夕学レポート
2009年11月02日
「未知との遭遇」に向けて
25年前、サンデー毎日が「大追跡!日本にピラミッドがあった!?」という大キャンペーンを組んだことを記憶している人は、一握りの好事家だけであろう。
ピラミッドと言っても、エジプトやマヤ遺跡とは異なる。人為的に加工された巨石遺構や祭祀遺跡など、学術的には黙殺されてきた謎の巨石文化が、古代日本にもあったのではないか。その謎を解明しようという特集であった。
トンデモ本やオカルト雑誌ならいざ知らず、全国紙が発刊する由緒正しい週刊誌の特集とあって、当時はかなり話題になった。
当時の編集長は、現政治評論家の岩見隆夫氏で、このキャンペーンのキャップを務めていたのが岸井茂格さんであった。
実は、当時、私は立命館大学の古代史探検部という、これまた怪しげな名前のサークルに所属しており、学園祭の目玉企画として、サンデー毎日ピラミッド特集の記者を招聘しての講演会を企てた。
依頼を快諾した岩見編集長は、岸井さんと茂木さんという二人の記者を送ってくれ、講演は大盛況であった。
この縁で、我々の活動に関心を持ってくれた岸井さんは、一ヵ月後に、飛騨高山にある位山という巨石群の調査に、一緒に行かないかと我々を誘ってくれた。
岸井さんは、その頃40代前半だったと思うが、ヒゲがよく似合う精悍な表情とロマンスグレーのヘアスタイルは、現在と同じではなかっただろうか。
祭祀として活用されたと思われる巨石遺構は、確かに存在するものの、それがピラミッドと呼べるようなものとはほど遠く、サンデー毎日の特集も2~3ヶ月程で突如終わってしまった。聞くところによると毎日社内では、伝説の失敗企画として語り残されているとのこと。
岸井さんは、「二度とピラミッドについては書かない」という一筆を社に取られたうえで、古巣の政治部に戻ったと聞いた。
それからの岸井さんの活躍振りは、衆目の知るところである。政治部キャップから、政治部長、論説委員長と上り詰めて、毎日新聞の顔として、日本を代表する政治記者・ジャーナリストとして今日に至っている。
政治記者として岸井さんの力量を論評する資格はないが、真剣になってピラミッドを追いかけたスピリットが、岸井さんのどこかで生きていると信じている。
よく言えば「夢とロマン」、口の悪い人に言わせれば「妄想や非現実性」を排除しないスケールの大きな人間性と純粋な精神が、「政治」という、これまた怪しげな世界を読み解くには、大きな武器になったに違いない。
長すぎた前振りはこれくらいにして、本題に入ろう。
岸井さんは、鳩山内閣を「未知との遭遇内閣」と評した。宇宙人然とした本人と奥さんに引っ掛けたことはもちろんのこと、メディアにとっても初めて邂逅する歴史的な意味を持った政権だからである。
1.50年以上続いた自民党の比較第一党時代が終焉した。
2.憲政史上ではじめて、野党が選挙を通して政権交代に成功した。
3.史上初の労組を支持母体に持つ政党が誕生した。
この三点が、「未知」であることの代表である。
「それをもたらしたのが、1994年に成立した小選挙区制度であった」と岸井さんは言う。
実に15年の歳月を経て、小選挙区制が持っている「二大政党による政権交代」促進機能が発揮されたのである。
小選挙区制度が議論されはじめたのは、ピラミッドの夢から醒めた岸井さんが政治部キャップとして大活躍していた1980年代の終わりである。
冷戦終結、バブル経済、リクルート事件、竹下退陣と続く激動の時代に、他ならぬ自民党の内部から「日本の政治システムを変えなければならない」という蠢動がはじまったという。
今回の政権交代が、歴史的転換点であるとするならば、小選挙区制度導入から15年という歳月は、大転換に必要な時間だったのかもしれない。
15年間、日本の政治は、振り子のように激しく振れながら変貌を遂げ、劇的な政権交代を可能した。
ペリーの浦賀来航から15年を経て、明治維新が成し遂げられたように。
満州事変から14年を経て、日本軍国主義が敗北したように。
大転換は、日本だけでなく、グローバルレベルで起きている変化であると岸井さんは指摘する。
オバマの登場が象徴するように、世界の人々の意識は大きく変わっている。
環境観、戦争観、貧困と飢餓への問題意識等々。世界の認識は百八十度変わろうとしている。鳩山政権が遭遇するであろう「未知」のベールが開かれるのは、むしろこれからかであろう。
そう考えると、「民主党内の二重権力構造」、「成長戦略の不在」、「国家戦略室の機能不全」といった問題は本質ではないのかもしれない。
いまはまだよく見えない問題、全貌が巨大であるがゆえに違った形で認識されている問題が隠されているのかもしれない。
日本のピラミッドだって、あるかもしれない。
そういう巨視的な認識が求められている時代なのである。
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