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夕学レポート

2015年10月27日

SFではない、AIの”今”

photo_instructor_783.jpg今回のレビューは、私にとってかなりの難題だ。
「AIといえば、スピルバーグの映画に出てきた、あのヒューマロイドはけなげで可愛かったなあ」とか「『ターミネーター』のスカイネットは怖かった」とか、その程度の予備知識(いや、知識とは言えないレベル)しか持たず、しかも理数系がからっきしダメな私が小林さんの貴重なお話をどの程度理解できているかはなはだ不安なのだが、恐れず筆を進めてみようと思う。

AIの歴史

小林さんのお話は、AI研究の歴史を紐解くところから始まった。
1960年代から80年代にかけて主流だったのは「ルール・ベース」によるAI。「ルール・ベース」はどうやら、パソコンで仕事をする人なら多少なりともなじみのあるif文の発展系のようだ。無数のif文、つまり分岐処理を用意してやれば、たしかにさまざまなケースに対応できそうである。しかし高度なAIを実現するには、文字どおり「無数」のif文が必要だろう。
実際のところ、このやり方では現実世界に必要な柔軟性や文脈の理解に欠けるため、ある時点で挫折を余儀なくされたとのこと。
次に主流となったのは統計・確率的なデータ解析手法を応用したAI。大量のデータがあれば、「確率的に100%とは言えないが、Aを引き起こした原因は70%の確率でBであろう」といったファジーな判断が可能になる。この方法は、90年代に入ってWeb上に膨大なデータ(ビッグデータ)が蓄積されるようになったおかげで実現したという。さらに、データ通信を支えるインフラの整備や、それらを記憶したり演算したりといった処理に必要なハード面でのコストが劇的に低下したことも大きな要因だ。
そして現在、もっとも新しいのは脳科学の成果にもとづくAIだそうだ。「ニューラルネット」とも言われる。小林さんの解説によると「脳を構成する無数の神経細胞のネットワークを工学的に再現しようとする試み」らしいのだが、このあたりのお話は漠然とは理解できるものの、ほとんどお手上げだった。
当日配布された資料に「視覚野の処理機構をアルゴリズム化」という項目があるが、なぜこんなことが可能なのか全くもって意味がわからない。「頭のいい人はすごい!」と、小学生並みの感想しか出てこないのが情けないが、それしか言いようがない。

AIは身近にある

AIの研究が進んできたことで実現したのは、画像認識や音声認識などのいわゆる「パターン認識」だそうだ。そういえば、デジタルカメラの顔認識機能はいつの頃からか一般的になっているし、音声認識もあちこちで普通に使われている。
小林さんが挙げた例を紹介すると、たとえばFacebook。友達と撮った写真をアップロードすると「タグ付け」を促されるが、これはFacebookが画像を解析して「人物、それも○○さんが写っている」というところまで理解できている証拠だ。Facebookを使ったことのある人なら共感してくれるだろうが、写真に写った人の名前をかなり正確にサジェストしてくるので、ちょっと気味が悪いくらいだ。
SiriやGoogleの音声認識も、日進月歩だ。個人的にはSiriよりもGoogleの音声検索の方が聞き取り能力が高い気がするが、いずれにしても半年前と今日の精度ですら較べものにならないくらいのスピード感である。
また、忘れてならないのが自動運転車だろう。これもまた、あれよあれよという間に身近な存在になった。
Googleは2017年か18年までに完全自動運転化を目指しているというし、日本メーカーでも日産やトヨタも本格的な研究を進めている。
このくだりで興味深かったのが、Googleと自動車メーカーの考え方の違いについてのお話。小林さんいわく、「Googleにとっての自動運転車は”社会システムや人々の生き方を変える革新的な製品”であるのに対し、自動車メーカーにとっては”既存の安全システム(自動ブレーキなど)の延長線にあるドライバー支援システム”にすぎない」。
自動車メーカーがそう定義したい気持ちは分かるが、それではGoogleのただならぬ本気度に負けてしまうのではないだろうか、と余計なことまで心配してしまった。

AIは人類の敵か味方か

講演中にいくつか紹介されたAIの事例映像の中で、私がもっとも感動したのはSkypeの同時翻訳だ。アメリカとメキシコに暮らす2人の少女が、英語とスペイン語の同時通訳機能を使ってスムーズに会話する。はにかみながら「いつか会いたいね」と語り合う2人や、その周りを興味津々で取り囲む子供たちの笑顔は、AIがもたらす大きな希望に見えた。
その一方で、こうした革新的な技術は軍需によって伸びていく側面もまた否めない。イスラエル、ノルウェー、韓国、アメリカなどでは”自律的兵器”と呼ばれる戦争の道具の配備が進められているそうだ。
手をつなぐために利用される一方で、その手を断ち切る目的で使われるAI。「人工知能は人類の敵か味方か」というのが本講演のテーマだったが、敵にするのも味方にするのも、それを作り利用する人類次第なのだろう。
さて、個人的に不安を抱えたままスタートした講演ではあるが、小林さんのお話は論理的でポイントが整理されており、大変に聴きやすかった。ポイントごとに丁寧な具体例を挟んでくれるので、一瞬「?」となってもすぐに追いつくことができる。質疑応答では、サービストークに逃げることなく事実にもとづいた回答にとどめておられて、大いに説得力があった。
あと3年後に、チャンスがあれば是非もう一度小林さんのお話を聴いてみたい。AIを取り巻く日進月歩の世界は、3年も経てばガラっと変わっているだろう。そのときに小林さんの口から語られる未来が明るいものであってほしいと願いつつ、会場をあとにした。

千貫りこ

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