夕学レポート
2013年07月02日
堂々たる姿 金子啓明さん
里中満智子の長編歴史漫画『天上の虹』をご存じだろうか。1983年に始まって現在21巻。いまだ未完の超大作である。
私は、昨冬のagora講座「阿刀田高さんと、いま、広く、新しく読む『古事記』」で受講生の方から教えてもらい、お借りして一気に読んだ。
この漫画、副題が「持統天皇物語」となっていることからわかるように、7世紀半ばから8世紀初頭を舞台に、持統天皇(鸕野讃良皇女)を主人公にして、天智天皇(持統の父)、天武天皇(持統の夫)から、文武天皇(持統の孫)までの御代を描いている。
天武・持統帝の時代は、天皇の権力が最大化された時代と言えるだろう。今風の表現を使えば、日本ではじめて国家のガバナンスシステムが確立された時代とも言える。
法律(律令)、戸籍、税制(公地公民制)、都城が整備され、天皇を中心とした集権国家体制が形成されていった。天皇という名称や日本という国名が使われ始めたのもこの時代である。
一方で、文化的には、「白鳳文化」と呼ばれるひときわ華やかな文化が花開いた時代でもある。
金子啓明さんの夕学は、「白鳳文化」を代表する薬師寺のご本尊「薬師三尊像」に込められた古代人の思考と精神性、そして卓越した技術を解説していただいた。
薬師寺は、天武が皇后であった鸕野讃良皇女(後の持統)の病気平癒を願って建立がはじまったと言われる。天武亡き後は、持統がその志を継ぎ、約20年をかけ完成させた。
当時の最高権力者が、夫婦愛の象徴として、国家の平安と繁栄を願って立てた大寺院であった。
金子先生によれば、薬師如来像は、二人のイメージそのままに量感、威厳に満ちた堂々たる姿に特徴があるという。
厚い胸、太い腕、柔軟な身体、圧倒的な存在感。どれをとっても白鳳仏像の傑作である。
表面的な姿だけでなく、裏側や台座など見えない部分にまで手が込んだ造作がなされており、しかも全てが生命力を感じさせる技巧表現で統一されているという。
『大智度論』という仏典の注釈書には「如来の三十二相」というものがあるという。
悟りをひらいた仏の最高の姿を表す如来にふさわしくあるためのチェックリストのようなものかもしれない。
・足下安定立相(足の裏が平らで、立つと地に密着する)
・手足指縵網相(指の間に水かき上の膜がある)
などといった三十二項目の条件リストである。
金子先生によると、薬師如来像は、この全ての項目を満たしているという。
宇宙の力を自分のものとした仏の姿と現世を生きる人間の理想的姿を合体させた、究極の姿を造形しようとしたということだろうか。
天皇が神として人々の前に立ち現れ、日本という帝国が生まれた時代。
時代の生命力、エネルギーの象徴として作られた薬師如来像。
千三百年の時を越えて、古代に思いを馳せるのは楽しいものだ。
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