KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2011年01月28日

No conflict, No innovation.

おかげさまで忙しくしています。
(こんな経済環境で仕事を次々といただくというのは本当にありがたいものです)
仕事の傾向として、春から夏はスキル系の研修が主体で、秋から冬にかけては3~6ヶ月に渡るワークショップを中心としたアクションラーニング型の研修が多くなります。
そして先週、ふたつのアクションラーニング型の研修がエンディングを迎えました。
いずれも次世代リーダーの養成を目的としたもので、私が初日の導入研修(戦略やマーケティングの基礎知識と基本スキル)と中盤からのワークショップのコーディネートとファシリテーションを担当しました。
2社とも最後のグループ単位のプレゼンテーション(事業や仕組みのトップに対する提案)のレベルが高く、参加者のコミットメントの高さに大いに勇気づけられました。
さて、こうした研修の最後に、私がクロージング・メッセージとしてお話しさせていただくことがあります。

英語の格言に「No pain, No gain.」というのがあります。
painは痛み、gainは前進・獲得の意ですから、「痛みなくして成長なし」と訳すことができるでしょう。
日本のことわざで最も近いのは「蒔かぬ種は生えぬ」でしょうか。
ヒトは自分の楽なこと、やり慣れたことだけやっていては成長することはできません。
勉強はいつの時代も面倒くさいものですし、苦手なことを克服しようとすれば辛い練習にも耐えなければなりません。
前述のワークショップ型の研修も、研修以外の時間にグループで集まって議論したり、時にはフィールドワークに出掛けるなど、自身の時間と労力を使ってたいへんな苦労をしなければ、良いアウトプット(トップへの提案)は出ません。
そうしてたいへんな苦労を通して学んだことが自身の力になっていくのです。
「修羅場体験が人を育てる」と言われるのも、まさに同じです。ある意味こうしたワークショップ型の研修は『バーチャルな修羅場体験』と言えるでしょう。
しかしこの「No pain, No gain.」、個人だけでなく組織にも当てはまります。
組織もまた「痛みなくして成長なし」なのです。
では、組織の痛みとはなんでしょう。
私はそれは組織内の対立・揉め事、つまりコンフリクトだと思います。
考えてみてください。
何もコンフリクトの起きない組織がどうなるかを。
対立を恐れ、何事も穏便に済ませようという意識を組織の構成員が持っていれば、確かにみんな楽でしょうし、日々は平穏に過ぎていくかもしれません。
しかし、それが前例踏襲と事なかれ主義の蔓延に繋がっていくのです。
「お役所仕事」という言葉は、役所だけのものではないのです。
役所も今や意識や構造の変革が求められる時代です。
現在の環境で民間企業が変革なくして生き残れるわけもありません。
コンフリクト、つまり波風が立たない組織に変革と成長はありえないのです。
ファシリテーションの分野には『コンフリクト・マネジメント』という言葉があります。
会議における様々なコンフリクトをどう回避・緩和・解消させるのか、ということですが、だからと言ってコンフリクトの全てが悪ではありません。
そう、「何かを良い方向に変えていくためには避けて通れないコンフリクト」もたくさんあるのです。
「あえてコンフリクトを起こすべき」場面すらも。
しかしどうしても私たちはこのコンフリクトを忌避してしまいます。
日本人のメンタリティの影響もあるでしょうし、「今後も一緒に仕事するのだからしこりは残したくない」という意識も働くのでしょう。
また、「総論賛成各論反対」→「結局元の鞘(変化なし)が無難」になる例も多いように思います。
それでは何も変わらないし、変えなければいけないとわかってはいても、です。
だから私はワークショップ型の研修の最後でお願いするのです。
波風や対立を起こすことを恐れないでください。
時には嫌われ者になったとしても、変えなければいけないものは変えてください。
「No conflict, No innovation.」です。
それが高いコストをかけて学んだ皆さんの義務なのです。

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