夕学レポート
2012年04月18日
「先端を追うには、その発端を握る必要がある」 日比野克彦さん
日比野克彦氏は、1982年PARCOが主催する日本グラフィック展で大賞を受賞し、アート界の寵児として華々しく登場した。
http://www.hibino.cc/profile/history/1982_03a.html
当時、渋谷という街は、PARCO、西武百貨店などを核にして、若者の文化発信基地として変貌しつつあった。
「作品をケースに入れて美術館に収める」という従来型のスタイルに窮屈さを感じていた日比野さん(当時東京芸大の院生)にとって、作品を作るプロセス、身体性までもアート表現に変えてしまう渋谷という街は魅力的だったという。
以来30年、日比野さんはいつもアートの先端を走ってきた。現在は、東京芸大先端芸術表現科教授の肩書きも持つ。
同時に、日比野さんは、「先端を追うには、その発端を握る必要がある」という意識も持っている。
アートの発端を握るとは、「ひとはなぜ絵を描くのか」という根本の衝動をつかまえるということである。
そのために、日比野さんは世界中を旅してきた。
「H(ホーム)からA(アウェイ)に移動した時に起こること」
日比野さんは、大好きなサッカーのメタファーで、ひとが絵を描くきっかけを考えてみようとした。
ホームであるアトリエを飛び出し、アウェイで異化体験にどっぷり浸かりながら、その刺激の中に、絵を描く衝動が潜んでいると考えたようである。
この考え方のフォーマットは、2003年から取り組んできた「明後日 朝顔プロジェクト」という活動から紡ぎ出されたものだという。
新潟妻有で開催された芸術際の一環で訪れた新潟薊平(あざみだいら)集落。
廃校になった小学校に集まった日比野さんと薊平(あざみだいら)の住人達。そこには、およそ共通点はない。強烈なアウェイ体験であったという。
線香花火のようにはかなく消え落ちる会話を経て、ようやく見つけた接点が「花を育てること」であった。
「花を育てることなら、わしら得意すけ」
「腰が曲がるほどやってきたすけ」
「夏に育てるなら朝顔すけ」
「明後日 朝顔プロジェクト」はこうして始まった。
薊平で育った朝顔は種を残す。その種を別の場所(アウェイ)に持っていく。また種が出来る。さらに違い場所で育てる。
新潟で生まれ、水戸で育った朝顔の「種」が、金沢で花開く。
アウェイでの「異化体験」が、一緒に花を育てるという「共通体験」に変わり、日本中につながっていく。
「異化」と「共感」、そこから湧き起こる衝動。
それが、「明後日 朝顔プロジェクト」から生まれたフォーマットであった。
日比野さんは、世界を旅しながら、それぞれの場所で、同じフォーマットに自分をあてはめてみることで絵を描く衝動を掴み取ってきた。
シベリア鉄道では、車窓からの光景のスケッチを100枚描いた。
インドネシアのシャーマン集落、初めて白い紙に絵を描くシャーマン達が、湧き出るイメージを噴出させるような姿に感動した。
北極のイヌイットのアザラシ狩りでは、絵筆も絵の具も凍る極寒の中で、アザラシの血糊を白い布にこすりつけた。
アレキサンドリアの海底遺跡では、視界の悪い水中に潜りながら絵を描いた。
サハラ砂漠では、5日もの砂漠の砂の旅程を経て、1万年前の岩窟壁画を訪ねた。
いずれも「異化」と「共感」、そこから湧き起こる衝動を追体験する試みであったのではないか。
人類が初めて絵を描いた洞窟は漆黒の闇の世界であったという。
絵を描くに際して必須の「イメージング」は、暗闇の中で獲得した能力である。
古代の人は、目に見えるものを描写するために絵を描いたのではない。
見えないものが見えてしまった。
その矛盾に辻褄を合わせるために、「イメージ」を目に見えるものに変換する。
それが「絵を描くこと」であった。
日比野さんが、極限世界を訪れ、そこで何を感じるかにこだわることも同じなのかもしれない。
「先端を追うには、その発端を握る必要がある」
言い換えるならば、
「発端を握ることで、先端が見えてくる」
そういうことかもしれない。
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/4月18日-日比野-克彦/
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