ファカルティズ・コラム
2007年05月22日
『問題な問題解決』という問題を解決する(3)
前回は『問題な問題解決』を行ってしまう原因である“How思考”“is思考”から脱却するための課題を考察し、「AはBでもあるし、CやDとしてとらえても間違いではない」と考える、“as思考”を行うことを提案しました。
そして最終回である本エントリーでは、この“as思考”を習慣化するための方策についてお話ししてみたいと思います。
さて、このas思考が、ロジカルシンキングでよく言われるゼロベース思考と似た概念であることは前回お話ししました。
常識や自分の思いこみといった“思考の枠組み”にとらわれることなく、広く自由に(まさにゼロベースで)考え、多様なモノゴトのとらえ方をする。
これは多様なアイデアを出さなければならないクリエイターや企画職だけでなく、本来全てのビジネスパーソンが行うべき思考のはずです。
しかし残念ながら我々は、「こんなの無理だよなあ」「こんなこと言うと笑われるだろうなあ」という逃げ道を用意して経験則で誰でも考えつきそうな意見のみを述べたり、たとえ突飛な考えが思いついたとしても、「これしかない!」「まあこのくらいでいいか」と、さらに多様な考えを出すことをやめてしまうのです。
その要因を環境に求めることも可能でしょう。
「周りが安全・安定志向で突飛な考えは評価されない」「多くの考えを出す時間を与えられていない」という言い訳は、ある意味正論です。
しかし本当に多様な考えを周囲が期待し、時間が与えられていたらas思考は可能でしょうか。
そんなことはないはずです。やはり根源的には自分の問題でしょう。思考力系の講師として様々な方々と接した経験からも、「多様な考えを出すことをやめてしまう」というよりは、「多様な考えを出せない」方が多い、というのが私の正直な感想です。
では、なぜ我々はas思考、つまり多様なとらえ方ができないのでしょうか。
「ボールペンって何をするモノ?」と問われた際に、「字を書くモノ」「クルクル回して手持ちぶさたを解消するモノ」「物忘れを防止するモノ」「自分を表現するモノ」「会議中に動かして聞いているフリをするモノ」etc・・・がポンポンと出てこないのでしょうか。
私はその理由として、「モノゴトの見方が固定化している」ことが大きいと考えています。
いつも自分と自分の組織の立場でしか見ていないから、同じ考えしかできなくなるのです。たとえばある商品の売上が落ちれば、営業部門は商品のせいにし、開発部門は売り方を問題視しがちです。
また、見る範囲がいつも同じでも、多様な考えは出てきません。自分の職場だけを見ていては、会社の問題点を数多く列挙することなどできるわけありませんよね。
さらに、見るポイントがいつも同じであれば、新たな気づきは生まれません。財務や経理の担当者は、どうしても「お金」に目が行きがちであり、それを稼ぎ、使う「ヒト」に対する考察は後回しにしがちです。
そう考えると、「多様な見方をすること」が、「多様な考え方をすること」の第一歩であることがわかります。
「相手の立場に立って考えなさい」とはよく言われますが、相手だけでなく、もっとその状況に関わる様々に人の立場に立ってまず「見る」ことを意識するのです。
「ボールペンって何をするモノ?」と問われたら、ボールペンに関わる人をまず思い浮かべます。「ユーザーとしての自分」「それで手紙を書く人」「その手紙を受け取る人」「考えながらそれをクルクル回す人」「それを作っているメーカー」「それを売っている文房具屋さん」といったぐあいに、様々な「ヒト」が思いつくはずです。
そうしたら次に、それらの人の立場でボールペンを見て、どのようなとらえ方ができるか考えてみる。
そんなに難しいことではないはずです。
こうして立場を変えて見るのと同時に、見る範囲やポイントも変えると、よりいっそう様々な考えが浮かんでくるでしょう。
たとえばボールペンを仕事との関わりで見るのと、生活との関わりで見るのとでは、見ている範囲が違うと言えます。
また、ボールペンの筆記具としての機能に着目するのと、大きさやデザインに着目するのとでは、見ているポイントが違います。
ビジネスにおける問題解決にしても、ある状況やその中の事象・ヒト・モノ・行動などを、こうして立場や範囲、ポイントを変えてまず「見る」ことで、今まで考えつかなかったような問題の原因や課題、そして解決策を考えられるようになるはずです。
これこそがas思考のための“多様な見方の技術”です。
「君は発想が貧困だな」「もっと自由に考えてもいいのに」「アイデアは量が勝負だよ」と言われて情けない思いや悔しい思いをしたことはありませんか?
そうでなくても、「もっと広く考えられるようになりたい」とは思いませんか?
これらの問いに「YES」であるなら、ぜひこの“多様な見方”を実践してみてください。
そうすれば常識や経験則にとらわれずに様々な発想ができるようになりますし、モグラ叩きや対症療法、ダボハゼ、ニワトリタマゴといった『問題な問題解決』を行ってしまうこともなくなるはずですから。
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