夕学レポート
2020年01月24日
No忖度上等! 望月衣塑子さん
のっけから恐縮だが、いやはや、すごい講演だった。望月衣塑子さんの熱量に圧されっぱなし。質疑応答まで含め、めくるめくドトウの2時間15分だった。
レビュー担当の講演は細かくメモを取りながら聴講するのが常だが、今回は開始10分でペンを置いてしまった。望月さんが十分な配布資料を用意してくれていたから、というのもあるし、ペンが追いつかないほどの言葉の洪水に圧倒されたから、というのもあるが、何より「メモに気を取られてこの場の空気をつかみ損ねてしまうのが惜しい」と感じたからだ。
話しはじめた瞬間に、小柄で華奢な体型からは想像できない、たいそう大きなパワーを内包している方だということがわかった。第一声からラストまで息切れすることなく一気に語りつくした2時間強。この原動力は、いったい何なんだろう。
「忖度しない」ことの価値
望月さんが特に注目されるきっかけとなったのは、官房長官記者会見をめぐる官房長官および官邸報道室との攻防だ。社会部記者の望月さんは政治部の記者とは異なる作法で会見にのぞみ、結果、会見においてさまざまな妨害を受けることになる。
実際に望月さんがどんなやり方をしているのかは、Youtubeで記者会見の映像を簡単に見つけられるので、ご自分の目で確認していただきたい。SNSや動画のコメント欄などには賛否両論が飛び交っているが、わたしは望月さんのような「空気を読まない」記者の存在価値は大きいと思っている。
望月さんが場を”荒らす”ことによって、いつもクールな印象の菅さんが言いよどんだりイライラしたり苦笑いを浮かべたり。さまざまな表情から、視聴者が想像したり判断するきっかけを得られる。それだけでも十分に意味があるだろう。
自身が熱心に取材してきた森友への国有地売却、加計学園の獣医学部新設、そして伊藤詩織さんへの準強姦疑惑、これら全ての疑惑の中心には安倍首相がいるため、「できることなら安倍さんに直接質問したい」というのが望月さんの考えだ。
しかし、テレビでよく見かける官邸エントランスでのぶらさがり会見ひとつとっても、事前要請を無視して立ち去ることも少なくないそうで、これは確かに「まともな対応」とはいえない。望月さんが憤るのはもっともだと思う。
「空気を読める」記者ばかりが優遇されている気配は、メディアと無関係のわれわれ一般人だって感じ取っている。どんな記者であれ、それなりの資格をもって取材の場に参加しているのだから、全ての質問に真摯に対応するのが政府の正しいあり方ではないだろうか。
パワーの源は、”怒り”と”「ひとりじゃない」という思い”
望月さんの原体験のひとつとなっているのは、ガキ大将とのケンカだそうだ。
子どものころ、親友の女の子がガキ大将に泣かされた。ガマンならなかった望月さんは、「なんでこんなことをするんだ!」とガキ大将に突進し、しかし返り討ちにあってボコボコにされてしまう。
望月さんが「そのときの感覚と、現在の心のありようは変わらない気がします」と話すのを聞いてハッとした。わたしも、かつては望月少女と同じように頑な正義感を持っていたのだ。しかし今は空気を読むのがうまくなり、大抵のことは「まあいいか」と見過ごしたり「仕方ない」と諦めたりしている。
望月さんとわたし(や多くの人)との決定的な違いはここだろう。望月さんは「わたしはネジが外れているから」と笑っていたが、自分の中にある純粋な正義を大切に守り続けているからこそ怒りが生まれ、怒りをパワーに変換することでこんなにも強く立っていられるのだ。
その一方で、こんな話も心に残った。
望月さんのように信念を貫いている(ように見える)人にとって迷いや不安は無縁かと思いきや、ときにはそんな感覚におそわれることもあるという。しかし、あるときSNSをのぞいたら自分と同じ思いを共有している人がたくさんいることがわかった。「ひとりじゃない」と勇気をもらったそうだ。
どんなに強く見えたって、迷いはある。不安もある。目立つ状況に置かれれば、不条理なバッシングや過度の誹謗中傷も受けるだろう。「新聞記者である自分がやらないといけない」という使命感と、ある種この社会に対する信頼感を両輪として、大人になった今もまっすぐな気持ちでガキ大将に突進しているのだ。望月衣塑子という人は。
講演後、ロビーで見かけた望月さんは、講演の疲れを全く見せずキビキビとにこやかにふるまっていた。凛としたうつくしい横顔だった。
(千貫りこ)
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