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夕学レポート

2007年01月23日

「戦略としてのダイバシティ」 内永ゆか子さん

日本IBMのWebサイトにある役員一覧をみると、内永ゆか子さんを筆頭に、4人の女性役員・執行役員がいることがわかります。
その比率は25%以上。国内上場企業の全役員に占める女性比率が1.2%であることを考えると圧倒的な数字であることがわかります。
しかも内永さんを含めて全員が日本IBMの生え抜きプロパー社員で、部下数千人を束ねるライン部門のトップを務めています。
女性の役員登用に積極的といわれている日本企業でも、その内実は、官僚からの天下りやの高度スペシャリスト的な存在であったりすることが多い中にあって、日本IBMの実績は抜きんでたものといえるでしょう。
ところが、きょうの内永さんの話によれば、日本では断トツのダイバシティも、ワールドワイドのIBMのダイバシティ指標でみると最下位とのこと。
フランス、ドイツ、アメリカ等々、先進国サミットの首脳の半数近くが女性になる日もそう遠くないと言われる世界の趨勢にあって、日本のダイバシティの現実には暗澹たる思いがします。
しかしながら、それをヒューマニズムで理解するのではなく、戦略的な経営視点の欠如として認識する人が少ないことが最も大きな課題であるというのが、内永さんの大きな問題提起であったと思います。


IBMのダイバシティは90年代初めのルイス・ガースナーの経営改革によって大きく進展したそうです。
IBMの経営改革といえば、それまでのメインフレームを中心としたビジネスモデルからソフト・サービス中心の総合IT企業のビジネスモデルへと大胆にシフトした戦略転換の話が有名ですが、組織マネジメントの改革として着手したのが、ダイバシティマネジメントでした。
「36万人の人的資源を最大限効率的に活用するためには、ダイバシティマネジメントは当然の論理的帰結であった」とのこと。
ガースナーは、フェミストでも人道主義者でもなんでもなく、冷徹なリアリストとしてダイバシティという戦略的な判断をした点にIBMのダイバシティの最大の特徴があります。
悲しいかな、このパラダイムシフトが日本企業のトップには起きていないというのが、内永さんが感じている問題だそうです。
講演では、このキーファクターを核に据えたうえで、内永さんが推進者として日本IBMで展開したダイバシティの具体的な取り組みが紹介されました。
98年の「ウィメンズカウンシル」スタート時の日本IBMの現状は次ぎの通りでした。
・女性社員比率-13%
・女性社員に占める管理職比率は男性の1/8
・女性の離職率は男性の2倍

内永さんのような例外的存在はあったものの、ただでさえ少ない女性社員の大部分が5年以内で辞めていくという日本企業によく見られる光景が広がっていたそうです。
これを5年間で、女性社員比率は16%、管理職比率と離職率は、男性と同率にまでもっていくというのが内永さんの掲げた目標だったそうです。この目標達成に向けて行われたさまざまな取り組みやそこでみせた内永さんのしたたかな行動については、講演で詳しく紹介していただきました。
現状を把握し、問題点を抽出し、解決策を立案して、計画化し、遅滞なく進捗管理する。
ベーシックな問題解決のプロセスを、愚直に、しかし妥協せずに実行したことがよく分かるお話でした。
私が特に印象に残ったのは、内永さんが最初に認識した「ダイバシティを阻む三つの理由(女性が早期に辞めていく理由)」です。
1.将来像がみえないこと
結婚や出産で辞めていくだけでなく、転職やMBA取得のために辞めていく人が多くいたそうです。このまま仕事をしていても将来の展望が開けない。目指すべきロールモデルがいない。というのが閉塞感を生む大きな原因だったそうです。
2.家事と仕事の両立
説明をするまでもなく、いまもって女性の活用の障害として存在する大きな問題がIBMにも厳然として存在していました。
3.オールド・ボーイズ・ネットワーク
男性社会が作り上げた「仕事かくあるべし」という暗黙のコミュニティ文化のことで、さまざまな機会を通じて男性には伝承されるものの、女性には伝えられないことに特徴があるそうです。
例えば、意見をはっきり明言すること、正論を吐くこと、誤りを指摘すること等々、表向きは正しいとされる行為が「場を読めない」「ひと言多い」「余計なことを言う」と敬遠されてしまうことで、内永さんは、若いころから有言実行の行動派だったようで、ことある毎に「オールド・ボーイズ・ネットワーク」に苦しめられたそうです、ついたあだ名が「ひと言多い内永さん」だったそうです。
上記の3つの理由は、そのまま多くの日本企業に当てはまるのではないでしょうか。「IBMのダイバシティは特別だよ」と揶揄する人います。
確かにトップの理解や風土の違いがあったのは事実で、それが追い風になったことは間違いありませんが、抱える問題点は同じだということは忘れてはいけないでしょう。
思考停止に陥ることなく、何ができるのかを考え続けていくことこそが重要です。
内永さんが現在注力しているのは、J-WIN(Japan Women’s Innovative Network)という活動で、企業・団体が業種・業容の枠を超えて女性の活用を目指そうというものです。
「ダイバシティの実現には、女性ががんばるだけでは限界がある。トップの頭を切り換えさせなければいけない」という問題意識のもと。米国のNPOと連携して日本企業に対するダイバシティ格付を発行しようという目論見です。外圧や評価に弱いという「オールド・ボーイズ・ネットワーク」を逆手にとった戦略とお見受けしました。
内永さんのしたたかな戦略家の一面を感じさせる活動です。
成功を祈ります。

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