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夕学レポート

2010年04月23日

「一輪の花に本質を見いだす感性を」 莫邦冨さん

莫邦冨さんの熱い講演の翌日、よく知る夕学受講者の方からこんな主旨のメールが届いていた。

日本人が中国の実情にうといこと、また、偏った情報しか持たないことが、よく分かりました。
ちょっと厳しい言い方ですが、日本人は豊かになりすぎて情報感度が相当鈍っているんじゃないでしょうか。

私も、自省の思いを込めつつ、強く同感する。
国家経済が、10%近い成長を20年近く続ければ、社会がどれほど豊かになるか。
私たちは、身をもって体験してきたにもかかわらず、同じ旅程を少しばかり遅れて走り出した中国に対して、あまりに鈍感ではなかろうか。
成功を妬み、失敗を喜ぶ。したたかさに目を背け、つまずきにほくそ笑む。
屈折した感情から抜けきれず、客観的な見方を持てないでいる。
中国を見下していたい。そんな潜在意識がバイアスとなって、中国の問題点にばかり目が向いてしまう。
かつて(今も?)、欧米に「エコノミック・アニマル」と揶揄された日本が、同じような視線を中国に向けている。


莫邦冨さんによれば、中国人の日本への見方は、劇的に変わったという。
「仰ぎ見る存在」から「対等な相手へ」、そして「あわれみの対象」へ。
すでにハード面で、日本が中国人を驚かせる要素は、何ひとつなくなった。
はたしてそれでよいだろうか。
幅広いジャンルで両国の橋渡しをしてきた莫さんにとって、そのギャップの拡大は深刻な問題だ。
「日本のソフトパワーに目を向ければ、20年かかっても中国が追いつける自信はない」
長年日本に暮らす莫さんは、そのことを中国からの視察団に強調している。そして中国人も少しずつ気づきはじめているという。
ある時、莫さんが中国人視察団を率いて、都内を回った。
近道をしようと、軒が連なる裏道の住宅街を通った際に、うしろを歩いているはずの視察団の声が聞こえなくなった。振り返ってみると、団長が何かを指し示しながらしきりに話している。人々も頷いている。
見ると、隣家を隔てるわずかな隙間が綺麗に清掃され、一輪の花が植えられている。
「これが日本人の素晴らしさだ」
中国であれば、こういう場所には必ずゴミが捨てられる。誰も掃除をしない。
日本人なら、誰もが見過ごすであろう当たり前の光景の中で、彼らは、日本人のソフトパワーを見いだすという。
新宿の高層ビル街に「上海と変わらない」と不満げな視察団も、新幹線が実に正確に運行されていることを知って驚くという。
「日本の夜景は暗い」と落胆する若者も、10万人の乗降客が行き来する都内の駅構内が、整然と秩序が維持されていることに感動するという。
「あわれみの対象」だった日本が、「やっぱりすごい」と再認識されていくのかもしれない。
「これからは中国(市場)だ!」
日本の経営者、ビジネスパースンは口にする。
しかし、多くが上海、北京、広州ばかりを見ている。そこが問題である。
過当競争状態にある沿岸部に、これから進出しても遅い。先入観を捨てて、内陸部に目を向ければ、広大なブルーオーシャン市場がいくらでもある。
莫さんは、しきりにそれを強調した。
江西省南昌市、河南省鄭州市、雲南省玉渓市etc。
内陸部には、商圏人口500万人規模の豊かな大都市がいくらでもある。一個800円のリンゴが飛ぶように売れていくという。
その潜在市場には、沿岸部で大人気の日本の生活用品・食品は行き渡っていない。
中国人は、路地裏に植えられた一輪の花に、日本の素晴らしさを再発見できるようになった。
日本人は、莫さんの講演から、中国の何を見いだしてくれたのか。
少しばかり暗い気持ちになった夜であった。

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