたくなるようなスーパーマンモデルであるのに対して、普通の人々にこそ適性があるのがファシリテーションなのだと思いました。
黒田さんは、ファシリテーションが求められる時代背景として3つの潮流変化をあげました。1.「賢明であること=頭の良さ」が求められる時代から「健全であること=心の良さ」が求められる時代へ、2.戦略や組織構造といったハードな組織変革から文化や意識といったソフトな組織変革へ、3.ピラミッド組織からネットワーク組織へ、の3つの変化です。正確にいえば、前者から後者への変化ではなく、前者から前者+後者への変化なのですが、前者の企業間格差以上に後者の格差が大きいことが問題であると認識しているそうです。少数の司令塔が絵を描き、号令をかければ動く時代から、現場の納得感と当事者意識を醸成しなければ戦略を実行できない、高度な経営の時代に変わったということでしょう。
控え室で伺ったところによれば、黒田さんがファシリテーションの重要性に着目したのは、駆け出しのコンサルタント時代だったそうです。MBAホルダーとはいえ、まだ若い女性である黒田さんが、大手企業の経営幹部を相手に戦略立案をリードしなければいけない場面に何度も出くわしたそうです。経験豊富なおじさん達を上手にその気にさせるためにどうすればいいのか悩む日が続きました。やがて、自分が主役で正論を語るのではなく、相手を主役に据えて、自ら考え、決めてもらうことの重要性に気づき、試行錯誤のうえ辿り着いたのがファシリテーションという概念とスキルだったとのこと。コンサルタントが「賢明である」だけでは人は動かず、クライアントの組織が「健全である」ことが戦略実行のKFSだと身をもって体験したのでしょう。私が黒田さんに抱いた第一印象は、15年間のファシリテーション経験で培った身体知のなせる業だったのかもしれません。
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