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夕学レポート

2014年07月01日

ドラマ『半沢直樹』が生まれるまで 福澤克雄さん

福澤克雄
(株)TBSテレビ 制作局ドラマ制作部
『半沢直樹』演出家・映画監督
講演日:2014年7月1日(木)

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いまとは違って20年程前まで、その年のラグビー日本一は、社会人の日本一チームと大学の日本一チームによる決定戦によって決していた。確か1月15日と決まっていたと思う。
1985年に慶應ラグビー部がトヨタ自動車を破り、慶應史上初の日本一に輝いた時の中心選手の一人が、本日の講師福澤克雄氏である。

日本代表チームにも選ばれたこともある、将来を嘱望されるラガーマンだったという。
ところが福澤さんの夢は、ラグビーではなく「映画監督になる」ことであった。
慶應幼稚舎時代の担任が語った「一生続けられる仕事を見つけろ!」という言葉を素直に受け止めていた克雄少年は、映画『スターウォーズ』に出会って以来、その思いを忘れずにいた。
紆余曲折を経て、TBSに中途入社した。
「これからはテレビ局が映画を作る時代が来る。ドラマの経験を積んで準備をしておけ」
という先輩の助言が頭にあったという。
体育会で鍛えた仕切り屋の腕前と体力で下積み生活を乗り切って、35歳の時に『3年B組金八先生』でドラマ監督デビューを果たした。当時生徒役で出演したのが上戸彩であった。
2003年、明石家さんま主演で沖縄戦を描いた『さとうきび畑の唄』で文化芸術祭大賞を受賞し、ディレクターとして確固たる地位を築いた。
ジャニーズ事務所に食い込んでSMAP出演ドラマを一手に引き受けるようになり、『砂の器』(中居正広主演)『華麗なる一族』(木村拓哉主演)など大型社会派ドラマを次々ヒットさせた。2009年には『私は貝になりたい』で映画監督の夢を実現した。

最終回に42%という驚異的な視聴率をたたき出したドラマ『半沢直樹』も福澤さんの監督作品である。
意外なことに、この番組は「視聴率のことは忘れよう!」という福澤さんの掛け声と共にはじまったという。
ある事情で日曜劇場の枠が急遽飛んでしまった。言わば穴埋め企画として福澤さんが出した企画であった。
誰もが「これではあたらない」という反応だったという。
女性視聴者がメインの時間帯に「サイリョウリンテン」なんて銀行用語が頻出するドラマが受けるわけがない。しかも恋愛もない。あたるわけがない。
しかし、かねてから池井戸作品に惚れ込んで原作本をドラマ化する権利を取得していた福澤さんは、押し切って企画を通してしまった。
「視聴率のことは忘れよう!」という掛け声は、自分の企画を信じる福澤さんが、「率を追う」ドラマ作りの陥穽にはまらないようにしようという、自戒だったようだ。
福澤さんの頭の中には、『私は貝になりたい』で私淑した脚本家橋本忍氏の助言があったという。
「脚本は2~3人で書け」
「ものを伝える鍵はテンポだ」
扱いにくい大物ではなく、ワイワイと一緒に書ける若手脚本家を使おう。
テンポのいい早口のセリフ回しでいこう。
骨格を決めるにあたっての方向が決まると、あとは福澤さんのネットワークがフル稼働した。
早口なセリフ回しで真っ先に浮かんだのが、堺雅人、香川照之。脚本家は、なんでも言うことを聞いてくれる気心知れた人物。上戸彩や北大路欣也、及川光博等コネの利く大物で番組に華やかさをだす。キーマン役のおかまの黒崎検事役は、意表をついて歌舞伎の片岡愛之助に頼んだ。小劇場出身の(出演料の安い)芸達者で脇を固める。
銀行舞台が女性向きでないと言われるのなら、それで結構と腹をくくった。男性がスカッとしてくれればいい。開き直りとも言える割り切りが、ドラマのエッジをたたせることに繋がったのかもしれない。
各局もノーマークで、対抗策を打ってこないことにも助けられた。
初回視聴率19%からはじまって、21%、23%、勢いがついた時には空前の大ブームになっていた。
おもしろいことに、火をつけてくれたのは「見てもらわなくても結構」と割り切ったはずの女性であった。
「女性はホントにわからない」
福澤さんは、人懐っこい笑顔で振り返る。
『半沢直樹』を観たトヨタは、同じチームでという注文をつけて豊田喜一郎主人公のドラマ企画を持ち込んでくれた(『LEADERS リーダーズ』という題名で3月に放映)。
池井戸潤氏の本は、原作本以外も含めれば年間数百万部という空前の販売を記録した。
きょうの夕学会場にも、10回以上観ているという『半沢直樹』フリークがいた。
福澤さんの熱い思いが、偶然を力にしてメガヒットドラマを作り上げた。
メガヒットを作ろうとして作ったというよりも、おもしろがって作ったものがメガヒットになった。
大ヒットというのはそういうものかもしれない。

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