KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2008年06月19日

社会のための富の創出を  スコット・キャロンさん

1960年代、IBM社員のお父上に伴って来日し、幼児期を日本で過ごしたというスコット・キャロンさん。本格的に日本語を学んだのは20年近く前、慶應大学の国際センターが主催する一年間の日本語集中コースだったそうです。
「その時の恩師が来ていたら困ります」とおっしゃっていましたが、なかなかどうして、微妙な言い回しや「どう言えばいいでしょうかね」と言い淀む感じまで、日本人そのもので、まったくストレスなく講演を聴くことが出来ました。
キャロンさんが、「なぜ、日本株に投資をするのか」という理由は、きわめて明解です。
ただひとつ「日本を愛しているから」
在日通算19年、子供4人を日本で育て、永住権も獲得して、日本に骨を埋めようと思っている。一人の人間として日本のために働きたい。その思いからだそうです。


もちろん、感情だけでなく、投資家としてのロジックも明確です。
バリュー投資の観点に立てば、世界の株式市場で、日本が一番魅力があると断言できるそうです。成熟した安定社会、健全な国民性、高い技術力、進んだ法整備、どの点からみても日本の潜在的な価値は高いと言えるそうです。
にもかかわらず、企業価値(時価総額)が資産価値を下回っている企業が散見されるのは、ひとえに、資産効率の悪さに起因します。
ここさえ、改善できれば経済・文化大国に相応しい価値を、世界から認めてもらうことができる。だから日本人の一人として、これを改善したい。それがキャロンさんの基本姿勢です。
「もの聞く株主」というスローガンも、この姿勢の延長線上から生まれた発想のようです。
いちごアセットマネジメントを設立した2006年当時は、「もの言う株主」の時代でした。村上ファンドやスティールパートナーズが、株主利益の尊重の御旗を掲げて、強引な交渉姿勢で経営陣に迫るスタイルが耳目を集めていました。
キャロンさんは、会社は生き物だと考えているそうです。なんでも「株主のために」は通らない。30年、40年会社にコミットしてきた経営陣や社員に対して敬意を表すことが必要である。
だからこそ、まずは「もの聞く」ことから始めたいということです。
昨年、いちごアセットマネジメントが東京鋼鉄の統合案を大株主として拒否をした事例についても言及されました。
ニュースになった部分だけを取り上げれば「もの言う株主」と変わらないように見えるかもしれないという懸念からでしょう。
キャロンさんは、統合案が否決されるにあたって、多くの個人株主の反対もあったことに言及しました。突然の統合案で、どうみても不可解な統合比率に対して、納得できる説明がなかったことから、やむにやまれぬ行動であったと話されました。
健全な個人株主の利益を尊重する社会的認知を広めるために、日本を愛するがゆえの反対だったとのこと。
キャロンさんは、投資家と企業の社会的責任を次のように考えているそうです。
<投資家の社会的責任>
資金の出し手に対する「受託者責任」と、資本市場が産み出す富の受け手である「社会への責任」の両立を目指すこと。
両者をトレードオフの関係として捉えるのではなく、投資活動を通じて社会貢献をすること。
<企業の社会的責任>
対顧客への責任:付加価値の提供
対従業員への責任:質の高い雇用の創出とやりがいのある職場づくり
対株主への責任:社会のための富の創出
日本企業は、前二つは優等生、最後については課題が多い。
つまりは「社会のための富の創出」という点で、投資家の責任と企業の責任は一致します。
企業は社会から人材というリソースを得て、企業活動を行う。投資家は社会から「資本」の委託を受けて投資活動を行う。
ともにその成果を「社会のための富の創出」という形で実現する責務を負っている共同体であるとキャロンさんは考えています。
93年以降の米国株価の伸長と同じペースで、日本の株価が推移していれば平均株価は4万円台になる。それだけの「社会の富」が創出されていれば、消費税論議も必要なかったかもしれないとキャロンさんは言います。
最後にキャロンさんは、日本の資本市場の展望性を「明るい」と断言されました。
ROEの低さはまだ欧米企業と比して差が大きいが、それは分母の大きさゆえに致し方ない。企業の姿勢は確実に変わってきた。07年は配当額でも、自社株買いでも市場最高額を記録した。08年はそれを上回っている。資本効率の改善は間違いなく進んでいる、とのこと。
キャロンさんは、「私も仲間に入れてください」と遠慮がちに言いながら、「われわれ日本人がなんとかしないといけない」と繰り返しました。
「日本は外圧がないと変わらない」
「もう一度焼け跡にならないと変革できない」
という悲観的な声をプロパーな日本人?から聞くことも多いだけに、改めて「傍観者ではいられない」という気にさせてくれました。

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