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夕学レポート

2011年02月04日

菊澤研宗教授による【ドラッカー再発見】 その4

96歳という長寿を生きたドラッカーの前半生の集大成ともいうべき著作が、『現代の経営』(1954年、ドラッカー45歳の作品)です。
ニューヨーク大学の教授として経営学者の地位を確立したドラッカーが、これまでの考えを統合する書として書き上げたと言われています。
彼は、この本をもって「マネジメントの発明者」の称号を得ることになりました。
ドラッカーは、『産業人の未来』の後に、同書を読んだアルフレッド・スローンの招きでGM社の調査研究を行い、その成果は三作目の『企業とは何か』(1946年37歳時)にまとめられました。
「自由な産業社会」の主役が企業であることを透徹していたドラッカーは、企業が社会責任を果たすということは、どういうことなのか。企業経営にどのようにして自由を取り込むことが出来るのかに思いを巡らせていきました。
そして、その問いに答える鍵は「マネジメント」にあると考えたのでした。
「来るべき自由な産業社会の主役である企業経営のあり方として、「人間主義的マネジメント」という概念を掲げ、具体的なマネジメント論を展開した。」
菊澤先生は、この本をこのように概観しています。
「人間主義的マネジメント」とは、『産業人の未来』で明らかにした「機能する社会」のあり方を、具体的な企業経営論に落とし込んだものと言えるでしょう。
・自由人(自律的人間)である社員に対して、「位置」と「役割」を与える。
・企業は、社会の利益を会社の利益に転換することで、権力の「正統性」を与えられる。
・マネジメントとは、事業に命を吹き込むダイナミックな存在、有機的な機能である。


「顧客の創造」「自己管理による目標管理(MBO)」「分権制」といった聞き慣れたドラッカー概念が、ここでようやく登場していきます。
そのなかでも、現代への予言的警鐘として注目されるのは、次の言葉ではないでしょうか。
「経営者は社員・部下をモノのように支配してはならない。人間としての「真摯さ」を持たねばならない」
ドラッカーは、経営者に対して、哲学としての「真摯さ」を求めました。
それは、宗教的な倫理観や道徳論ではありません。
繰り返し言及してきたように、「自由な社会」実現劇の主役たるべき経営者には、自由人(自律的人間)に対する敬意と尊重の精神が不可欠だと考えたからです。
そして、利益は企業の最終目的ではなく、人々の欲求を需要に換え、顧客を産み出し、市場を創ること=「顧客の創造」こそが企業の目的であると謳いあげました。
ドラッカーは、企業の利潤最大化のために「マネジメント」を発明したのではない。
ドラッカーの「マネジメント」とは、企業経営を通して、社会をより良くするために紡ぎ出された概念である。

「この本にはドラッカーマネジメントの本質が凝縮されている」
菊澤先生はそう解説してくれました。
聞くところによれば、菊澤先生は、この講義内容をベースにした本を執筆中だそうです。
現在のところのタイトル案は、『ドラッカー経営は儲からない』。
ドラッカーブームの渦中に、あえてアンチ・ドラッカーを謳うという戦略ですが、菊澤先生の真意は、ドラッカーの否定ではないことは、繰り返し述べてきた通りです。
How toとしてドラッカーマネジメントを学ぶことの意味を否定するものではないけれど、ドラッカーがマネジメント論に込めた思想に思いを巡らすことは、それ以上に重要ではないか。
この講座の結論は、そこにありました。
ちなみに、菊澤先生の「ドラッカー講座」は、春にも開催します。
タイトルを「ドラッカー再発見」から「ドラッカーに学ぶ自由な社会と企業の役割」と変え、講座の目的と内容をストレートに打ち出してみました。
今度は、三作目の『企業とは何か』の解説も入りますので、ドラッカー思想の原点ともいうべき初期三部作をすべて学んだうえで、『現代の経営』を読み込もうというものです。
ディスカッションのテーマも少し変えていく予定です。
是非、ご期待ください!!
菊澤研宗教授による【ドラッカーに学ぶ自由な社会と企業の役割】

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