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ピックアップレポート

2013年12月10日

髙木 晴夫『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』

髙木晴夫
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

はじめに

「なぜ、一握りのマネジャーはいとも簡単に部下やチームを動かし、与えられた目標を達成できるのですか?」
「なぜ、周囲の状況を的確に判断し、正しい選択を行って、チームとして成果を出し続けるマネジャーがいるのですか?」
「どうしたら、優れたマネジャーになれますか?」

私はビジネス・スクールで、人が人の集団を動かすための知識である「組織マネジメント」を教えていますが、このような質問を学生や企業のビジネスパーソンなどから受けることがよくあります。

そうした質問をする人たちの中には、「自分はマネジャーに向いていないのでは」「自分にはマネジメントの才能がないのでは」と思い悩んでいる人が多くいます。 

彼らの多くは、優れたマネジャーはたぐいまれなる人間的魅力を持っている、あるいは圧倒的な実務の専門能力を有しているとおもっているふしがあります。

しかし、それは行き過ぎた考えです。たしかにそうした能力も大いに役立ちますが、優れたマネジャーになるための必須要素ではありません。

優れたマネジャーは、「マネジメントに最も大切なたった1つのこと」を実践しているのです。ところが、この世の中にマネジャーと喚ばれる人は山ほどいますが、その多くが、1つの「最も大切なこと」を実践できていないのです。

ここでちょっと視点を変えて、マネジメントされる部下の立場に立って考えてみてください。部下たちは多かれ少なかれ、次のような疑問や悩みを抱えています。

「自分はこの仕事が任された理由がわからない」
「自分の仕事は会社にとって本当に意味があるのか」
「自分の本来の力を発揮させてもらえない」

つまり、会社における自分の仕事と存在の価値に対して、答えを求めているのです。

マネジャーの本質的な仕事とは、そうした部下たちの疑問や悩みを解決する「適切な情報を配る」ことなのです。部下たちはこのことがわかると確実にやる気になり、惜しみなく力を発揮してくれます。

その結果として、日常の部下とのコミュニケーションはスムーズになり、上司の期待に沿った行動と成果が得られるようになります。なぜなら、「適切な情報を配る」ということが、企業という組織が円滑に活動していくための根本原理にかなうものだからです。私はこの知識を、「『配る』マネジメント」と名づけました。

企業で働くたくさんの人たちが抱える問題とは、「人と組織を動かす基礎知識」をきちんと学ぶ機会を持たないまま社会に出て、ビジネスに参加していることです。

「配る」マネジメントを知ることで、人と組織を動かす基礎知識を理解し、これを熱心に実践することで、部下やチームのメンバーを本気にさせ、望ましい行動と成果を得ることができます。

「配る」マネジメントはどのような業種、部門、年齢層(若手もベテランも)にとっても有効です。また、企業組織がフラット化していく中で、多くの部下を抱えながら自らもプレーヤーとして働いているプレイングマネジャーにも大いに役立ちます。

みなさんが、部下にもてる力を存分に発揮してもらい、自らの目標を達成し、より大きな仕事のマネジメントを任されるようになるために、「配る」マネジメントの知識を役立てていただければ幸いです。

優れたマネジャーになれる方法と道筋がある

みなさんに最初に伝えておきたいことがあります。今の時代、「マネジメントという仕事は、自己流だけではうまくいかない」ということです。会社の仕事には、経験だけから学べるものも多くあるでしょう。しかし、マネジメントに関しては、「経験から学ぶ」というやり方だけでは通用しません。マネジメントについての体系的な知識を学ぶ必要があります。

マネジメント初心者がそれでも、ぶっつけ本番で何とかやれそうな気になってしまうのは、おそらく毎日、上司の姿を見てきたからでしょう。元の上司をモデルにして、「やるべきことはわかっているし、あれくらいなら自分にも務まるかなー」というふうになんとなく理解したつもりになるのです。
あるいは、「自分が上司になったら絶対、あんなふうにはしない!」と反面教師にしているかもしれません。

しかし、1人や2人の上司の姿だけを見て、「マネジメント」を理解することができないのは言うまでもありません。その程度でマネジメントを理解できるかと言ったら、答えはNOです。それに部下の立場で見ているだけでは、上司のマネジメントスタイルに個人の性格や気質が多分に反映されてしまうため、「あのスタイルは好きだ・嫌いだ」とか「あのスタイルは合う・合わない」といった個人的な感覚という狭い範囲で考えてしまいます。

しかし、本当のマネジメントとは、個人のスタイルや好みなどに依存する感覚的なものではありません。

どんな組織や部署、部下に対しても通用する「根本的な知識」が、マネジメントの世界には存在しているのです。そして、その知識を学んで実践すれば、どんな人でも「優れたマネジャー」になることができるのです。

また、マネジメントという仕事は、とてもスケールの大きな仕事です。大変と言えば大変ですが、人が生涯をかけて追求するだけの価値のあるものだと思います。

マネジメントには「基本的な知識」があります。それらはマネジメントの仕事に必要な「道具」とも言うべき知識です。「道具」は、使って初めて自分になじんできます。また、どんな「道具」でも、使う自分なりの工夫があってこそ生きてきます。学んだことに、みなさんなりの工夫を盛り込むことで、優れたマネジメントスキルが手に入るでしょう。優れたマネジャーになるための方法と道筋について知り、真のマネジャーになるための知識を得ていただきたいというのが私の思いです。
 

2013年7月に出版された髙木晴夫著『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』の「はじめに」より著者の許可を得て改編・転載。無断転載を禁ずる。

髙木晴夫(たかぎ・はるお)
  • 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
1973年慶應義塾大学工学部管理工学科卒業、1975年同大学大学院工学研究科修士課程修了、1978年同博士課程単位取得退学。1984年ハーバード大学ビジネス・スクール博士課程修了、同大学より経営学博士号取得。1978年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助手、1985年助教授、1994年教授。2014年名誉教授。同年より法政大学経営大学院教授。
主な著書に『組織能力のハイブリッド戦略』、『実践!日本型ケースメソッド教育』、『トヨタはどうやってレクサスを創ったのか』(すべてダイヤモンド社)、『組織マネジメント戦略』(有斐閣)、訳書に『新版 組織行動のマネジメント』(ダイヤモンド社)などがある。
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