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夕学レポート

2009年05月08日

ブルーオーシャン戦略の本質 池上重輔さん

私達、実務家が経営やビジネスについて学ぶ際に、陥りがちな誤りが「わかった気になること」です。
全ての理論について言えることですが、表面的な概要を理解することと実務で使えるレベルまで習熟するのとでは、大きな違いがあります。
多くの支持を集める優れた理論というのは、シンプルでわかり易い点に特徴がありますが、それゆえに、表層部分をなぞっただけで、わかった気になりがちです。
最も悪いのは、わかった気になり、中途半端に試して失敗した時に、「この理論は実践では使えない」というレッテルを貼ってしまうことです。
池上先生の話を聞くと、ブルーオーシャン戦略に対する受け止め方も同じ兆候が散見され、誤った認識が広がっているのではないかという危惧をお持ちのようでした。
だからこそ、ブルーオーシャン戦略とは何かを、しっかりと伝えておきたい。そんな熱意を感じる講義となりました。


「広大な需要を主体的かつシステマチックに創造する戦略理論である」
これが、ブルーオーシャン戦略の定義です。短いフレーズですが、極めて重要な含意があることを、池上先生は強調されました。
1)簡単にわかるものではない。使えるレベルまで習熟するのは数百時間を要する理論であること。
巷に溢れているブルーオーシャン戦略解説の真贋を見極めるポイントは、次ぎのNGワードを使っていないかどうか。
「ブルーオーシャンを“見つける”」
「ブルーオーシャンを“掘り当てる”」
つまり、ブルーオーシャン(新市場)は探すものではなく、自らの意志により創り出すものだという本質を理解している人は、“見つける”“掘り当てる”というワードを使わないはずだとのこと。 う~ん なるほど。
2)ブルーオーシャン戦略を習熟すれば、再現性がある。 
ツールの使い方をしっかりと覚えれば、異なる製品・サービスにおいても、ブルーオーシャン(新市場)の創造をもう一度やってみせることができる。
3)あくまでもマスを対象としたものでなければならない。
一見すると、ニッチ戦略や差別化戦略と似ているように錯覚するが、市場を細分化して攻め所を限定することで優位性を持とうとする従来戦略とは似て非なるものだ。細分化ではなく、誰も見えていない、未知なる広大市場を創造するものである。
ブルーオーシャン戦略の勘どころは「捨てる」決断にあるそうです。
ブルーオーシャン戦略は、バリューの向上とコストの削減という、従来であればトレードオフ関係にある二つの要素を同時に追究するところがミソになります。
そのためには、大胆なパラダイムチェンジが必要です。
既存の常識を「捨てる」、やり方を「捨てる」、機能やスペックを「減らす」等々。
大切な要素とされてきた何かを「捨てる」ことで、はじめて土俵が変わり、市場が創造できるようになるそうです。
では、どうやって「捨てる」要素を決めるのか。
池上先生は、2つのキーワードを説明してくれました。
1)ノン・カスタマー(非顧客)に着目せよ
「顧客の声を聞く」という従来のマーケティング常識を捨て去り、広くノン・カスタマー(非顧客)を見ることが重要である。
2)代替品ではなくオルタナティブニーズを掴め
ノン・カスタマーが、なぜ買わない(使わない)のかを聞きだすことで、こういうもの(状態)を望んでいるという新需要をイメージすること。
概念で説明しても隔靴掻痒の印象は拭えませんが、日本におけるブルーオーシャン戦略の好例と言われている任天堂の「wii」を使って説明を試みてみましょう。
「wii」は、従来のゲーム業界にとっては、ノン・カスタマー(非顧客)であった、お父さん層、主婦層に着目したことにお気づきでしょう。
また、彼らの声を聞くことで、従来のゲームの代替品を考えるのではなく、ファミリーで一緒に楽しめるシチュエーションや、体全体を動かして楽しむという、ゲーム概念を越えたオルタナティブを掴み取っていることがわかります。
その結果、ゲームでありながら、従来のゲームとはまったく違った市場を創りだし、年間5000万台という巨大需要を創出することに成功しました。
ほぼ同じ時期に発売されたソニーのPS3が、従来ゲームの延長戦上で高機能化を図り、結果として価格の向上と顧客層の限定化(マニア化)を招いてしまい、レッド・オーシャンの荒波に苦しんでいる事実と比較すると対照的です。
さて、ここまで聞くと、すぐにでもチャレンジしたくなる夢のツールとして、ブルーオーシャン戦略が見えてきますが、「多くのチャレンジャーが、ここでくじける」というボトルネック部分もあります。
ノン・カスタマーの取り込みも、オルタナティブの紡ぎだしも、意思決定者が、「直接・密着・現場観察」をしないとわからないという点です。しかも半年から一年もかけて...
ここは、お金を積んでマーケティングリサーチをしても見えてこない部分、いわば実感の張りついた知識でないと意味をなさないということかもしれません。
秀才の持つ分析技術。 芸術家的な感性。 体育会風な汗臭さ。
このトライアングルの真ん中にあるのが、ブルーオーシャン戦略。
池上先生の卓越した話術に聞き惚れながら、そんな風に思ってしまいました。

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