KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2011年06月07日

「好きか、好きでないか」 石坂浩二さん

「この数年、(慶應に)こき使われておりまして...(笑)」
photo_instructor_575.jpg石坂浩二さんの講演は、ため息気味の愚痴を披露することで、会場をほぐすことから始まった。
確かに慶應義塾は、2008年の創立150年記念事業にちなんだ数々のイベントで
石坂さんに頼り切りであった。
・記念講演会『学問のすゝめ21』岡山会場での講演
・天皇皇后両陛下を迎えた記念式典での司会
・東京・大阪・福岡で開催した『福沢諭吉展』での音声ガイドナレーション
ここ一番という役回りで、石坂さんに大役を引き受けていただいた。
そして、今回の『夕学五十講』
石坂さんも、もういい加減十分だろう、と思っていらしたに違いないが、150年記念事業室長として、上記のイベントを仕切った慶應の岩田光晴さんに仲介をいただいて実現した。
岩田さん、ご尽力ありがとうございました。
石坂さん、本当に感謝をしております。
石坂浩二さんは、慶應義塾高校在学中に「通行人役」としてテレビに出演するようになって以来、半世紀以上途切れることなく、重要な役どころで活躍をされてきた希有な俳優である。
映画、テレビ、舞台。
大河ドラマ、ホームドラマ、時代劇、クイズ・情報番組。
役者、司会、回答者、コメンテーター、ナレーター。
その幅の広さには驚嘆する。
しかも、絵画、写真、作詞、骨董鑑定等々。文化人としても玄人領域に達している世界がいくつもあるという。
芸能界の「知の巨人」といってよいだろう。


マルチな活動の源泉となるのが、きょうの講演テーマである「好奇心」だという。
石坂さんによれば、「好奇」という言葉は、元々は「茶の湯」から生まれた言葉で、ひとつのモノ・対象をとことんまで突き詰めていく、のめり込んでいくことだ。
例えば、千利休を演じるとすると(現在放映中のNHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国」での石坂さんの役どころ)、まず利休にまつわることを徹底的に調べる。
茶の歴史、日本への伝来経緯、我が国での発展過程、武士と茶、禅と茶、堺の納屋衆等々周辺領域をどんどん深掘りしていく。
ついには、釣瓶や魚籠といった、素朴な日常の生活具を茶道具に仕立て上げた「日常性」と、二畳大の茶室に異空間を醸し出す「非日常性」に言及し、「日常性」と「非日常性」の融合にこそ、千利休の世界観がある、と熱く語る。
役作りを越えて、時代背景、文化的意味まで理解を深めていくのが石坂流である。
時には、知りすぎたことで、番組で求められている役柄設定を逸脱してしまうことがあったとしても、「知ること」が止められない。
まさに、「好奇心」の人なのだ。
「信長と利休には共通点がある」
石坂さんの見立てである。
「好きか、好きでないか」
それが、すべての判断基準になっていることだという。
信長も利休も、けっして器用に立ち回った人間ではない。
ふたりとも「高転びに転ぶ」タイプであった。
一方で、因習や常識にとらわれない、時代の革新者でもあった。
ふたりが行動を決する判断基準は、「好きか、好きでないか」、その一点ではなかったか。
この説には、ハっとするような新鮮な視点がある。
高邁な理想、社会を変えようという志ではなく、「好きか、好きでないか」を徹底することが、時代を変えていくのかもしれない。
石坂さんの「好奇心」も同じことであろう。
好きだから調べる。好きだから絵を描く。好きな仕事を選ぶ。
好きなことにのめり込めば、すぐに役には立たなくても、いつか違った形で活かせる時がくることを信じて...。
石坂さんが伝えようとしてくれたメッセージは、シンプルだが、哲学的である。
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/6月7日-石坂-浩二/

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