KEIO MCC

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夕学レポート

2015年12月01日

キャリアの緩急

photo_instructor_801.jpg日本は人口減少時代に入り、年金支払い人口約1名に対して年金受給人口1名が支えられる、いびつで働く人びとが希望を抱きにくい国になっているようだ。つまり独身者でも20歳になったとたん、扶養家族が1名もれなくついてくる感じ。そして、年金受給開始年齢が75歳以上からとなる可能性も出てきた。22歳で就職したとしても、そこから実に53年間人は働き続けなくてはならなくなるかもしれない。
不確実性の高まる国際社会において、一年後に自分のポスト、職場が存続している可能性は未知数になってしまった。従業員一人ひとりの力の総和が企業の存続を支え、ひいては社会全体の力となる。野田稔先生はキャリアを個人の成長と定義し、日本社会が抱える人口問題への不安への対策を、個人レベルで楽しくできることにまで身近に落とし込み、軽快に説明してくれた。その中でも印象に残ったのが、個人の就業を通じた成長過程(=キャリア)に緩急をつけることである。社会人生活が現在よりもっと長くなることがわかった今、どこかで一度仕事を離れて自己研鑽したり、他方死に物狂いで仕事する緩急があってよいと私も思う。


なぜなら、約50年という就業人生のどこかで、成長を続けるにはキャリアの中休みをとることが必要になってくるからだ。例えば、働く女性であれば妊娠・出産を機に仕事上の成長を1年程度お休みするだろう。お子さん2人ならば、休暇期間は2倍になる。ただし出産や子育てを通じて学ぶことや得られた視点がその後の社会生活で活きることはある。また、出産をしない人でも75歳まで働くことになるなら、学問に触れる期間をある程度作りたいと思うものではないか。
また、成長には学びも必要である。キャリアに直結する学問もさることながら、私が出席した過去3回の『夕学五十講』のうち2回で、講師がリベラルアーツ(社会・人文科学)の重要性を訴えていた。野田先生もその一人である。企業という枠組みを外れて社会や人類にとって重要な価値とはなにかを追究するために大学院に通ったら、約1~2年は本業から離れて成長することになる。
では、家庭を守ることを専業とする場合はどうか。家庭専業なので、成長の場は家庭であり企業以外の社会であるが、企業に勤めていないと成長できないわけでもない。それぞれの居場所で成長する機会を持つことができれば、社会貢献である。家事や子育て、子ども学校生活に関しては圧倒的プロフェッショナルである。子どもの成長と共に自身も成長するということもまた然りである。人生のどこに緩急をつけるかは個人の自由だが、子どもが成人を向かえ巣立っていった際には、是非その能力を社会や家族に還元することを求めたい。
ボランティアに精を出すことだって同じである。これは本来有給で行われる社会活動を無給で支えることによって、周囲の経済活動を間接的にも支援する素晴らしい活動である。また人がここからなんらかのスキルやネットワーク、心の成長が得られればそれはキャリアとして認められるべきである。
すべてのキャリアには熱中してできる期間と他のさまざまな日常のタスクと両立して行わなくてはならない兼業の時期ができるようになる。そんな緩急が長く細く続けるためには必要である。
それでも、キャリアの緩急を妨げる企業体質は存在する。キャリアの緩急をつけるには、転職を通じて職場や職業を変更することもありうる。しかし、勤続年数が企業としての成績であり、信頼の証だと、愛社精神を植えつけることを目的とした研修を組む企業も見受けられる。また、日系企業の中には今でも生え抜きを重視しており、転職者には昇進のチャンスがない企業も多い。これでは企業体質の硬直化を生むことはここで述べるまでもない。様々な成長過程を受け止めることは将来への投資であるという認知は決して高くない。
ただし、そんな人材の流動性が低い日本でも少しずつ変化は訪れていると思う。ある日系の転職コンサルタントによると新卒採用時期の統一により、定員を獲得できなかった企業は、経歴2~3年目の第二新卒と呼ばれる世代の雇用確保に執心していると教えてくれた。また、50代からのマネジメントレベルでの転職者も増加傾向だと言う。この背景には現在、転職者の売り手市場であることも考えられるが、日本企業は確実に緩急を求めて新たな居場所を探している社会人を受け入れる姿勢を持ち始めている。
企業のため、社会のために53年間成長を続けなくてはならないことは、一見とても辛いことのように思う。しかし、だからこそ緩急をつけることが重要なのだとも思う。さて、集中して執筆すること一日、そろそろワインとジャズで休憩することにしよう。。。

沙織

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