KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年05月29日

「パフォーマンス向上のためのダイバシティ」

日本において、ダイバシティという言葉は長らく「女性活用」「外国人雇用」と同義語で使われてきたように思います。企業のCSR報告書には決まって「ダイバシティへの取り組み」が謳われ、外国人社員比率や女性管理職比率の経年数字が掲載されています。しかしそれは、ダイバシティの表層部分を受け身的に認識しているに過ぎず、真のダイバシティ、は企業のパフォーマンス向上を目的にしたアグレッシブな取り組みであるべきです。日本の経営学者で、そのことを声高に主張する数少ない一人が、きょうの講師である谷口真美先生です。


谷口先生は、グローバル経営の潮流の中でダイバシティの意味を整理することから講演をはじめました。
経営のグローバル化に伴い、企業のステークホルダー(利害関係者)が多様化します。外部の多様化に対応するためには、内部にも多様化を取り込んでおくことが不可欠で、それこそが困難さを増すグローバル経営に勝ち抜く効率的・効果的な方法だそうです。ダイバシティはグローバル経営を選択した日本企業がクリアすべき必須課題のひとつと言えるでしょう。
谷口先生は、グローバル経営を担うグローバルリーダーに求められる能力・行動を国内外の企業にヒアリング調査をされています。そこで分かった最大の問題点は、日本企業・日本のリーダーが自分のリーダシップ・マネジメントスタイルに固執し過ぎることだそうです。谷口先生はこの現象を「パターン化」と呼んでいます。自分の成功体験や既成概念のこだわること。日本では○○だ、中国人は□□だといった画一的な枠組みで全てを理解しようとすること。いずれも「パターン化」の象徴的な行動だそうです。
「パターン化」は、リーダシップ開発の初期段階では有効ですが、多様性に対処するためには、「パターン化」にこだわりすぎず、それが通用しないことがあることを認識することや自分でパターンを否定し、再構築することが必要です。日本人はこれが苦手のようです。
谷口先生によれば脱「パターン化」のためのグローバルリーダシップ開発には、多様な人々とのプロジェクト経験やアクションラーニングの体験が効果的だそうです。異質な思考や発想を許容し受け止めることができる柔軟性を持つことが何より重要だということでしょうか。
また、谷口先生は、ダイバシティを人種・年齢・性別といった表層的レベルと個性・価値観・考え方といった深層レベルの二つのレベルに分けて説明してくれました。どちらもダイバシティとして重要ではあるのですが、これを混同して理解し、しかも先述の「パターン化」してしまうと最悪ですが、適切に分離したうえで、多様性を上手に組織の中に取り込み、適切なマネジメントができれば、組織のパフォーマンスが向上することが多くの研究で実証されているそうです。
谷口先生はダイバシティに対する企業行動を「抵抗」「同化」「分離」「統合」の4段階に分けて整理されており、自社の経営環境を吟味して、どの段階のダイバシティマネジメントを行えばよいかを選ぶことが重要だと言います。海外法人のマネジメントを現地の人に委ねたり、子会社の採用や人事制度を独自のものにしたりするのは「分離」のダイバシティマネジメントの典型例ですし、クロスファンクショナルチームによる組織変革を志向するのは「統合」段階になります。要は、我が社は、何のためにどんな成果を求めてダイバシティに取り組むのかを明確にすることが重要だということです。
海外の企業では「ダイバシティ・スコアカード」と称するダイバシティの指標化が行われているそうです。日本ではそこまでいくのに時間がかかるかもしれませんが、組織診断やリーダシップサーベイの評価ディメンションの「ダイバシティ度」という項目ができるようなる時代も近いかもしれません。

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