ファカルティズ・コラム
2009年10月09日
VRからARへ
アジア最大級のエレクトロニクス総合展である“CEATECH 2009”に行ってきました。
前職が元々IT関連とはいえ、日進月歩のこの分野。やはり定期的にこうして生のトレンドに触れる機会は、事業戦略もフィールドである講師としては大切なのです。
予想通り「エコ」や「モバイル」、そしてビジネス分野では「クラウド・コンピューティング」が中心の展示となっていましたが、パーソナル分野では今後『VRからARへ』がひとつのキーワードとなりそうです。
VRとはヴァーチャル・リアリティの略で、CGに代表される「限りなく現実に近い実質的(ヴァーチャル)な現実」のことです。
(ちなみにVRのことを「仮想現実」と訳すのは本来間違ってます)
今回のCEATECHでは、家電メーカーのほとんどは“3Dテレビ”を目玉にしていたわけですが、これは「VRが一般家庭にまで入り込み始めた」ことを意味します。
これが普及すれば、映画やゲームの映像面でのリアリティはまさに実質的には本物と言えるほどのレベルに近づきます。
ハイビジョンや地デジの普及は、このためのインフラ整備に過ぎないとすら言えるでしょう。
ところでこの3Dテレビ。「画面に奥行きを出してリアリティを増す」ことに注力しているメーカーと、「画面から飛び出すことでインパクトを増す」ことに注力しているメーカーに2分されていました。各メーカーのコンセプトの違いが見えてなかなか興味深かったことを付記しておきます。
さて、しかしテクノロジーとそのアプリケーションを模索する人々は、既にVRによる「本物と見紛うほどのリアリティ」の先、までも考えています。
それがAR(オーギュメンテッド・リアリティ)、『拡張現実』と呼ばれる分野です。
Wikipediaでは以下のように説明されています。
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拡張現実とは現実環境にコンピュータを用いて情報を付加提示する技術、および情報を付加提示された環境そのものを示す。
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皆さんもSF映画などで、特殊なメガネを通して見た画面に、敵の戦闘力などの各種情報が表示されているのを見たことがあるでしょう。こうした特殊メガネ(ドラゴンボールのサイヤ人も着けてましたね)をヘッドアップディスプレイと呼びますが、あれがARの具体例です。
VRが限りなく現実に近いニセモノを作る技術だとしたら、ARは現実に「目に見えないけど確かにそこにある情報」を可視化し、付加する技術と言えるでしょう。
ですから、夏のインフルエンザ騒動の際に成田空港に設置されていたようなサーモグラフィも、広義のARのひとつと言えるかもしれません。
さて、今回のCEATECHは「世界初の本格的量産ARアプリケーション」と呼ばれる『セカイカメラ』が出展されていたことも大きな話題でした。
私も実はこれを見に行ったようなモノです。
セカイカメラは、現在はiPhone上でしか動かないソフトウェアですが、先月24日にApp Storeで公開されるや、4日間で10万ダウンロードを記録しました。
それほど注目されているソフトウェアなのです。
セカイカメラを起動すると、iPhone内蔵のデジタルカメラによって目の前の景色が画面上に映し出されます。
そしてその画面上には、映し出された建物や看板などに関連する「エアタグ」と呼ばれる付加情報(文字・画像・音声)が重ねて表示されます。
たとえば、画面に映し出されたレストランに重ねて、そこで食事をしたヒトの感想や料理の写真が、空中に浮かんだ風船のように表示されるのです。
表示されているのは、自分以外のセカイカメラのユーザーがそこに残した付箋(タグ)であり、そのエアタグをタップすると詳細な情報を得ることが出来ます。
セカイカメラとは、「事実」だけでなく個人の「想い」といった様々な情報を、iPhoneのGPS機能や傾きセンサ、そしてクラウドのセンターサーバによって「共有する」アプリケーションなのです。
同じ方向を向いているのに、自分に見えていなかった景色に気づくこともあるでしょう。
また同じ景色を見ていた赤の他人が感じた、自分とは異なる意見も見つけられるでしょう。
もちろん付加される情報は時間とセカイカメラの普及に伴って増えていきます。
ニコニコ動画のコメントの“弾幕”のように、「付加された情報で現実の景色が見えない」のでは本末転倒。
だからセカイカメラには、どういったエアタグを表示するかを選択できるエアフィルターという機能があります。
たとえば指定した日に残されたエアタグだけ表示させる、といったことができるわけですね。
そうすると、未来はこんなことも可能になります。
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今日は2025年10月10日、僕の15回目の誕生日だ。
なぜか僕は父さんのiPhoneを片手に、街の雑踏の中にいる。
昨日、父さんからiPhoneを渡され、ここに行くように言われたからだ。
でも・・・ただビルが立ち並ぶ、なんにもない場所じゃないか。
帰ろうかと思っていたら、父さんから電話がかかってきた。
「セカイカメラを起動して、15年前の今日のフィルターをかけろ」だって?
まあ言われて通りにしてみた。
いろんなエアタグが浮いている。
だけど、四つ角のこのビルにカメラを向けるとわかってきたことがある。
このビル、昔は病院だったんだ。それも産婦人科の。
だってタグも赤ん坊の写真や、「カワイイ!」なんてのばっかりだから。
そう、たぶん僕はここで生まれたんだ。15年前の今日に。
とすると、きっと父さんや母さんの残したタグもあるはず。
あった・・・僕の名前の入ったタグだ。
まずは写真か。当たり前だけど父さんも若いなあ。
こっちのタグはムービーファイルか、じゃあ開いてみようか。
あ・・・母さんからだ・・・
「15年後の君は、今タイムマシンでこっちに来ているのですね」
「悲しいけど、私は15年後の君に会えません」
「だから君に15年前の私に会いに来てもらうことにしました」
「君を生んで良かった。私のこの誇らしげな顔を見てください」
・・・だめだよ母さん。見たくても見えないよ。
無理して僕を生んで、1週間後に死んじゃった母さん。
病院は無くなっちゃったけど、今、僕は15年前に僕と母さんが初めて出会った場所にいるよ。
聞こえるよ。母さんの声が。
僕や他の赤ちゃんの元気な鳴き声と一緒に。
確かに、今日僕はセカイカメラというタイムマシンに乗った。
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