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夕学レポート

2014年06月06日

ダイオウイカを追いかけて 窪寺恒己さん

作家の荒俣宏氏によれば、博物学の歴史は大航海時代の到来とともに始まるという。
命知らずの探検家や一攫千金を夢見る商人達が繰り出す船団の中には、古今東西の珍奇なもの、ワンダー(驚異)なものを探そうとする博物学者たちも乗っていた。ドラゴン、ミイラ、人魚など彼らが探そうとした未知の珍物のひとつにクラーケン(海魔)と呼ばれる謎の巨大頭足類があった。
ダイオウイカB.png
中世の船乗り達に口伝されていたというクラーケンこそが、今夜の夕学ゲスト窪寺恒巳先生が追いかけてきた「ダイオウイカ」である。
ギネスでは全長18Mとされているが、測定法がやや眉唾的で、信憑性の高い最大全長は14.4M(触腕込みの長さ)、体長は7M。いずれにしろ巨大なイカである。
ダイオウイカA.jpg
多くの研究者や海洋ジャーナリストが生きたダイオウイカの撮影に試みたが、失敗が続いてきた。なにせ相手は水深600M~900Mの深海に棲む。真っ暗闇の世界である。
窪寺先生も2002年から小笠原沖で調査を開始し、2004年には世界初の連続静止画撮影に成功した。
2006年には、生きているダイオウイカを釣り上げる場面を動画撮影することにも成功した。
ダイオウイカC.jpgのサムネール画像
そして2009年、NHKグループが海外メディアと組み、世界の研究者、専門家を集結する大規模プロジェクトを結成。窪寺先生も加わった。
ダイオウイカの生きている姿を撮影するためにはクリアするべき条件がいくつかあった。
・イカには見えない微細な”赤い光”(近赤外線)をあてること
・微細な光で撮影できる高感度カメラを開発すること
・30時間以上の長時間撮影を可能するカメラシステム(後にメデューサシステムと呼ばれる)
・イカを誘因する方法の用意(生物発光、フェロモン、えさ等々)
それらをクリアして、いよいよプロジェクトがスタートしたのは2012年のことだった。
場所は小笠原沖。窪寺先生自身が成功確率1%と推定するほどの一か八かの大勝負であった。
ディープローパー、トライトンという2機の潜水艦が活躍した。いずれも水深1000Mまで潜ることができる。
潜水艦A.bmpのサムネール画像
潜水艦B.jpgのサムネール画像のサムネール画像
調査隊は見事に3度に渡る撮影に成功する。
無人カメラメデューサが2回、そしてハイライトは、窪寺先生が乗り込んだトライトンで撮影した23分に及ぶ映像であった。
黄金色、シルバーに輝くその姿は神秘的な感動をもたらせてくれる。
その様子はNHKオンデマンドで観ることができる(有料)
「NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ」
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2013046478SA000/
ダイオウイカの生態もいくつか解明できた。
彼らは、元は浅瀬に棲むイカだった。それが進化の過程で深海に適応していった。だから目もあるし、墨袋も残っている。黄金色、シルバーの輝きもその名残だという。
彼らを追って、マッコウクジラも深海まで潜るようになった。ダイオウイカが巨大化したのは、マッコウクジラに補食されにくくするための環境適応だったと考えれる。
ダイオウイカは600~900Mの深海に潜み、じっと上を見つめている。太陽光がほんのわずか差し込んでくるので下から仰ぎみると獲物の影が見えるのだ。獲物を発見すると静かに近づき、巨大な腕を広げて一気に包み込むように捕食する。
深海にはダイオウイカ以外にも巨大なイカがたくさんいる可能性がある。マッコウクジラの巨体がそれを示唆してくれるという。あの身体を維持するに足る十分なエサ(巨大イカ)の量があるということだ。
人間が、深海の謎究明の入口に立ったばかりのようだ。

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