夕学レポート
2006年11月09日
モティべーションの持論アプローチ 金井壽宏さん
金井先生にご面識を得て、折りに触れていろいろなご相談をさせていただくようになってから、もう5年近くになります。
5年の間に、私の方は、肉体的にも、精神的にも「くたびれて来たなァ」と思うことが多いのに、金井先生は、年を取るどころか、どんどん若くなる感じで、どうみても50歳を過ぎていらっしゃるようには見受けられません。
昨夜お聞きしたところによれば、金井先生は「神戸の服地屋の倅(先生談)」だそうで、着るものにはこだわりを持つお母様に育てられ、「子どもの頃は半ズボンも別注品だった」とのこと。
オシャレのセンスは、しっかりと受け継がれて、金井先生の若々しさを一層際だたせているような気がします。
今回の夕学は、「金井先生のお話を聞いて元気になりたいのですが...」とお願いに対して、「城取さんにピッタリの本が出るから、その話でいきましょう」とい快諾いただいたことで実現いたしました。
金井先生は、かねてから「リーダシップ」「キャリア」「モチベーション」の3つの研究テーマを深く追い続けていらっしゃいますが、今回は「モチベーション」を取り上げ、ここ数年、各テーマに横串を差すようにして取り組んでいらっしゃる「持論アプローチ」と結びつけた新しいモチベーション論をお話しいただきました。
モチベーションを「動機付け」と訳すのは如何なものか、むしろ「やる気・意欲」といった能動的な語感をもった言葉を使った方が相応しいのではないか、というのが金井先生のお考えです。外から動機づけられるのではなく、自ら何かに意欲を持つ、やる気を起こす工夫をする、そういう主体的なモチベーションこそが重要だという主張です。
いつも元気でやる気に満ちた人なんていない。程度の違いはあれ、浮き沈みがあるはずだ。そうであるならば、落ち込んだ時にどうすれば元気になれるかを分かり、実践できる人が「モチベーション」が上手い人ということになります。
金井先生はこれを「自己調整」という言葉を使って説明され、何かを成し遂げた人、とことんやり抜いた人が共通して持っている特徴ではないかと言います。
金井先生によれば、モチベーション論には3つの系統があるそうです。
ひとつは「緊張・ズレ系」
緊張、危機感、欠乏、未達成感など、「このままではいかん」「何かが足りない」といった危機のエネルギーが、人を始動させるというもの。
もうひとつは「夢・希望系」
夢、希望、目標、楽しみ、自己実現など、明確で求心力のある目的に向かう時にやる気わいてくるというもの。
三つめは「持論、自己制御系」これが先述のもので、持論、自己調整などの難しい言葉を使わずとも、コツ、勘ドコロといったフランクな言葉でもいいかもしれません。
お気づきのように、「持論アプローチ」は、危機感や夢・目標を否定するものではなく、その人の立場や課題の状況によって、危機感がフィットすることも、夢・目標がピッタリとくることもありえます。自分なりのセオリーを探し導くことに本質があります。金井先生は、三つめを、先の二つとレベルが違って、両者を包含しうると言う意味で「メタ理論」という専門用語を使って説明されました。
さて、「持論アプローチ」をここまで聞くと、モチベーションは実践を繰り返して、その中から紡ぎ出すべきで、モチベーション理論の勉強をしても意味がないという安直な発想をしがちですが、金井先生は、その逆だとおっしゃいます。
実践家の持論の多くは、実は実証的な先行理論が存在しているもので、実務家の持論を補強・補完したり、他者に説明したりする時こそ「理論」は役に立つといいます。
私は、長らく社会人教育に携わってきましたが、受講された実務家の皆さんが「これは良かった」と喜んでもらえるには、二つのパターンがあるように思います。
ひとつは、「新しい知識、考えてみなかった視点を提供してもらえた」というもので、“目から鱗体験”とでもいいましょうか。
もうひとつは、「なんとかく考えていたこと、自分がやってきたことが間違いなかったという確信を得ることができた」というもので、金井先生流に言えば、「持論」が「理論」で補強されたということからもしれません。
“目から鱗体験”は若い受講生に見られることが特徴ですが、「持論」と「理論」の合体体験は、経験豊富な方、ことに役員や経営者のような立場の方がおっしゃることが多いような気がします。
意識化されないまでも「持論」的なコツや勘ドコロを持った人々が、「理論」を学ぶことで「持論」を強化する。それが「社会人にとっての学び」に他ならないことを確信した次第です。
まずは何かひとつ「持論」を持つ。
次いで、状況や課題に合わせて「持論」のバリエーションを広げる
最後には、「持論」を他者に語ることで、その人の「持論」形成を促す。
モチベーションにせよ、キャリアにせよ、リーダシップにせよ、そういう連鎖が組織の中で生まれることが重要だと金井先生はおっしゃいます。
金井先生は紛れもなく、最後のフェーズに到達していますが、はたして自分はいまどこにいるのか、そんなことを考えさえられた夜でした。
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