KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2012年02月24日

コース料理で学ぶかアラカルトで学ぶか

「必要な時に必要なモノ」は現在の消費トレンドのひとつです。
たとえば各種レンタルサービスや音楽のダウンロード販売が定着した、という事実がそれを物語っています。
その要因としては、以前のようにクルマやブランド品を「所有する」ことがステータスではなくなってきたこと、また中古品への抵抗感が減ったことが挙げられます。
また、長引く不況に伴う可処分所得の低下と消費選択肢の増大というミスマッチもその背景と言えるでしょう。
その結果、モノからサービスに消費行動はシフトしており、製造業にとってはますますモ厳しい時代になっているわけですが、実は本日の本題はそこではありません(笑)
この「必要な時に必要なモノ」というキーワードで”学習”について考えてみたいのです。

私たちが「何かを学ぶ」という行動を緊急性という視点で考えると、それは2つに分けられます。
つまり「今それを学ぶ必要がある」ケースと「今すぐ必要ではないが今後必要になる」ケースです。
後者の代表的モデルが『学校』です。
様々な分野の「体系化された」知識・スキルを順序立てて学んでいきます。
そう、まるでコース料理を食すように。
この『コース料理型』学習は、ある分野の全体像をつかみ、そして詳細を基礎から応用まで順序立ててロジカルに学ぶことができます。
いわばその分野のエキスパートとなるための学習スタイルと言えるでしょう。
専門学校がこのスタイルを取っているのはご存じの通りです。
また、この学習スタイルは効率的に全体を学ぶことができますから、複数分野を短期間で学習することにも向き、その結果ゼネラリストの育成にも活用できるというメリットがあります。
初等~中等教育の現場はだからこのスタイルなわけですね。
しかしこの『コース料理型』学習には、当然弱点(デメリット)も存在します。
「学ぶ(情報)量が多い」という特性に起因するデメリットが。
短期間で集中的に多くのことを学ぶこの学習スタイルは、どうしても「詰め込み」になりやすく、消化不良に陥るリスクが常につきまといます。
その結果、「中途半端で浅い知識・スキルで終わる」か、「忘却または練習不足で歯抜けの知識・スキルになってしまう」ケースがどうしても出てきます。
「それは教える側と教わる側に問題があるからで、それを工夫しないと」という意見ももっともです。
しかしそれだけではカバーできない、構造的欠陥がこの学習スタイルにあるのも事実です。
まず、「必要のないことまで学んでしまう」という非効率性です。
あらかじめ決められたコース料理ですから、自分の嫌いな一皿があったりします。もちろん本当の料理では事前にお店と相談して内容を変えることも可能ですが、学習においてはそうしたカスタマイズは不可能です。
そしてもうひとつの構造的欠陥が、学習者のモチベーションを維持・向上させにくいという点です。
学習は、それを強制するだけでなく、学習者を「どう動機づけるのか」が重要です。
嫌々学んでもそれはやはり定着しませんから。
定期テスト直前の一夜漬けの知識など、あっという間に消滅しませんでしたか?(笑)
「いずれ必要になる」だけでは学習者を動機づけることはできないのです。
さて、こうした『コース料理型』学習の構造的欠陥を補完するものとして、「必要になった時に必要なモノを学ぶ」という『アラカルト型』学習が重要になります。
社内の『自主参加型(いわゆる手挙げ式)研修』や、慶應MCCのプログラムのようなテーマを絞った『公開講座』の位置づけはまさにこの『アラカルト型』学習のひとつの形と言えるでしょう。
広義には書籍などを活用した学習もこの範疇です。
レストランや居酒屋で「コース料理ではあまり食べたくないものまで食べなくてはならないし、また量も多すぎたり少なすぎたりするから、今日はアラカルトで頼もう」という時がありませんか?
また逆に「アラカルトだと新しい発見がないから、今日はコースで頼もう」という時もあるはずです。
コース料理とアラカルト。
どちらもそれなりの良さがありますから、要はケース・バイ・ケースでの『使い分け』と、『賢い食べ方』がポイントです。
使い分けという点においては、まずは自分と自分が置かれた現状を正しく認識し、そこから自分のニーズを見極めることが大切です。
学習に置き換えれば、自分が周りから何を期待されているのかを明確にし、そして自分の知識やスキルを棚卸しした上で何を学習すべきかを考えるというステップです。
そうすればおのずとコース料理、社会人学習で言えばMBAの取得を目指すのか、またはアラカルト、慶應MCCやグロービスのような短期集中型の公開講座に参加すべきなのかが見えてくるはずです。
そしてその食し方という点でも、このふたつの学習スタイルはポイントが異なります。
まずコース料理型のMBAコースであれば、一品(財務やマーケティング等の各分野)のプライオリティを明確にすることが必要です。
「全てをまんべんなく」では消化不良や中途半端になりやすいので、コストには少し目をつぶって集中と選択を行いましょう。
そして「いつ役立つかわからない」ことにモチベーションを保つために、それを駆使して仕事をしている自分のイメージを思い浮かべ、それを書いてみましょう。
教室内でライバルを設定するのも良い。とにかくモチベーションを上げるための自分なりの工夫をしてみてください。
アラカルト型の公開講座であれば、「学んだことは翌日使う」ことがポイントです。短期的に必要だからこそアラカルトを選択したはずですから、使う場面は日常的にあるはずです。
「全6回を修了してから」と悠長なことを考えずに、すぐ使ってみましょう。最初は上手くいかなくても当たり前。講座と講座の間の1~2週間で必ず実践し、その成果とプロセスを振り返ることで、徐々に熟練します。
ぜひこれらのポイントを押さえて、実りある学びを行ってください。


さて、今回は社会人の学びを料理というメタファーで考えたわけですが、このように「メタファーを使って考える」ことで私たちは多くの気づきを得ることができます。
また「メタファーを使って伝える」ことで、経験的・直感的に相手の理解を促進させることもできます。
この『メタファーによる思考とコミュニケーション』も、ひとつの方法論として活用していただければ幸いです。

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