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夕学レポート

2014年10月17日

宇宙飛行士に学ぶメンタルマネジメント

photo_instructor_736.jpg「浦島太郎と桃太郎どちらが好きか?」
JAXAで宇宙飛行士選抜に関わる松崎一葉氏が、最終候補生を3人に絞るための面接で聞く最後の質問である。あなたならどちらを選ぶだろう?
今まで難しい試験に合格してきたとしても、答えによって運命が決まってしまう。
浦島太郎か桃太郎かで、宇宙飛行士への適性がわかるのだ。


宇宙飛行士のストレスマネジメント
地球から火星までは往復556日かかる。
宇宙飛行士は長期間せまい場所に閉じ込められ、飲みにも遊びにも行けない状態。昼も夜も同じメンバーで過ごす。ストレスは間違いなく溜まるだろう。
しかし、ロケットの中でうつ病になった宇宙飛行士なんて聞いたことがない。
宇宙飛行士の訓練には、ストレスマネジメントのカリキュラムがあるという。
産業精神科医でもある松崎氏は、宇宙のために開発したものを地上=会社組織にフィードバックしている。
うつ病100万人時代
あなたのまわりにうつ病で休職中の人は何人いるだろうか。
私のまわりは復帰した人も含めて10人以上いる。うつ病100万人時代と言われているのにも頷ける。
現代の「うつ」には「消耗型」と「未熟型」の2種類があるという。
松崎氏の例によると「消耗型」は「従来型」と呼ばれ、真面目で会社に尽くす人がなるケースが多い。対して「未熟型」は「新型うつ」とも呼ばれ、人格の未熟性によるものである。
自己愛が強く、根拠のない自信に満ち溢れ、自分が失敗すると上司のせいにする大人になりきれていない人たちだ。
私が以前勤めていた会社には、すべての条件を満たしている「未熟型」のサンプルのような、女性(20代後半)がいて大変苦労をした。
多くの人がこのニュータイプの扱いに困っていると思う。
私の場合は「たいして仕事もしていないのに病むなよ」と思ってしまったが、松崎氏によると「未熟型」に怒りの感情が湧いた時は、上手く自分の中で処理をしなければいけない。
出来る部下を潰してはいけない
会社で仕事をしていると「未熟型部下」ばかりに気を取られ、気づいたときには「消耗型部下」が「うつ」になっていたケースは少なくないと思う。
「消耗型」は放っておいても仕事をしてくれるからだ。
強い正義感と義務感を持ち、仕事が生きがいの人「執着気質」の人たちである。実際に会社を伸ばしているのは彼らである。
しかし身も心も休むことなく、ストレスを外に向かって解消しようとするので、ある日突然に「うつ状態」に陥る。
反対に「執着気質」の人が部下を潰してしまうケースもある。自分が完璧なため、部下にも完璧を求めてしまうのである。
仕事量を減らさなくてもストレスは減らせる
社員のうつ病が多くて困っている会社から、松崎氏に指導の依頼がくる。
しかし「仕事量を減らせない」という条件付きだ。 
松崎氏は仕事量を減らさなくても、時間的裁量権と達成感を得られる労務管理が出来れば、ストレスは減らせると言い切る。
時間的裁量権とは、自分が自由に管理出来る時間のことで、早く帰れる時は帰ればいい。
そして、達成感を得るには報酬がある。
単純な金銭インセンティブではなく、失敗した時に違う考え方もあるなどの「ものの見方の柔軟性」の誘導と、「褒めること」が持続性のあるインセンティブになってくる。
ではどのように褒めれば良いか。
結果だけ褒めても相手の承認欲求は満たされない。
さらに努力の過程を評価し、結果に対して共感することが大事になってくる。
スキルとして出来れば良いと松崎氏は言うが、私は先に述べた会社の未熟型女子に頑張ってもらおうと褒めたら、調子に乗ったのでムカついたことがある。
このケースの対処法を松崎氏に教えてほしい。
浦島太郎か桃太郎か
さて、冒頭の質問の答えだ。宇宙飛行士の最終候補生に選ばれるのは、浦島太郎を選んだ人である。最終選考まで残る人に論理性があるのは十分に証明されている。
さらに彼らは情緒性が求められるのである。
では、なぜ浦島太郎なのか。不合理で理不尽な物語を許せるからだ。
いじめられているカメを助け、酸素ボンベなしに海に潜り、竜宮城で遊んで帰って来たらおじいさん。
対照的に桃太郎は戦いの前に緻密な分析をし、サルとキジとイヌを従え鬼退治に行く。
この物語はロジックの塊なのだ。
不合理や理不尽さに耐えられるとは、情緒的余裕があるということだと松崎氏。
論理性と情緒性をバランスよく兼ね備えていると想定外なことが起きても強い。
宇宙は想定外だらけだ。
「知・情・意」のバランス
今までの時代は「知」の部分、知識と経験に基づく冷静な論理が求められてきた。
しかし、現在のストレス社会を生き抜くには「情緒的な内界の豊かさ」と「強い意志」が必要になってくる。
さらに、ビジネスにおいても想定外に強い資質、情緒的余裕が求められる。
「情緒」は子どもの頃に親から受けた教育の影響が大きいが、大人になってからでも育てることが出来るという。松崎氏は小説をたくさん読むことを推奨する。
出来れば理不尽なストーリーだ。
ストレスというと外側へ発散しようと思いがちだが、耐性を獲得していくことは内側へ向かうことが重要だと松崎氏は教えてくれた。

ほり屋飯盛
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