KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2007年12月13日

研修では“変身”しません

皆さんは研修やセミナーに何を期待して参加しますか?
また、部下を送り出す管理職の立場や、社員を送り出す人事の立場では?
先日、ある企業の人事の方とお話をしていて、こんな話が出てきました。
「研修を受けたら、明日から仕事の生産性が倍になると思ってる参加者がけっこう多い。また、送り出す上司も、部下が変身して帰ってくると思っている人が多くて、その意識面のギャップを埋めるのに苦労している」
これ、その企業に限らず、かなり一般的な状況だと思います。
研修講師の立場としても、しばしば同じ状況に出会います。
研修に『変身=劇的な能力・スキルの向上』を求める人は多いです。
しかしはっきり言って、それは無理です。
研修で人は“変身”しません。そんな都合の良いことはありえないのです。


考えてもみてください。
ゴルフの本を読めば、明日からプロと同じスイングができますか?
初心者が打ちっ放し(練習場)に行けば、来週のコンペで優勝できますか?
レッスンプロに一日教えてもらえば、プロテストに受かりますか?
どれも「ありえない」はずです。
スポーツに限らず、芸術でも家事でも、「いっぺん習ったくらいでは、その道のプロと同レベルにはならない」のは、みんなわかっています。
ところが、なぜかビジネススキルに関しては、変身を期待してしまう人が多い。
それだけ「自分の仕事をなんとかしたい」という意識が強いとも考えられますが、現実問題として、非力な人間がウルトラマンに変身して怪獣を倒すような、“劇的な変化”は不可能です。
では、なぜ変身できないか?
それは、頭と体に自分なりの“癖”がついているからです。
仕事や生活の繰り返しによって、『考え方』や『コミュニケーションの仕方』が体に染みついており、結果的に『仕事の仕方』も良い癖、悪い癖の両方が身に付いているのです。
ゴルフにしても、我流でずっとやってきた人がレッスンプロに習っても、染みついた悪い癖を矯正するには時間がかかります。
かえって全くの素人の方が、正しいスイング等の良い癖を早く身につけられることも多いはずです。
さて、だとすると研修やセミナーは無意味なのでしょうか。
そんなことはありません。
“変身”は無理でも、“進化”することは可能です。
つまり、『考え方』や『コミュニケーションの仕方』などをいっぺんに全部変えてしまうのではなく、やれるところから少しずつ変えていけばよいのです。
ですから、研修やセミナーを受けた後、まず考えるべきことは、「学んだことの中で、自分は何を明日から実践するか」を『決める』ことです。
ひとつでも構いません。
私は、多くても三つに絞るべきだと考えます。
これが多すぎると、結局はどれも中途半端になってしまいますから。
最初に決めた三つを実践し、なんらかの効果が出る。そして何度かの成功体験を積んだら、次の課題を決めて実践し、また成功体験を積み重ねる。
こうしたサイクルを繰り返していくことで、自分自身を進化させていくのが、正しい研修やセミナーの活用法なのです。

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