夕学レポート
2009年07月09日
「合気道」的な仕事術
ピンクのパーカーにショートパンツ,白い野球帽にビーチサンダル。
およそ丸の内に似つかわしくない装いで現れた箭内道彦さん。
「こんな格好でスイマセンね」とペコペコと頭を下げながら、何を言っても、何をやっても許されそうな「脱力系」のオーラを発散させて会場を見回します。
自らの広告作品を紹介しながら、裏話で聴衆の笑いを誘因し、少しずつ会場の力を自分に引き込んでいく。自分に不似合いな場も、その不似合いさを力にして変えていく。
箭内さんの「合気道」的な仕事術の一端を見たような講演でありました。
箭内さんのいう「合気道」とは、相手の力を受け止め、その力を使って作品を創り出すことだそうです。
とかく個性や独創性で勝負しがちなクリエイターですが、逆にその個性が邪魔をして周囲と軋轢を生み、そのストレスがクリエイターのやる気喪失に繋がることもままあるとか。
そんな現場を数多く見てきて、自分自身も力を発揮する場を与えてもらえずに悶々とする日々を何年間も過ごしてきた箭内さんが、苦労の末に辿り着いた到達点が「合気道」的な仕事術でした。
箭内さんの言う「合気道」の本質は、相手の言うがままになることや、周囲に流されるままでいることではないようです。
むしろ相手と自分を和合させることで、相手の力を自分の力に変えてしまう「転換装置」のようなものではないでしょうか。
・タレントをその気にさせる、やる気にさせること。
・クライアントにアイデアを考えさせること。時にはCMに出演させてしまうこと。
・周囲の人に、そうとは意識させずに、自分が力を発揮できる土俵やリングを作ってもらうこと。
・ひとつのCMストーリーに複数のクライアントを相乗りさせてしまうこと。
・映画やTV番組のシチュエーションに相乗りしてCMを作ること。
・制約が多ければその制約の多さをウリにしてしまうこと。
・「悪」のイメージがあるものを「良」のイメージで使うこと。
・本来バラバラなものをひとつの袋に入れてしまうこと。
いずれも「合気道」的な仕事のやり方です。
どんな天才であろうとも、一人の人間が考えることに限界もあるし、パターン化してしまう。であるならば、自分と対極にあるような人の意見に乗っかれば、まったく違う世界が見えてくるかもしれない。それが自分の創造力を刺激してくれるはず。
そんな感じでしょうか。
きょうのお話を聞いて、相手の力を使うことだけが、「合気道」ではないということも気づきました。相手の力をそのまま使うのではなく、自分の力と結合させて2倍、3倍に膨らませるための「転換装置」が不可欠です。
箭内さんにとっては、作品の中に密かに自分のメッセージを忍び込ませることが、パワーの「転換装置」の役目を担っているようです。
講演でも紹介いただいた資生堂のUNOのCMはその典型例のようでした。
「1晩で最も多く流れた同一商品のCM」というギネスに挑戦したこのCMでは、52人の芸人を使って違うパターンのCMを流し続けました。
「若者に広がっていた、No1よりもオンリーワンという風潮にあえて棹さし、ばかばかしいことでも一番を目指す心意気を示したい」という箭内さんの反骨精神がモチベーションになったようです。
イケメン俳優やモデルではなく、あえて吉本の芸人を使ったのも、「誰だって変わることができる」という箭内さんの想いの反映でした。
「変わらないものが良い」「素材のままがよい」という世の流れへのアンチテーゼだったとのこと。
52人も芸人を使うことで、「アイツのバージョンには負けたくない」という芸人魂を引き出した「合気道」的なクリエイティブに、自分のメッセージを乗っけることで、パワーのギアをもう一段上げることが出来た事例ではないでしょうか。
終了後のサイン会では、ひとり一人に声をかけ、それぞれに異なるメッセージを添えて渡してくれた箭内さん。サービス精神も旺盛です。
聴衆の感動や元気を受け止め、自分の元気に変えていく。
「合気道」精神を最後まで発揮して帰っていきました。
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