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夕学レポート

2014年12月05日

デザインが持つパワー 水野学さん

photo_instructor_744.jpg『いま経営に必要なブランディングとデザイン』というタイトルの講演を聴いたところで、一介のWebデザイナーである私の頭で理解できるかどうか心配だったが、その一方で「あの『くまモン』のデザイナーさんのお話」であることに興味をそそられ、楽しみ半分・不安半分で会場に足を運んだ。
ステージに登場した講師の水野さんは爽やかな白シャツ姿。なんでも、以前テレビ番組で密着取材された際に「(編集の関係で)同じような服装に統一してほしい」と頼まれたとか。いざ着てみると気分が良かったので、それ以来、ほとんどの場面で白シャツを着ているそうだ。そんな前フリを受けて、「こんなカジュアルな格好で、しかも壇上からスミマセン」というお詫びの言葉から講演がスタートした。いつも思うことだが、ある分野で突出した活躍を見せる人は、みなさん腰が低くて自然体だ。


デザイナー=コンサルタント?
水野さん率いるgood design companyの業務の多くを占めるのは、制作ではなくほぼコンサルティングだそうだ。つまり、広告代理店などから依頼される「広告をつくりたい」ではなく、クライアントから依頼される「売上げを伸ばすにはどうすればいいか」に応える機会の方が多い、ということ。
なぜ、デザイン会社がコンサルティング業務を依頼されるのか?
水野さんは「企画やアイデアのほとんどは、世に発信されるときにデザインをともなうから」と分析する。
「強い企業になるにはブランド力が必須であり、ブランディングを成功させるには、デザイン力が欠かせません。しかし多くの企業では、デザインをデザイナーに丸投げしているんです」
なるほど、デザイナーが”出口”だけでなくその前の段階から参画することは、実にムダのない自然な行為なのだ。また、水野さんの話を聞いているとそうあるべきだと納得させられる。
ちなみに私も、デザインコンペは絶対に参加しないと決めている。クライアントのビジネスをお手伝いするWebサイトを制作する業者が、大したオリエンテーションも無いまま”絵”の好みで選別されるのはおかしいと考えているからだ。勝手に納得して「うんうん」と頷きつつ、先へ。
ブランディングに成功する企業の特徴
ブランディングに成功する企業の特徴として、水野さんは3つの要素を挙げた。
ひとつめは「企業のトップがクリエイティブ感覚にも長けている」こと。Appleの強大なブランド力は、Steve Jobsというリーダーの突出したクリエイティブ感覚によって築き上げられた側面が大きい。たしかに、そのとおりだと思う。
次に「経営者の右脳としてアートディレクターを招き、ともに経営判断を行う」こと。UNIQLOのファーストリテイリングは今秋、デザイナーのジョン・C・ジェイ氏を招いてリデザインに取り組むと発表した。同氏は以前、TVCMをはじめとするUNIQLOのクリエイティブ全般を大改革した人物だ。優秀なデザイナーとタッグを組み、企業として進むべき方向を共に判断することで、さらなる飛躍をはかろうということだろうか。
最後のポイントは「経営の直下にクリエイティブ特区がある」こと。水野さんは「このポイントについての飛び抜けた事例はまだ見つからない」としながらも、「そうした体制を敷くことで、企業を内部から強くする効果があると考えています」と語った。
ブランドを構築する3大要素
では肝心の”ブランド”はどんな要素で形成されるのだろうか。その答えとして、水野さんは「時間」「精度」「らしさ」を挙げた。ひとつめとふたつめの要素については、すんなり納得できる。信頼は時間をかけて築かれるものだし、「神は細部に宿る」と言われるように、さらなる高みを目指すには隅々までこだわり限界まで精度を上げる努力が不可欠だろう。
おもしろいのは、みっつめに挙げられた「らしさ」。水野さんは、これを「シズル」と表現していた。
シズル=sizzleを辞書でひくと「ステーキ肉などがじゅうじゅうと焼ける音、転じて、食欲や購買意欲を刺激するもの」とあるが、水野さんはもっと広義で捉えている。「スポーツカーの色は?」と聞かれたときに多くの人が「赤」と答えるように、世の中には「ソーシャルコンセンサス」が存在する。これを無視して突拍子のないことをやっても、受け入れられることはまず無い。大事なのは客観性、そして本質的な魅力に気づく力。「らしさ」を見つめ直して、それにあった表現を心がけること、と話した。
水野さんがご自身の仕事において大きな功績を上げつづけている理由は、どうやらこのあたりにあるらしい。
センスアップのための知識の増やし方
水野さん曰く、「”センス”は呪いの言葉」だ。
得体の知れない、生まれながらに選ばれし者だけが身につけることのできる魔法のようなものだと思われがちだが、でも、それは間違い。
「”センス”=”数値化できない事象のよし悪しを判断し、ターゲットに対して最適化する能力”」と定義づけた上で、「センスは知識で身につけられるもの」と言う。
私も、多くの人から「良いデザイン」と評価されるのに必要な要素は、努力次第で学ぶことができると考えている。もちろん、努力だけでは醸し出せない空気のようなものは存在するが、これは「センス」より「個性」という言葉に置き換えた方がしっくりくる。
さて、ではどのような知識を積み上げたらセンスアップできるのか。
まずひとつめは「王道のもの、定番のものを知る」こと。
これを実践するのはなかなか難しいが、王道が見つかれば自分なりの判断基準が見つかる。また、見つけ出すプロセスの中で結果的に幅広い知識を得ることができる。ふと、2012年に亡くなった十八代目 中村勘三郎さんの「型を身に付けねば型破りにはなれない」という言葉を思い出した。
ふたつめは「流行っているものを知る」こと。いま流行っているからといって将来も通用する保証は無いが、「今を知る」という意味で大切だと言う。「なぜ流行しているのか」を研究すれば、マネすべき部分が見つかるかもしれない。たしかに外せないポイントだ。
みっつめは「共通項や一定のルールを見つけ出す」こと。これは、「王道・定番」への理解をさらに深めるのに大きな効果がありそうだ。
後半はこの日の講演テーマから少し脱線した気もするが、ブランディングやデザインの重要性はもちろんのこと、「デザイン」「センス」といった恐怖のワードを克服するヒントを具体的かつ実践的に伝えていただいて、個人的には大満足な内容だった。水野さんのサービス精神が凝縮したような講演だと感じた。
そうそう。余談になるが、本講演で水野さんが何かを説明するときの項目数は全て「3」で統一されていた。
Webの世界では「〇〇を実現するのに必要な5つの△△」といったタイトルが付いている記事はバズる(流行る)と言われているが、まさにそのパターン。こんなところにもヒット請負人の緻密な戦略を見た気がして、ついニヤリとしてしまった。

千貫りこ
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