KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2014年06月10日

視点を定めるからこそ見えてくること~『ハーバード流 マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー』より~

私は慶應丸の内シティキャンパスでラーニングファシリテーターとして、皆さんの学びのサポートをしています。慶應MCCの公開プログラムに参加されたことのある方は、”あぁ!プログラム中、ずっと一緒にいたあの人達ね!”と直ぐにイメージしていただけるかと思います。
その仕事はプログラムの企画から運営まで、多岐に渡っており、中でもプログラムの企画は最もイノベーティブでやりがいのある、貴重な仕事だと感じています。

今回は、2度目の新規プログラム企画の機会に恵まれた私がその過程で出会った、おすすめの本をご紹介したいと思います。
企画のテーマはマネジメント。リーダーシップと同様に、定番であるがゆえに、なかなか既存プログラムとの差別化が難しく、その組み立てが難しいものでもあります。

ということで、まずは、既存の理論や研究、研修の調査などから始まり、幅広く情報収集にあたりました。そんな中でこれも何か役立つかもと偶然手にしたのが、今回ご紹介するIMDビジネススクール教授 マイケル・D・ワトキンス作の『ハーバード流 マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー』でした。

読み始めると驚くことに、プログラムの講師をつとめる安藤先生がこれまで主張してきたことに、切り口は違えどとても近く、自然とその著書の世界に引きこまれる自分がいました。

「マネジメントにおいては、特に移行期の過ごし方が最も難しく、重要である!」

この本は、こうした問題意識から、勝負となる最初の90日をいかに使うべきかを理論的背景も交えながら教えてくれる本なのですが、その中で度々登場するのが、STARSモデルというものです。

S(Start-up)      立ち上げ
T(Turnaround)    立て直し
A(Accelerated)    急成長
R(Realigment)    軌道修正
S(Sustaining success) 好業績をあげて次の段階進もうとする組織の継承

組織論やリーダーシップ理論においては、置かれた環境によって求められる組織構造やリーダーシップは異なるという「コンティンジェンシーセオリー」が唱えられるようになって久しいですが、移行期のリーダーにとっても置かれた環境を正しく理解し、それに合わせた行動を取ることは、とりわけ重要であるとして、ワトキンス氏はこのSTARSモデルというものを紹介しています。

著書は、移行期のリーダーに求められる<新しい組織に必要な知識や情報を効率よく学ぶこと>や<状況にあった戦略を立てること>、<初期に小さな成果を上げて流れをつくること>といった8つほどのことについて、1章ずつに分けて、それらが求められる理由や具体的に行うべき内容について、時にSTARSモデルと組み合わせながら、丁寧に解説していきます。

当初、立て直し(Turnaround)と軌道修正(Realigment) や急成長(Accelerated)と組織の継承(Sustaining success)とはどこが違うのか?と若干の疑問を抱いていたのですが、読み進めるとその違いも明確になり、場面を切って視点を定めるからこそ見えてくることがあることに気づかされます。

また、各項目の中での解説では、視点が全社に向けられたり、リーダー自身の内面に向けられたりと大きく揺さぶられながらも1つ1つ重要となるポイントが記載されており、その扱う内容の多様さにマネジメントの複雑さを改めて感じさせられます。この著書でもそれら全ての事項に漏れなくヒントが載っている訳ではないのですが、膨大な調査結果を元にした作成された各種フレームワークやチェックツール、押さえるべきポイントが随所に掲載されており、それらの一部を使ってみるだけでも、様々な気づきを得られるかと思います。

視点を定めるからこそ見えてくること

通常であれば、こうした内容を今の自分の立場から素直に読み上げるだけだったのですが、頭の中が新規プログラム(=「部長研修」)のことで一杯だった私は、いつしか”部長だったら、どう行動し、どこまで介入するべきか”と読みかえていました。

著者のワトキンスは、著書の冒頭にて、「課長からCEOまで全ての階層に有効な内容であるとして本書を書きあげた」と記しているのですが、とはいえ、それぞれの階層で求められる役割は当然のごとく違い、そこで求められる行動も明確に変わってきます。

それを漠然と把握したつもりになるのではなく、課長の立場なら…、部長の立場なら…、とより具体的にイメージしながら噛み砕いて読み進めると、まさに、別の次元で視点を定めるからこそ見えてくることがあります。

皆さんが著書を読むときも、当然ながら”自分だったら…”の置きかえをしながら読むことは多いと思いますが、今回は特に目線を1段あげて、管理職手前なら課長目線で、課長ならば部長目線で、部長ならば事業部長目線で、本部長ならば経営者の目線で今一度読み直してみることをお薦めいたします。
多くの示唆を含む著書ではありますが、その目線を変えた読み解きにより、一段と深い気づきを得られることと思います。

ワトキンス氏が90日までにやるべき事の1つ目に挙げた「準備を整える」。

これは次に向かう環境について、勉強し、自分にどんな変化が生じるかをしっかりと捉えること、とあります。まさに、昇格で部長になるならば…、今の自分(=課長)の視点ではなく、その先の部長の視点で見ることが重要と読み替えるならば…、ワトキンスもこうした読み解きを繰り返しながら、8つのポイントをその職位に合わせた形で抜かりなく、遂行してくれることを望んでいるように感じます。

皆さんが手本とし、迷った時に立ち返るマネジメント教科書の1つとして、この「90日で成果を出すリーダー」の本も携えていただければ、これからの重要なキャリアの節目ごとにきっと多くのヒントをくれることと思います。

こうして、準備を重ねてきた新規プログラム企画は、『部長研修―戦略を実現するマネジメント(現:戦略を実現するマネジメント)』として、8月27日より開講いたします。中堅マネジャー~上級管理職の方、部長、部門の経営を任されている方、全社戦略の下方展開に悩んでいる管理者の方々のためのプログラムです。

実は、講師の安藤先生とは、初めて企画に参加したプログラムでもご一緒したのですが、当時はまだ入社2年目、自分の知識・能力の至らなさから到底、プロジェクトに貢献したと言えるような活躍はできませんでした。それでもアイデアだしレベルから議論を重ねたその研修が、世に出て、年々改良を加えながら、今年で4年目を迎え、継続して皆さまに好評いただくものになったことが嬉しく、当時四苦八苦しながら全力投球でぶつかっていた当時の経験を少しだけ誇らしく感じています。

さぁ、今回のプログラムは数年後に振り返って、心から”誇らしい経験”と思えるか、今からドキドキではありますが、8月末の開講、そしてその後と引き続き大切に育てていきたいと思っております。

(鈴木 ユリ)

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