ピックアップレポート
2013年09月10日
花田 光世『「働く居場所」の作り方』
一所懸命に仕事をしている「普通の人」に向けた、元気がわく本
キャリア作りに関する本の大半は、有名人・成功者の軌跡に学ぶ物語か、逆に不安でたまらない人向けの自己啓発書です。より実践的なキャリアアップを解説する本では、いかに高い報酬の仕事を獲得するか、ブランド力のある会社に勤めることができるか、より高いポジションをどうしたらつかみ取ることができるかが書かれています。
この本では、新しい視点から、成功者のキャリア物語ではなく、普通の人のキャリアデザインとその実践の話を中心にまとめています。普通の人の話を例にすることは、当たり前ですよね。でもキャリア論ではその当たり前の話がなかなか出てこなかったのです。
本書では、キャリアアップに猛烈に挑戦して成功した人たちの話は出てきません。普通に、でも前向きに、一所懸命に責任をもって仕事をし、その仕事の中で成長を感じることの大切さを主題にして、様々なケースを取り上げました。
この本は、あなたのキャリア実践に向けて、背中をひと押しすることを目的としています。雇用が65歳に延長される中で、シニアの方々が「自分の居場所がない」と嘆かれている場面を数多く見てきました。会社では教育・育成が大事と日ごろ唱えているのに、若者の方はこの会社は「自分の居場所ではない」と距離を置いてしまっているケースにも数多く接してきました。女性が第一線で活躍することが緊急課題の時代になっているのに、職場でワークライフバランスが保たれてさえいれば、そこが「あなたの居場所ですね」といった見方をいまだにされて、悩んでいる女性社員の方々の話も数多く聴いて相談にのってきました。
「居場所」―――普段はあまり使いませんが、この言葉は、実はキャリア面談をしていると良く出てくる言葉です。自分の居場所とは、もちろん物理的な場所を指しているものではありませんし、異動先に自分のポストがないといった、人事上のポストの有無でもありません。物理的な状況よりも、むしろ一人ひとりの認識や精神状態を表す言葉として使われています。まとめると、「居場所」は、キャリア作りにおける自分の状態、仕事の役割、人間関係、心の動きなどを総合的に表す言葉として理解してください。
具体的な例で考えてみましょう。「居場所が作れた」という表現があると、それは自分の人事上のポストというより、「自分でもできる仕事があった」「仕事を作れた」「役割を作れた」といった、担当できる仕事ができたかどうかに使われることがあります。また、「周りから信頼されている」「お役に立っている」「評価されている」といった、人間関係がきちんと成立している状態を表す時にも使われます。あるいは、「自分が満足している」「安心している」「気に入っている」といった、肯定的な精神状態や心の動きを表現するときにも使われます。さらには、自分の職場の中における存在感、立場、安心・安定感などの自分の存在を示す際にも使われます。
逆に「居場所がない」ではどうでしょうか。仕事という視点でいうと、「自分の仕事がない」「役割がない」「成果をあげられない」といった場合に使われます。「信頼されていない」「批判がある」「認められていない」といった関係性を表す時にも使われています。さらには「夢も希望もない」「満足できない」「自分のいる意味がない」といった精神状態を表しています。また「不本意な状況」「言葉が通じない」「内容がよく分からない」といった状況も意味しています。
この「居場所がない」という認識により引き起こされる問題は、自分の殻や自分の世界に逃げ込んでしまうという行動につながることです。キャリア作りで重要なことは、一歩踏み出し変化を起こすことなのですが、「居場所がない」と自分の世界に逃避し、殻をかぶって閉じこもってしまう状態に至るのです。居場所という何気ない言葉ですが、それはあなたのキャリアのあり方を表します。
これからの組織では、自分の「働く居場所」は自分で作らなければなりません。組織から、上から、周囲から押しつけられる場では成り立ちません。自分の働く居場所を、自分の責任で構築していくことが必要となってきています。逃げ込む場ではなく、ぶら下がる場でもなく、あきらめざるを得ない場でもなく、自分の希望とは距離のある場でもありません。むしろ、自分のキャリアステージに見合ったライフスタイルや働き方を構築でき、自分の周りや自分自身も連続的に変化する中で、新たな可能性にチャレンジできる場であり、自分を成長させることのできる場でもあります。実は自分の「働く居場所」作りとはキャリアそのものなのです。
花田光世著『「働く居場所」の作り方‐あなたのキャリア相談室』のプロローグより著者および出版社の許可を得て編集転載。無断転載を禁ずる。
- 花田光世(はなだ・みつよ)
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- 慶應義塾大学総合政策学部教授
- 同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー代表
- 南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。産業能率大学教授、同大学国際経営研究所所長を経て、1990年より現職。
企業組織、とりわけ人事・教育問題研究の第一人者。日本企業の組織・人事・教育の問題を研究調査、経営指導する組織調査研究所を主宰する。特に最近はキャリア自律プログラムの実践、Learning Organization の組織風土づくり、情報コミュニティの構築などに関する研究、企業での実践活動を精力的に行う。
日本ベンチャー学会理事、ネオアウトソーシング開発研究フォーラム代表をはじめとする公的な活動に加え、企業の社外取締役、経営諮問委員会、報酬委員会などの民間企業に対する活動にも従事。 - 担当プログラム
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