ファカルティズ・コラム
2007年06月28日
「風が吹けば桶屋が儲かる」の論理(後編)
さて、そもそもこの「風が吹けば桶屋が儲かる」、なぜ我々は笑い話として受けとめることができるのでしょうか。
それはこの因果関係が一本道であり、かつ確率の低い道を「わざと」選んでいるからです。
全回のエントリーでもお話ししたように、ひとつの事象が原因となってなんらかの結果をもたらす場合、その結果は複数の事象となって現れる場合がほとんどです。
たとえば「風が吹く」という事象は、当然のことながら「砂埃が舞って人の目に入る」以外にも「木の葉がそよぐ」や「暑さが和らぐ」等、様々な結果(影響)を生み出します。
そしてこれら他の結果も、また原因として別の結果を生み出し、その連鎖は時に絡み合いながら、無限に広がっていくはずなのです。
それなのにこの笑い話では、他の事象をあえて見ないようにして、一本道を下っていってるわけです。
さらにこの一本道、時にわざと「いやまあそういうことが起きないとは言い切れないが」という道を選んでおり、そこが我々の笑いを誘うのです。
ネズミが増えたからといって、町中の桶が使い物にならなくなるとは考えにくいですよね。
しかし逆に考えると、この因果関係という論理構造は、様々な可能性を否定せずに、「広く自由に考える」ツールとして大変有効なのです。
とはいえ、「ブラジルで蝶が羽ばたけば、アメリカで竜巻が起こる」というバタフライ効果を持ちだして、カオス理論について語るつもりはありませんのでご安心ください(笑)
では、因果関係(正確には、事象の連鎖を可視化した“因果関係図”)の活用について、私個人の実話を使ってお話ししましょう。
ある日のこと、我が家のリビングで娘(当時小6)が社会の宿題をやっていました。
聞くと、「日本国憲法の中の『教育を受けさせる義務』がなくなったらどうなるか」を考えてこい、という宿題とのこと。
「ほう、どうなると思う?」と娘に尋ねると、「んー、国が乱れる?」という答え。
「それはいくらなんでも論理の飛躍だろう!」と言いたいのをこらえ(笑)て、「じゃあ、一緒に考えてみようか」と提案しました。
親子で紙を拡げ、左上に描いたマルの中に『学校に行かない』と書きながら問います。
「さて、学校に行かなくても良くなったらどうなる?」
「そうねえ、勉強しなくなる」
『学校に行かない』から矢印を引き、そこに『勉強しない』と書きます。
「じゃあ、勉強しないとどうなる?」
「算数なら・・・計算とかできなくなる」
「ふんふん、とするとどうなる?」
「おつりとかがわからくなって買い物に困る」
と、次々に紙の上に因果関係の道が伸びていきます。
「そしたらさ、勉強しない以外に、学校に行かないことで起こることってないかな?」
「んーと、あ、友達ができない」
「なるほどね。とすると・・・」
こうして様々な事象の連鎖が、1枚の紙の上に可視化されたのです。
そうすれば、あとはこの中から重要だと思われるものをピックアップし、文章化すれば宿題の一丁上がりです。
ですが、別に私は『宿題の賢い解き方』を説明したいわけではありません。
因果関係を丹念に広く・深く(できれば図を描きながら)追いかけていくことによって、漠然と考えていた時には気づかなかった要素(悪影響や好影響)に気づくことができる。
そしてこれは仕事や生活全般に応用できる『頭の使い方』であることを、皆さんにわかっていただきたいのです。
「この仕組みを導入したらこうなるから、こんないい結果を生む」という主張に対して、「確かにそれは言えるな」と思っても、そこで鵜呑み(という思考停止)にせずに、別の結果も広く深く考えてみる。
そうすれば後で「こんな悪影響が出るなんて・・・」と後悔することも回避しやすくなります。
また、因果関係は原因から結果という道を下るだけでなく、ある事象を結果してとらえ、そこから原因を遡って広く深く洗い出す、という使い方も可能です。
そう、「Why?」と「Another?」を何度も問い続けるわけです。
つまり、因果関係(図)は、『原因分析と影響分析』を同時に行うことが可能な、非常に優れた思考ツールなのです。
それも我が娘でも使えたように、「直感的に誰でも使える」というツールです。
できれば(というか強く推奨します)紙の上に「描きながら」使ってみてください。
描き方に決まりはありませんが、矢印の向きだけは間違ってはいけません。かならず事象の起こる順番で矢印を引っ張ってください。
時には連鎖がぐるぐる回るところが見つかるでしょう。これが悪循環や好循環と呼ばれるものです。“デフレスパイラル”などは悪循環の典型ですね。
この悪循環が見つかれば、どこに手を打つべきかも見えてくる場合が多いですから、問題解決のツールとしても有効です。
いかがですか?
「風が吹けば桶屋が儲かる」も捨てたものではないと思っていただけたでしょうか。
この因果関係、もっとツールとして活用してみませんか?
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