KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2007年05月02日

『問題な問題解決』という問題を解決する(1)

ほとんど言葉遊びのようなタイトルですが、私は大まじめです。
私は慶應MCCメルマガ「てらこや」2007年7月号“ファカルティズ・コラム”の中で、「『問題な問題解決』していませんか?」と問い、以下の4パターンの『問題な問題解決』が我々の周りで行われていることを指摘させていただきました。
1.モグラ叩き型問題解決
■中長期的な「あるべき(ありたい)姿」に目を向けず、目の前の問題のみ解決しようとする。
2.対症療法型問題解決
■問題の原因(なぜそういう状況になったのか?)を考えずに、拙速に解決策(どうやって問題を解決するか?)を求めようとする。
3.ダボハゼ型問題解決
■問題の原因は分析したが、そこから解決策を広く洗い出さずに、思いつきや経験則で解決策を安易に決め撃ちする。
4.ニワトリタマゴ型問題解決
■状況が「誰からみたらどう問題なのか」を考えずに、手持ちの解決策から問題を規定する。
ただ、その時のコラムでは問題提起にとどめていましたので、今回から3回に渡って再度この問題を考察してみたいと思います。
まず今回は、これら『問題な問題解決』が横行する背景(原因)を考察し、その後そこから見えてくる課題とその解決策をいくつか提案してみたいと思います。
『問題な問題解決』、なかなか無くすことは難しいと思います。ですが、これを読まれた方が少しでも自分自身の仕事(=問題解決)のやり方を見直していただければ、これに優る喜びはありません。ぜひ、最後までおつき合いください。


まずはわかりやすくするために、この4つの『問題な問題解決』の具体例を、シナリオ形式で挙げていきたいと思います。
1.モグラ叩き型問題解決
 部下:「課長、例のA社の案件で、ちょっとご相談が・・・」
 上司:「ああ、苦戦してるらしいな。売上予算が厳しいんだから、値引きでもなんでもして絶対に取ってこいよ。いいな?」
#この上司、目の前の「予算が厳しい」という問題しか見ていません。今期の予算が達成できれば良いのでしょうか? A社はどういう顧客なのか、ここで値引きすることが来期以降にどういう影響を及ぼすのか、等を本当に考えているのでしょうか? 典型的なモグラ叩きです。
#余談ですが、こういう上司に限って次の年には、「今期は売上より利益重視だからな。値引きはするんじゃないぞ」とか言い出すわけですね(笑)

2.対症療法型問題解決
 上司:「得意先B社からのクレームに関して、君の考えを聞かせてくれないか?」
 部下:「先方カンカンで、もう私の手には負えないですよ。ここは部長に行ってもらって詫びを入れるしか・・・」
#この部下、「どうしよう?」しか考えていません。そもそも、なぜそこまで先方は怒っているのでしょうか? 商品の問題なのかこちらの対応の問題なのか、それとも・・・とまずは原因を探らないと、適切な対応はできないはずです。これでは「頭痛がするから鎮痛剤」という対症療法以外のなにものでもないですね。
#またこの部下、「先方がカンカン」という目の前の状況しか見えていませんから、モグラ叩きの症状も併発していると言えます。

3.ダボハゼ型問題解決
 上司:「来期の販売促進についてだが、まずはできるだけ多くアイデア出しをしてみよう」
 部下A:「やっぱり恒例の『販売店巡礼ツアー』しかないでしょう!」
 部下B:「ですね。今期もそれが効果ありましたし、それでいいんじゃないですか?」
#これでは上司も頭が痛いでしょう(笑) 今期それが奏功したとしても、来期も通用するとは限りません。状況は常に変化していますから。経験から学ぶことは確かに重要ですが、経験のみに頼ると、目が曇って他の可能性(この場合は解決策)が見えてこない場合があります。
#また経験に依存しなくても、最初に思いついた解決策に飛びついてしまっては、やはりダボハゼと言わざるを得ません。まずは広く多く洗い出し、そこから選ぶことが肝要です。
#さらに言うとこのケース、上司にも問題有りです。アイデアを出させるにしても、テーマが抽象的すぎますから、もう少し論点を分けてあげると部下も考えやすくなるはずです。たとえば、販促アイデアを「対販売店」「対消費者」「対営業マン」に分けたり、「プッシュ型」「プル型」に分けて提示したらどうでしょう。

4.ニワトリタマゴ型問題解決
 上司:「固定資産を台帳だけで管理するのも、もう限界かなあ」
 部下:「だったらこの会計ソフト導入しましょうよ。固定資産管理機能もありますし、一番売れてるソフトみたいですよ」
#パッケージソフトというのは、確かに低コストで様々な業務を効率化してくれます。しかし、それが自社の特性や現状に合っているのか、詳細に検討してからでなければ、手段の目的化になりかねません。これがニワトリタマゴの状態です。
#これはパッケージソフトだけの問題ではありません。「他社でこの仕組みを導入して成功したから我が社でも」という上司、皆さんの周りにはいませんか? その意味では、これは対症療法型やダボハゼ型とも連動して現れる状況と言えます。

さて、これらの『問題な問題解決』を行ってしまう背景として、私は2つの“思考の癖”があると考えています。
(1)How思考
問題解決のステップにおいて、「どうやって解決するか」、つまり『How』を考えることはもちろん必要です。しかし解決を急ぐあまり、我々はすぐ「どうしよう?」と考えていないでしょうか。
迅速に問題解決しようとするあまり、結果的に目の前の問題や経験則、手持ちの解決策しか見えなくなっているわけで、“深く考えない癖”がついていると言っても良いでしょう。
さて、このHow思考、自己診断できます。「とりあえず」が口癖になっていたら要注意です。
(2)is思考
ひとつの業界でひとつの仕事を続けていると、どうしても考える際の枠組みが固定化されてきます。「こういう時はこう考える(する)と良い」というパターン化が頭の中で行われるわけです。
これは迅速に意志決定を行うためには非常に有効なのですが、「A is B」という断定だけでは、経験則や従来の常識に縛られがちになり、様々な可能性に気づかないまま問題解決を行うことになります。“広く考えない癖”がついているとも言えます。
このis思考も自己診断可能です。あなたは、「~に決まってる」や「しょせん~」が口癖になっていませんか?
いかがでしょうか?
少し、いやかなり思い当たる点がありませんか?
偉そうなことを言っている私にしても、これら思考の癖が全くないとは言い切れません。「あ、またやってしまった」と反省することが何度もあります。
次回は、これら“How思考”“is思考”から脱却するための課題について、(自分自身の仕事のやり方を見つめ直すためにも)考えてみたいと思いますので、ご期待ください。

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